第72話 クレインのスキル上げ その1

 ルサイル王国のクレインから来週末に2日間連続で休みが取れそうだとの連絡が来た。


 ケリーは週末はOKと言い、エニスに聞くとスラムの件はもう下の連中に任せたからこっちも大丈夫だとの返事。


 そうして週末になってグレイが移動魔法でクレインをルサイルの王都からエイラートに連れ来た。


 マリアも入れた6人は早速挑戦中のダンジョンに向かう。


「単発の休暇はあるんだけどよ、なかなか2日連続が取れなくてな、遅くなっちまったよ」


 ダンジョンの近くで軽く身体を動かしながらクレインが言うと、


「クレイン抜きでダンジョン攻略はしていないから大丈夫だよ。こっちも最近までバタバタとしていたし」


 エニスも同じ様に身体を動かながら答える。


「じゃあ行くか。今日は18層からだ」


 グレイの言葉で全員がダンジョンの入り口から18層に飛ぶ。


 そこは17層の火山ではなくて再び洞窟ダンジョンになっている。


「ランクAもいるが、ランクSが多くなってる感じだ」


 気配感知で周囲の魔獣の気配を調べているグレイが言う間にリズがパーティメンバーに強化魔法をかけていく。


 そうしてクレインを先頭に18層の攻略を開始するメンバー。


クレイン、エニス、マリア、ケリー、リズ、最後尾にグレイと6人が縦に並んで洞窟を進んでいく。


 途中で会う魔獣はクレインがガッチリとタゲを取りエニスとマリア、時にはケリーが倒しながら進んでいく。


 そうやって18、19層とクリアして20層に降りると、


「ランクAが消えた。ここからはランクSばかりだ」


「グレイ、クレインに魔法の威力を見せてあげる?」


 ケリーが悪戯っぽくいうと、グレイも


「そうするか」


「おいおい、何か楽しそうじゃないかよ」


 クレインがケリーに顔を向けるが


「見てのお楽しみね」


 とだけ言う。エニスとマリア、リズの3人はニヤニヤしながらクレインとケリー、グレイのやりとりを聞いている。


「じゃあ、ランクSが1体通路の先にいるからクレインが挑発でタゲを取ってくれよ」


「わかった」


 クレインはゆっくりと近づくと挑発スキルでランクSの魔獣を釣る。近づいてきた魔獣を盾でガッチリ受け止めると、同時にケリーが弱体魔法を詠唱し、続けて精霊魔法を魔獣に向けて発動させた。全く同じタイミングでグレイも精霊魔法を撃ち、同時に魔獣に着弾すると、クレインの目の前で魔獣が爆発した様に粉々に砕け散っていった。


