第68話 クレインとダンジョン攻略 その3
翌朝再びダンジョンに飛んだ6人、入り口から14層に飛ぶと攻略を開始する。
相変わらずの洞窟のフロアだ。自分が何層にいるのかわからなくなるほど、どのフロアも似た様な作りになっている。
そんな中クレインは対峙するランクAの魔獣のタゲを取ってガッチリ受け止めると
エニスとマリア、そしてケリーがその魔獣を倒していく。
ランクAならエニスの剣でほとんど倒れるので敢えてマリアに剣を振らせているエニス。
ケリーの精霊もランクA相手だと抑え気味だ。
そうして14層、15層とクリアして16層に降りると景色が一変した。
「火山の中だ」
「これは暑いぞ」
クレインとエニスが口々にいう中、グレイが
「そしてランクAとランクSが混ざってきた」
その言葉で全員の気が引き締まる。
16層は火山の中の様な作りになっていて煮えたぎるマグマの中を幅3メートル程の岩の通路が奥に続いている。
そしてその通路にいる魔獣のランクはAとSだ。
状況を見て瞬時にグレイがメンバーに指示を出す。
「クレインが先頭、次にエニス、マリア、ケリーの順で。リズは強化魔法を切らさない様に頼む。俺以外の全員にかけてくれ。高ランクのタゲをクレインが、エニスは低ランクを頼む」
メンバーはグレイの指示を聞きながら各自アイテムボックスから取り出した水を飲んでいる。
グレイも水を飲んで話を続ける。
「ここからは確認できないが、もし空から魔獣が襲ってきた場合には俺が対処するので皆は通路の魔獣に集中してくれ」
大まかな方針を決めると、リズの強化魔法をきっかけにフロアの進軍を始める一行。
通路の幅が狭いのでせいぜい2人が並べる程度。ただ、そうすると剣が振れなくなるのでクレインが前でランクSのタゲを取り、エニスはランクAに剣を振ってタゲを取ると下がってからマリアと2人で攻撃する。
ケリーはナイトのクレインがガッチリとタゲをキープしていることと、自分の精霊魔法の敵対心が大幅に減少しているのを利用して最初から威力の大きい精霊魔法を打ち込んでいくがタゲがブレない。
ケリーとクレインの戦闘を見ながら背後からグレイも精霊魔法でサポートする。
そうしてほぼ同時にランクAとランクSを討伐した。
そのままマグマの上の通路を奥に進んでいくとランクAがメインだが、時折ランクSも通路上に現れてこちらに向かってくるが、クレインが巧みな盾捌きとスキルで常にがっちりとタゲをキープする。
「流石にクレインだ。安定している」
剣で魔獣を切り裂きながらエニスが叫ぶとケリーも
「私も安心して精霊が打てるわ」
ケリーの精霊であっという間にランクSを討伐して通路を進んでいく。
そうして出てくる魔獣を退治しながら火山の中の様な通路を奥に進んでいく一行。
「次は1体だ。クレインとケリーで倒してくれ。その間に他のメンバーは水分補給を」
背後からグレイの指示が飛ぶとその指示通りに2人が討伐している間にしっかりと残りの4人が水分補給をとる。
「今度はエニスとマリアで倒してくれ。クレインとケリーは水分補給を」
交代で水分補給をとりながら16層をクリアした一行。階段を降りて17層に降りると、
「予想はしていたがな」
「ええ。2連続で火山ね」
再び火山の中の様なフロアの17層。ただし16層に比べてランクSの魔獣が多くなっている様に見える。
「基本同じ攻略だよね?」
「そうだな」
エニスの問いにグレイが答え、そして、
「このフロアは間違いなく空飛ぶ魔獣がいるだろう。それは俺がやるから皆は地上の魔獣を頼む」
しっかり休憩をしてから17層の攻略を開始する。同じ様な通路を進んでいくと、ランクSが2体通路を塞ぐ様に立っていて、こちらを見つけると並びながら襲ってきた。
クレインは突っ込んでくる右側の魔獣のタゲを取って盾でしっかりと受け止める。
エニスは左側からくる魔獣に剣を振るいそちらのタゲを取る。
背後からリズの強化魔法と回復魔法が絶え間なく戦闘をしている3人にかけられる中グレイは空から2体の魔獣に精霊魔法を撃ち込んで削りに参加していた。
そうして進んでいくと、
「ワイバーンだ」
前を歩くクレインが声を上げる。
「俺がやる」
そう言って浮遊したグレイはワイバーンに近づくと浮いたまま精霊魔法を撃ち込んだ。
火を吐く前に精霊魔法をぶつけられたワイバーンはそのまま地面に落ちていき、
そこにエニスとマリアの剣が撃ち込まれてワイバーンを討伐する。
「いいコンビネーションだ」
「この前のダンジョンで経験してるからね」
流れ作業の様にワイバーンを倒すのをみてクレインがいうと、エニスが止めを刺してからクレインを向いて答える。
「なるほど。それにしても火を吐く前に落とせるとこのワイバーンも雑魚だな」
