第74話 ケルベロス

「ケルベロス」


 ケルベロスは体長は10メートル程。四つ足の胴体に3つの長い首を持つNMだ。首の先には頭が3つあり、それぞれの頭からは火を噴いて敵を攻撃する


「グレイ」


 ケリーに言われるまでもなく、ケルベロスを見た瞬間にグレイの作戦は決まった。


「俺が先に飛んで3つの首の注意を引く。クレインは中央の首のタゲをとってくれ。エニスとマリアは前足に攻撃を。ケリーは中央の首に精霊を打ってくれ。 中央、左、右の順で首を倒していくぞ」


「グレイは?」


 リズが心配そうに言うと、


「俺は空から左右の首のタゲをキープする」


 リズが全員に強化魔法をかける間に、


「火を噴くから気を付けて。火はもちろんだが足の蹴りの威力も相当だぞ」


「わかってる。それよりグレイ、無理すんなよ」


 エニスに言われて片手を上げて答えるグレイ。


「じゃあ、いくぞ!」


 そう言うとグレイがその場で浮遊して広場の中央に近づいていく。グレイを見つけたケルベロスがその3つの首を持ち上げる前にグレイの手から精霊魔法が飛んで左の頭に命中した。


 そのタイミングでクレインが広場に走り出て中央の頭に挑発スキルを発動すると、中央の首がクレインに向けられる。クレインは盾で身を隠す様にしながら口から吐かれる炎に対処し、クレインの後ろにたったケリーが開幕から大きい精霊魔法を真ん中の頭にぶつける。


 戦闘は3箇所で同時並行で行われていた。


 エニスとマリアはクレインとグレイがタゲを取っている間にケルベロスの左前足の場所に着くと、剣をその足に斬りつける。足が動くたびに2人はうまく交わして、そうして再び足の同じ場所に剣で攻撃していく。


 一方グレイは空を飛びながら左右の頭、口から噴かれる炎を交わしながら精霊魔法を左右の頭にぶつけてタゲをキープしていた。


「グレイ、行けるなら合わせて!」

 

 ケリーがそう叫ぶと弱体魔法を打って、その後精霊魔法を中央の頭にぶつける。全く同じタイミングでグレイが見事に精霊魔法を着弾させると中央の首が大きくのけぞって、そのまま首が床の上に落ちた。


 その瞬間を逃さずにエニスが首から頭を綺麗に剣で分断する。


「まず1つ」


 そう言うとクレインは今度は左の首に挑発スキルをぶつける。


 するとその左の首がクレインの方を向いて口から火を噴き出した。


「しっかし熱いぜ、これは」


 クレインが盾で火を防ぎながらボヤくのを聞きながらその背後からケリーが精霊魔法を頭にぶつける。リズが直ぐに背後からクレインに回復魔法、治癒魔法を掛ける。


 グレイは右の首に精霊魔法を打ってタゲを取りながら、ケリーの魔法に合わせて精霊魔法を打って大きなダメージを与えると、左の首がゆっくりと床の上に落ちてきた。


「2つ目!」


 エニスが叫びながら2つ目の首と頭を切り裂くと、残り1つになった頭にクレインが挑発。


 ケルベロスが火を噴こうとするとその口にケリーの水の精霊魔法が直撃して炎を止める


「ケリー、ナイスだ」


「ありがと」


 そのタイミングでエニスとマリアが攻撃をしていた左前足が大きく切り裂かれ、ケルベロスは重心を崩して前足が膝をつく様に倒れ込んできた。


 その動きに合わせて首が前に垂れてきたのを見逃さずにエニスがジャンプして剣を一閃、首と頭とを綺麗に切断すると巨体のケルベロスの身体が一瞬震え、そうしてぐったりとなっていった。


「相変わらずいやらしい魔獣だよな」


 光の粒になって消えかかっているケルベロスを見ながらエニス。


「硬かったわ。剣が何度か弾かれちゃったわ」


 荒い息をしているマリア。


「厄介な魔獣だよ。硬いし火を噴く。その火を避けながら精霊で削っていくのが基本なんだけどな。まぁ、エニスとマリアなら物理攻撃でも削れるだろうと思ってたけどさ。マリアの剣捌きも見事だったよ」


 グレイはそう言うと、消えたケルベロスに変わって現れた宝箱を開け、中にあった金貨や革、魔石をアイテムボックスに収納していく。


「この片手剣、なかなかの業物だけどマリアが使うかい?」


 グレイが宝箱の奥から1本の片手剣を取り出して皆に見せる。


「ほぅ。これは…なかなかのが出てきたね」


 剣を見たエニスが言うと、クレインも剣を見ながら


「滅多に見ない業物だ。マリア、貰っておけよ」


「えっ!? 私が貰ってもいいの?」


「もちろん、マリアが今使っている剣も悪くないけど、この剣はそれよりも数段上のクラスの剣だ。マリアが使ってくれたら今後俺達も楽になる」


 グレイの言葉が決めてになって。そのまま剣を手に取るマリア。そうして軽く振ってみたり、顔の前に剣をかざしてみたりして、


「すごく振りやすいわ」


「よかったじゃない。これでまた攻略が楽になるわね」


 ケリーが喜んでいるマリアを見ながら言う。


 マリア以外の元勇者パーティのメンバーは魔王討伐の過程に於いてこの世に2つと存在しないクラスの武器や盾を入手しており大抵の装備は自分たちが今使っているものより下のクラスの物になっていた。