「何だこりゃ? えげつないじゃないかよ」


 びっくりして後ろを振り返るクレイン。


「今のがケリーの新しいスキルだ。弱体魔法を撃ってその後に精霊魔法を撃つとその精霊魔法の効果が増大される」


 そこまでグレイが言うと、ケリーが続けて、


「グレイがね、私の魔法と同じタイミングで精霊魔法を着弾させたの。つまり2つの精霊魔法が弱体魔法の効果を受けて威力増大になったって訳」


 話を聞いていたクレインは目をパチクリさせて、


「弱体と精霊で効果アップってのはわかったけどよ、グレイ、お前ケリーの魔法と同時に着弾させたのかよ」


「ああ。ケリーとは長い付き合いだ。タイミングはわかってるから合わせるのは難しくないな」


「いや、そうあっさりと言うなよ。これってかなりの高等技術だぜ。そうだろ?」


 後ろでニヤニヤとしていた3人に視線を向けるクレイン。


「クレインも知ってるだろ?グレイだぜ、グレイ。とんでもないことを当たり前の様にやってしまうのは今に始まったことじゃないって」


 エニスが前に出てきてクレインの肩を叩いて言うと、


「わかってる、わかってるけどよ。久しぶりに見ておったまげたよ。全くグレイは全然変わってないよな」


「グレイとケリーはクレインにこれを見せたかったのよ。きっとびっくりするだろうと思ってね」


 リズの言葉にマリアも続け、


「私も最初見た時は本当にびっくりしたわよ。無詠唱の魔法に合わせて同時に着弾させるなんて王都の最高ランクの魔法士でも無理なんじゃない?」


 その言葉にクレインもうんうんと頷いて、


「俺の国にもこんな馬鹿げたことを普通にやる奴はいないぜ」


「まぁ、これで討伐が楽になるだろ?」


「まったく涼しい顔してるよな、グレイ」


 その後は普通にランクS単体をクレインとマリア、エニス、そしてケリーで討伐しながらフロアを進み、そのまま21層に降りていった。


「今度は地下空間かよ」


 6人の目の前には地下空間の様なだだっ広い空間が広がっている。


 柱もなければ通路もない。洞窟の中の広い空間の地面はでこぼこしていて、所々に大きな岩が転がってる。そして階段から見えるところでもランクSの魔獣が2、3体固まっている。


「身を隠せそうな場所がないな」


 広場を一瞥したクレインが呟く。


「大きな岩の陰を利用しながらほぼノンストップで奥に進軍することになりそうだ。みんな、休憩して食糧と水を補給して休んでから攻略しよう」


 グレイの言葉に皆階段で思い思いに座るとアイテムボックスから水や食料を取り出してしばしの休憩を取る。


 「グレイ、このダンジョンもそろそろ最深部に近づいて来ている感じだよな」


 水を飲み終えたエニスが振り返って言う。


「そろそろだろう。俺も最深部に近づいてると思うよ」


「ランクSが固まって出てきてるしね」


 エニスとグレイはそうやって会話をしているが他のメンバーは本当にリラックスしている。ケリーとリズはお菓子を交換しあったりしながら女同士の話で盛り上がっているし、クレインは大きな口を開けてパンをかじりながら水を飲んでいる。


 その光景を見てマリアが、


「本当に皆オンとオフの切り替えが凄いのね。ダンジョンの中でも完全に力を抜いてリラックスしてるし」


 そう言うと、クレインが水筒の水を飲んでマリアの方を向き、


「ここは安全地帯だからな。それにずっと緊張してたら疲れてしまっていざと言う時にミスをしてしまう。マリアは騎士の時の話と比較してると思うけどさ、俺も今ルサイルの騎士団で時々遠征なんかにも行くが、そん時の休憩ってさ、実際はテントの中で作戦会議したり報告したりしてほとんど休めないんだよな」


 そうそうと肯くマリア。


「その点冒険者ってのは全て自己責任だからな。気持ちの切り替えがうまいやつじゃないと生き残れない」


 時間の感覚すらなくなるダンジョンの中。いつ魔獣と遭遇するかわからない中に何時間もいるんだからずっと緊張ばかりしていると身体がもたない。


「確かにそうね。ずっと緊張してたら身がもたないわ」


 クレインとマリアのやりとりが終わったところで


「じゃあ行くか」


 グレイの声で全員が装備を身につけて戦闘準備をする。そうして21層の攻略を開始した。


 岩陰伝いにフロアを進み、出会う魔獣を確実に討伐していく一行。


 複数体の敵を相手にケリーの範囲魔法からエニス、マリア、そしてケリーとグレイゆっくりとながら確実にフロアを進んでいく。


 そうして時間をかけて21層をクリアし、階段を降りて22層を見ると、


「やっぱり同じ造りだ。ただ敵の数が増えているみたいだ」


 そうしてグレイはメンバーを見て


「休憩はいるかい?」


 その言葉に全員首を横に振る。


「じゃあ行くか」


 クレインを先頭に22層の攻略を開始。


「こりゃ本当いいスキル上げになるぜ」


 クレインがガッチリとランクSの魔獣のタゲを取り、盾で敵を食い止めている間にエニスとマリアやケリー、そしてグレイが個別撃破していく。


 そうして22層をクリアしたところで


「お疲れさん、今日はここまでにしておこう」


 グレイの言葉で全員地上に戻っていった。

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