第73話 クレインのスキル上げ その2

 外に出ると陽が西に大きく傾いていてきつい夕日がダンジョンのある草原を黄色に染めている。一行はそのままグレイの移動魔法でエイラートの街に戻っていった。


 野営という選択肢もあったが、グレイの魔法で移動時間のロスがないので一度エイラートの街に戻ってゆっくりと休んだ方がいいだろうと言うことになり、エイラートに戻った一行は貸切としたグレイのBARで夕食を取る。


「明日はダンジョンボス戦ね」


 リズの作った夕食を美味しいと言って口に運んだケリーが言うと、


「恐らくそうだろうな。25層位がボス部屋だろう」


「そんな感じだね」


 グレイの言葉にエニスが同意する。


「いずれにしてもあのダンジョンはランクAでも攻略が厳しいからギルドが立ち入り禁止にしているのは正解ね」


「やっぱりこの前クリアしたダンジョンよりも今回の方が難しいの?」


 ケリーの言葉にマリアが質問する。


「難易度は今日のダンジョンの方が高いわね。モンスターハウスとかめったに無いもの」


 質問に答えるケリー。グレイがその後を続け、


「マリアはまだダンジョン2つ目だけどさ、ダンジョンって本当に難易度がバラバラなんだよ。最下層でもランクCクラスやランクBクラスのダンジョンもあるし、ランクSやそれ以上の魔獣がうじゃうじゃといるダンジョンもある」


「だからそれぞれのランクの冒険者達が身の丈にあったダンジョンに潜る様にギルドとしては勧めているのね」


「そういうこと」


 元勇者パーティなら挑戦できないダンジョンはないだろう。しかしランクBクラスの冒険者だとダンジョンを間違えるとそれは自分たちの死に直結する。


 従い各都市のギルドはダンジョンにランクをつけ、冒険者に事前に告知することにより事故を少しでも下げる様にしている。


 そしてそのダンジョンのランク付けだが、本来であれば誰も挑戦したことがないダジョンに潜るのは相当にリスクが高く、各都市のギルドは新しいダンジョンのランク付けのためにランクAの冒険者達の指名クエストとして高額な報酬と引き換えに新しいダジョンの調査を依頼する。そうしてその調査結果をもとにダンジョンにランクをつけて突入するランクを制限しているのが実態だ。


 ただ、元勇者パーティだけは別格だ。魔王を倒しているこのメンバーに取ってはダンジョンのランクは意味がない。自分たちが攻略できないダンジョンはないからだ。


 グレイのBARで夕食をとった一行。明日も朝から移動するので早めにお開きになり各自自宅や宿に戻っていった。


 そして翌日、ダンジョンの前に飛んだ一行は入り口で準備運動をすると、そのまま23層に飛んでいく。


「ランクSしか見えないな」


「最深部が近いってことだな」


 グレイとクレインがやりとりをしている間にリズが全員に強化魔法を掛ける。


「グレイ、今までと同じ様でいいんだよな」


「ああ。クレイン先頭で、エニス、マリアで。後衛はその後に続こう」


 エニスは頷くと、さぁ行こうかと声を出し、それをきっかけにクレインを先頭に23層の攻略をスタートさせた。


 ランクSの魔獣がたむろしているがクレインが挑発スキルで引き寄せてガッチリとタゲを取ると、その横からエニスとマリアが剣で攻撃し、敵対心を考える必要がなくなったケリーが精霊魔法を撃ち込んで倒していく。


 複数体いるときは1体をクレインが、もう1体をエニスとマリアが受け持ち、グレイとケリーが背後から精霊魔法で削るというスタイルで危なげなくランクSの魔獣を討伐していく。マリアもすっかり慣れて元勇者パーティと見事な連携を見せてくれる。


「前に4体いる。2体頼む。残り2体は俺とケリーがスリプルで寝かせて管理するから2体倒してから残り2体をよろしく」


 グレイのその言葉だけでクレインとエニスはそれぞれ1体ずつを受け持ってタゲを取り、グレイとケリーが残り2体を寝かせるとそれぞれクレインとエニス、マリアが対峙している魔獣に精霊魔法を打ち込んでいく。そうして倒すと寝かせていた残り2体に同じ様に剣と魔法で攻撃を加える。


 リズは前衛組の戦闘を見ながら回復や強化の掛け直しなど無駄のない動きでフォローしている。

 

 危なげなく4体を倒し、


「いい感じだ」


「この調子でどんどん行こう」


 フロアにゴロゴロとしている岩陰を利用しながら一行は順調に攻略をしてそのまま24層に降りる階段を見つけた。


 階段の途中から24層を見ると、23層と同じ作りだが空にワイバーンが火を噴きながら飛んでいる。


「ワイバーンは俺がやるよ」


「そうだな。グレイが空から倒すのがいいだろう」


 クレインが同意し、そして


「他のメンバーは今まで通りでいいよな?」


 その言葉に頷くグレイ。


「みんなは地上の魔獣に専念してくれ。ケリー、精霊と寝かせをよろしく」


「ばっちりよ」


「リズは強化を俺以外のメンバーに」


「わかった」


 短いやりとりだが、それだけで意思の疎通ができるほどの関係なのでこれ以上の細かい打ち合わせは不要だ。


 そうしてクレインを先頭に24層に踏み出していくと、グレイは最後尾からパーティについていき、 そうして浮遊すると地上で戦っているメンバーを見ながら、そこに近づいてくるワイバーンを精霊魔法で倒しては地面に落とす。


 途中の岩場で短時間休憩しては前進し、大きなトラブルもなく25層に降りる階段を見つけた。


 その階段を降りてみると、予想通りそこには魔獣はいなくてその代わりに大きな門が一行の前にその行く手を阻む様に立っていた。



「最下層、ボス部屋か」


 エニスが門を見上げながら言う。


「さてと、どんなボスが待ってるか、楽しみだぜ」


 クレインは早くボス戦をしたくて仕方がない様子だ。


 ボス部屋の前でしっかりと休息を取り、


「そろそろ行くか」


 グレイの声で全員立ち上がると、エニスが大きな門を押し開いて中に入っていく。後に続いて全員が部屋に入ると大きな音がして扉がきっちりと閉まった。

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