第75話 お疲れ様

 ギルマスの言葉を背に受けながらギルドを出る4人。陽が傾いてきた夕暮れのエイラートの街をのんびりと歩いてリズとケリーが見つけたレストランに来ると、グレイは移動魔法でエニスとマリアを迎えに領主の館に飛んでいき、2人を再びレストランに連れてきた。


 案内された個室に入るなり、


「これはいいね」

 

 と部屋をぐるっと見て席に着くグレイ。マリアもここなら気を使わなくてもいいわねとエニスの隣に座る。落ち着いた雰囲気の入り口を入ると右手は普通の広いホールになっていていくつもテーブルが並んでいる。左手は廊下に個室が並び、ホールに来ている客とは会わなくてすむ配慮になっていた。


 各自が料理を頼むとグレイがテーブルの上に報酬を置いて


「6等分する」


「私は片手剣を貰ったから報酬はいいわよ」


 マリアは報酬を辞退しようとしたが、周囲から、


「それはそれよ。報酬はちゃんと貰って」


「そうよ。私たちずっとこのやり方だから」


 リズとケリーがマリアの辞退を認めず、報酬を綺麗に6等分した。


「これでよしっと」


 グレイが分配を終えると、それを待っていた様にメンバーがそれぞれ料理を注文する。そうして注文を終えると男は酒、女性はジュースを飲み始めた。クレインは大きなグラスに注がれているエールをグイッと飲むと、


「それにしても今回のダンジョンはきつかったよな」


「そうだね。途中のモンスターハウスもそうだし、最後のボスも強かった」


 とエニス。


 リズとケリーも2人の言葉にうんうんと頷いて、そしてケリーが


「ギルドでも言ったんだけどさ、あのダンジョンは並みの冒険者が挑戦したら全滅するってね」


「それでギルドとしてはどうするつもりなんだい?」


「立ち入り禁止ダンジョンにする方向らしい。それで俺たちには定期的に中の様子を見てくれと頼まれた」


 グレイがエニスに答えていうと、そうなるよなと頷くエニス。


「どうして立ち入り禁止にするのに定期的に中の様子を見る必要があるの?」


 前菜を食べているマリアが顔を上げてテーブルに座っているメンバーを見る。


「それはね。稀にダンジョン内の魔獣が溢れ出して外に出てきたり、ダンジョンの難易度が知らないうちに変わったりすることがあるからだよ」


 エニスが隣に座っているマリアを向いて説明をする。


「そんなことがあるんだ」


「本当に稀だけどね。魔王がいた時はそう言うことがあったのよ。今は魔王がいないから大丈夫だとは思うけれども、それでも注意しておかないとね」


 ケリーが言うとわかったという表情になったマリア。


「ダンジョンの仕組みは未だによくわかっていないことが多い。謎だらけなんだよ。中に森や川、太陽まである層もあるし、何故か宝箱が落ちていたりとかね。この謎が解明されるまではギルドや俺達の様な冒険者ができるだけ管理していこうという方針になってるんだよ」


 エニスの言葉に続けてグレイがマリアに説明する。そして続けて


「ただ言えることは、そんな謎だらけのダンジョンでもそこにいる魔獣は俺達を殺しにきているということだ。どんなダンジョンでもこれは変わらない。敵対心むき出しでやってくる」


「だからダンジョンの管理は必要なのよね」


 ケリーの言葉に頷く他のメンバー。


 メインの料理が運ばれてくると会話は中断して皆料理に手を伸ばす。


「美味しいな。ルサイルでもこれほどの味を出すレストランはそうはないぜ」


「エイラートでもここは高級店なのよ、だからね。本当に美味しいもの」


 料理を食べているクレインとケリーが感想を述べると皆んなも美味い美味いと言いながらナイフとフォークを使って目の前の料理を食べていく。


「クレイン、今度はいつ頃時間が取れそうなの?」


 テーブルにフォークとナイフを置くとリズがクレインに聞く。リズは普段からあまり発言をするタイプではないが、つまらないのではなくリズが十分楽しんでいるのは付き合いの長いメンバーは皆知っていた。現に食事中もニコニコしながら皆の話を聞いて、料理を楽しんでいる。そうしてたまにこんな風に自分から話題を振ったりするのだ。