「ありがとう。ありがとう」


 マリアのお礼に全員が頷くと、宝箱の中にあったアイテムや金貨を自分のアイテムボックスに収納したグレイの掛け声で全員がダンジョンの最下層から地上に戻っていった。


 まだ陽が高い場所にあり、ダンジョンの周囲の草は明るい陽の下で微風に揺れている。


「一旦エイラートに戻るか。夜はどうする?」


 グレイの言葉にリズが、


「ケリーとこの前いいレストラン見つけたの。個室になっていて周囲を気にしなくてもいいの。そこでご飯を食べない?」


「もちろん、味もいけてるわよ」


 ケリーがリズの言葉に続ける。


「じゃあそこにしよう。グレイ、悪いけど一旦屋敷に送ってくれるかい?」


「わかった」


 そうして全員エイラートに戻ると、エニスとマリアを屋敷に送り、残り4人はギルドの扉を開けて中に入っていった。


 夕刻にはまだ少し早い時間帯のギルドの中は人も少なく、カウンターに立つと


「ギルマスと話をしたいんだが」


 グレイの言葉に受付嬢が奥に消え、すぐに戻ってくると一行をギルドの奥の会議室に案内した。


 すぐにギルマスのリチャードが部屋に入ってきた。


「クレインも久しぶりだな」


「ギルマスも元気そうじゃない」


 そうしてまずはテーブルの上にダンジョンの宝箱から出てきたアイテムを取り出し、査定を依頼する。テーブルの上のアイテムを見たギルマスはその視線を上げてグレイを見ると、


「ダンジョンボスはケルベロスだったのか」


「硬くていやらしい魔獣だよな」


「そう言いながらお前さん達は倒してくるんだよな」

 

 テーブルの上のアイテム、魔石をギルド職員に渡すと、査定を待っている間にダンジョンの報告をするグレイ。


 黙って聞いていたギルマスはグレイの話が終わると、


「聞いてる限りじゃランクSクラスでないとボスが攻略できない難易度じゃないか」


 ケリーがギルマスを見て、


「途中でモンスターハウスがあった時点で並みの冒険者なら途中で全滅するわね。今は立ち入り禁止になっているけど、開放するなら難易度とランクに応じた攻略可能フロアを周知徹底した方がいいわね」


 ダンジョンについてはギルドにて冒険者からの情報をもとにランク付けをして発表している。ただ、今回のダンジョンは今まで見つかっているダンジョンと比して相当レベルが高いと目の前の元勇者パーティの連中が報告している。


 ギルマスは目の前の連中の話しを聞いたあとで、


「最終決定は王国のギルドが合意した後で発表されるが、これは建前で実際はそのダンジョンを管理しているギルドの意見が大抵採用される。

お前さん達の話を聞いている限りそのダンジョンの開放は勧められないな。立ち入り禁止ダンジョンとして報告をあげる」


「それがいいと思う」


 ギルマスの発言に頷くグレイ。


「立ち入り禁止は発表するがお前さん達は別だ。悪いが定期的にそのダンジョンを覗いて様子を見てきてくれ」


「わかった。当然だな」


 ダンジョンは生きていると言われていて、稀に中の魔獣のレベルが上下に変動することがある。しょっちゅう冒険者が挑戦するダンジョンは常に情報が更新されるが、放置ダンジョンの場合にはその状態を把握する必要があるのだ。


 そうしてダンジョンの報告が終わると査定が終わって報酬を持ってくるまでの間、ギルマスとメンバーとの雑談になり、


「クレイン、ルサイルの冒険者はどんな感じだい?」


「基本ここと変わらないな。ランクAの奴らのレベルはこっちと同じくらいだ。皆クエストやらダンジョン攻略で生計を立ててるよ」


「ルサイルも質の高い冒険者がいると聞いている。お互いに魔王が倒されても慢心してない様でなによりだ」


 ギルマスのリチャードが言うと、


「グレイ、リズ、そしてケリーのスキル開放は俺の国でも大きな話題になった。うちの国の冒険者のモチベが上がってるのはここにいる3人のおかげだよ」


「そう言うクレインもそろそろナイトでスキルアップするんじゃないのか?」


「だといいがな」


 ギルマスとクレインが話しをしていると査定が終わった職員が金貨を大量に持ってきた。それを受け取ると、


「じゃあ世話になった」


 クレインの言葉でグレイとリズ、ケリーも立ち上がる。


「いつでも来てくれよ、クレイン」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る