その後も地上の魔獣はクレインとケリーで、エニスとマリアはワイバーンがいる時はそちらを優先にして危なげなくフロアを攻略して18層に降りる階段を見つけた。
階段の安全地帯から見る18層は再び洞窟型のフロアで、奥にむかって幅の広い
通路が伸びている。
「今回はここまでにしとくか」
グレイの言葉に皆頷くと石板に記録をして地上に戻っていった。
「もう夕方だったか」
「本当にダンジョンにいると時間の感覚がおかしくなるわね」
エニスとマリアが外の景色を見ながら言葉を交わしている。
「クレイン。次クレインが来るまでこのダンジョンは攻略しないから。待ってるぞ」
グレイがクレインに話かけると、グレイを向き、
「ありがたい。次の予定が決まったらまた連絡を入れるからそん時はよろしく頼む」
クレインの言葉に頷くグレイ、そうして移動魔法で一旦エイラートに戻ると
「皆、世話になった。また来るのでよろしく」
最後にそう挨拶をしたクレインをグレイがルサイルまで送って、再びエイラートに戻るとエニスとマリアを館まで送り、そうしてケリーとリズと3人で夕方のエイラートの大通りを歩いてギルドに向かう。
扉を開けてギルドの中に入ると、夕方のピークの時間は過ぎていたので受付は空いていたが、今日の稼ぎを得た冒険者達が受付横の酒場に大勢集まっていた。
ギルドの中に入ってきた3人に一斉に視線が注がれ、
「グレイ、どこかに行ってたのかい?」
「ああ。新しいダンジョンに潜ってた」
その言葉に冒険者達が反応する。
「新しいダンジョン?」
「場所は?」
矢継ぎ早に聞いてくる冒険者達。新しいダンジョンに興味津々だが、
グレイは彼らを見て
「場所はここから5日程西に歩いたところにあるけど中はヤバイ。難易度の高いダンジョンだ」
「グレイ達がヤバイって言うから相当だな」
「なので今からギルドに報告さ。そのうち通知が出るだろう」
そう言って受付でギルマスに面談を求め、3人はギルマスの部屋に案内された。
そこでグレイが今攻略しているダンジョンの詳細をギルマスのリチャードに説明していく。グレイの説明にケリーとリズが補足を入れて17層までの状況を説明し終えると、
「なるほど。ランクAのモンスターハウスか。お前達以外のパーティなら全滅コースか」
「13層には絶対に手を出さない様に徹底した方がいいわ」
ケリーも強い口調でする。
「ケリーの言う通りだな」
頷くギルマス。
「領主のエニスからも冒険者が無駄死にしない様にきちんとギルドから説明してくれって言われたの」
リズも真剣な表情で状況を説明し、それを聞いたギルマスはリズに頷く。
「グレイ、ギルドとしてどういう判断を出せば良いと思う?」
「今の段階で言えるのはあのダンジョン、潜っても良いのは10層までだな。
それ以降は難易度が跳ね上がる」
「私達もまだ最深部まで行ってないけど、出来れば立ち入り禁止にして欲しいくらい」
「そうね。ちょっと腕試しっていう軽い気分で11層に降りると危ないわね」
グレイの説明の後にリズとケリーが続けるのを聞いていたギルマスのリチャード。
「ランクS、いや今はそれ以上か…のお前達が言う言葉だから間違いないだろう。
わかった。あのダンジョンは当分の間立ち入り禁止とする」
その言葉に頷く3人。
「ただ、お前達は引き続き頼む。立ち入り禁止のダンジョンの詳細はギルドとして把握しておきたいからな」
「わかった」
ダンジョンの全貌がわかった時点でギルドとして最終の決断を出すことにするという結論になった。
もちろん、その結論にグレイら3人は異存がない。
ギルマスの執務室を出て受付に戻るとそこにいた冒険者達から新しいダンジョンの話を聞かせてくれと言われ、酒場で話をする3人。
「ランクAのモンスターハウス?全滅コースじゃないかよ」
「私たちじゃ到底無理ね」
グレイの説明を聞いた冒険者達が次々と思ったことを口にしている。
「無理してあのダンジョンに挑戦する人が出ない様に皆さんも注意してあげて」
「事故があってからじゃあ遅いからね」
リズとケリーが諭す様に周囲の冒険者達に言うとわかったと頷く彼ら。
冒険者でもランクが高くなると自分の経験から無理をしてはいけない場面がわかるがランクCやあるいはランクBになったばかりの冒険者達はえてして自分の実力を勘違いしがちだ。
そう言う時は高ランクの冒険者達がフォローして低位ランクの冒険者を”教育”するのが過去からの慣しの様になっている。
従いこうして酒場でグレイらが話しをすることがギルドの冒険者の中に浸透していくのを知っているのでグレイ、リズ、ケリーも丁寧に説明する。
そうしてギルドで他の冒険者との話を終えた3人はレストランで夕食を取ってから各自の家に戻っていった。
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