 戦闘中も一番後ろからメンバーの状態を見ては回復、治癒魔法、強化魔法を絶妙のタイミングでかけてくるし、メンバーの状態もグレイと同じくらいに見ている。シャイに見えるが実は極めて優秀な僧侶で冒険者であることは間違いない。学院の教師をやるケリーとは性格が正反対だが、だからこそウマが合うんだろう。ケリーとリズは本当に仲が良い。


 グレイと一緒になってからはグレイの好きにさせながら実は手綱を握っているのはリズだろうというのはグレイ以外のメンバーの共通の認識だった。


「まだわからないが2ヶ月位先かな。1日の休みはそれなりにあるんだけどな」


 そこまで言って料理を口に運んでから、


「1日でも休みがあるとソロで郊外のランクAを討伐してるんだ。だから焦らずにスキル上げするよ」


 そうしてメインの料理を食べ終えると各自食後のデザートやフルーツを注文する。ケリーとリズはお互いが注文したデザートを交換しているとそこにマリアが入ってきて女性3人でワイワイ言いながらデザートを食べている。その姿からはついさっきダンジョンボスを攻略してきた凄腕の冒険者には全く見えない。


 エニスとクレイン、グレイの3人は女性陣とは別に真面目な話をしていた。


「なるほど。スラムの再開発か。うちの王都でもスラムは問題になってるんだよ」


 エニスの話を聞いていたクレイン。


「それにしてもグレイ、お前スラムの顔役連中からも恐れられてるんだな」


「よしてくれよ」


 グレイは苦笑し、


「あいつらは問題はあるが、先を読む目には長けている。仮に今あいつらを叩きのめしたところですぐに別の連中がやってくるだろう。いたちごっこになるのは明らかだ。今回の件はエイラートの街に取っても悪い話じゃない。エニスはよくやったよ」


「いや、俺じゃなくてやっぱりグレイだよ」


「ところで話しは進んでるのかい?」


 グレイがエニスに進捗具合を尋ねると、大きく頷いて


「スラム側が協力的でね。思いの外順調に進んでいる。市民権の件も受付を開始したし2年もすればあの辺りの風景はガラッと変わるだろう」


 領主として街の治安がよくなるのは市民に取っていいことだし、清濁合わせ飲むことができるエニスはうまくやっていくだろうとグレイは思っている。


 そうして食事が終わるとグレイはまずはエニスとマリアを領主の館に送り届け、それからクレインをルサイルの王都に送った。


「また連絡するよ」


「こっちはいつでもOKだ。待ってる」


 簡単な挨拶をしてクレインと別れてエイラートに戻ってきたグレイ。


待っていたリズとケリーと3人で店を出るとエイラートの商業街をのんびりと歩く。


「ケリーもこれから学院の授業で忙しくなるんだろう?」


「平日だけね。週末は空いてるからスキル上げに付き合うわよ」


「そりゃ助かるな」


「そうね」


 途中でケリーと別れて自宅に戻ってきたグレイとリズ。グレイがリビングのソファにどんと腰を落とすと、その隣にリズがゆっくりと腰掛けてグレイの顔を覗き込み、


「疲れた?」


「ああ。ボス戦はやっぱり気を使う。こっちのスキルが上がってると言っても

一つ間違うと大事故になるからな」


「でも、グレイの作戦で上手く行ったよね。流石だよ」


「ありがと」


 礼を言われたリズはグレイにジュースでもと思ってキッチンに出向いて、ジュースをグラスに入れてリビングに戻ってくると、既にグレイはソファに座ったまま寝息を立てていた。


(皆んなの前ではこんな姿はめったに見せないよね。いつも周りに気を使って、

皆の状態を気にしていて。ここはグレイと私の家。気を使わずにゆっくりと休んで)


 リズは寝息を立てているグレイの顔を見ながらグレイに飲ませるつもりだったジュースをゆっくり口に運んだ。


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