第67話 クレインとダンジョン攻略 その2
11層、12層とクリアして皆階段で13層に降りていくと、階段の一番下で全員が
立ち止まった。
「これは、また…」
目の前に広がる景色を見ながらクレインが思わず声を出すと、
「モンスターハウス…」
エニスの言葉にマリアが、
「モンスターハウスって?」
「うん。目の前にある様にフロアに1部屋しかないが魔獣が密集している部屋をモンスターハウスと言うんだ。
恐らく部屋の奥に下に降りていく階段があるはずだがこの部屋の魔獣を全て倒さないと下には行けない」
マリアの問いにエニスが答える。そうして
「グレイ、どうする?」
階段からじっとモンスターハウスを見ているグレイに視線を向けたエニスに合わせる様にグレイ以外のメンバーの視線が全てグレイに注がれる。
しばらくモンスターハウスをじっと見ていたグレイ。顔をメンバーに向けると、
「2段階で攻略しよう。最初俺が単独で空からあの中にいる魔法使いと弓使いらの遠隔持ちを倒す」
そしてその後メンバーに第2段階目の攻撃方法を提案する。
グレイの説明を聞いたメンバーは皆グレイの提案に頷く。
「リズ、強化魔法は切らさずに頼む」
「うん、グレイも気をつけて」
リズの言葉に片手を上げて答えるとその場で浮遊しそして姿を消した。
「反則だろ?あれ。あのまま全部倒せるじゃないかよ」
クレインが目の前で浮いて、そしてグレイが消えた場所を見ながら言い、他のメンバーは声は出さずにクレインの言葉に頷く。
グレイ以外のメンバーが階段からモンスターハウスを見ていると、突然空から精霊魔法が撃たれ、次々と弓持ちや魔法使いの魔獣が倒れていく。
魔獣達は姿が見えないグレイにタゲを取れないまま顔をあちこちに向けている間に絶え間ない精霊魔法でモンスターハウス内の遠隔攻撃持ちの魔獣を全て倒し切った。
メンバーが待っている階段の前に浮遊したまま姿を現したグレイ、
「じゃあこれから第2段階だ」
そう言うとクレインが、
「このまま全部倒してくれよ」
「そんな疲れることは勘弁してくれよ。さぁ行くぞ!」
そう言うと今度は姿を消さずに浮遊したままモンスターの上をゆっくりと移動する。
魔獣が一斉に空にいるグレイを見つけるが、攻撃手段がないので武器を振り上げ、唸り声を上げるだけで…
そうしてグレイが浮遊したまま部屋の奥に移動していくと部屋中の魔獣がグレイの方を向き、エニスらの前には背中を向けた無防備の魔獣だらけになった。
そしてリズがメンバーに強化魔法をかけるとエニスとクレインはモンスターハウスに突っ込んでいき、背中を見せている魔獣を次々と倒し始める。
ケリーは精霊魔法を範囲化させて魔獣を倒しマリアもエニスと一緒に背後から剣で魔獣を一閃する。
グレイは浮いたまま精霊魔法で1匹ずつ魔獣を倒し、結局10分程でモンスターハウス内の魔獣を全て討伐した。
部屋の奥にある14層に降りる階段を見つけ全員で降りて14層の石盤に触れると
メンバーは地上に戻り、
「明日は14層から攻略するぞ」
そうしてメンバーはグレイの移動魔法で夕刻のダンジョンからエイラートに戻っていった。
「俺だけだったら何も考えずにあの中に突っ込んでいったよな」
「エニスだったらそうなるわね」
エニスの言葉にケリーが同意して目の前にあるジュースを口に運ぶ。
グレイのBARは今日も貸し切りだ。
酒場の入り口から順に、クレイン、マリア、エニス、ケリーと10人掛けのカウンターの中央あたりに並んで座っている4人。グレイとリズはいつもどおりカウンターの中だ。
「あの場でも言ったけどさ、グレイ1人であのモンスターハウスを全滅できたんじゃないの?」
クレインがカウンター越しに正面に立っているグレイに話かける
「何言ってるんだよ、お前さんのスキル上げだろうが。俺が全部倒してどうするよ」
クレインは以前から酒が好きだ。彼の前に置いたグラスはあっという間に空になりグレイはもう何度も彼に酒を注いでいるが注ぐ先から水を飲む様に酒を飲んでいく。
今もグレイが注いだグラスの酒をグイッと口に運ぶと、
「そりゃそうだけどさ。あんな反則技を見せつけられると、それでやっちまえよって思っちまうんだよ」
「クレインはまだパーティの時の感覚で敵を排除することを一番に考えてるからそう言う発言になるのね」
グレイの隣に立ったリズがクレインの考えを代弁するとその言葉にうなずき、
「そうなんだよな。パーティが解散になってからは騎士団での訓練しかしていないし、スキル上げって感覚がなかなか分からなくてさ。パーティの時は魔王軍相手だと勝手にスキルが上がっていっただろ?」
「それも明日になれば慣れるんじゃないの? 恐らくランクが高いのが相手になるだろうし以前のクレインの立ち位置なら自然とスキル上げになるはずだよ」
エニスが上半身をクレインに向けて話しかけると頷くクレイン。
「ところでクレイン。ルサイルの騎士団ってどんな訓練してるの?」
エニスの奥方のマリアは以前は騎士団所属だったので他国の騎士団について興味津々の様子で聞くと、
「そうだな」
そう言ってクレインがルサイルでの訓練の内容を説明するとなるほどね、とかその訓練はうちではとかマリアが今度はアル・アインの訓練を説明する。騎士同士でどんどん話が盛り上がっていった。
2人が騎士団の訓練内容で盛り上がっている中、残りの4人は今日のダンジョン攻略と明日からの攻略について話をしていた。
「モンスターハウスがあって中の魔獣が全てランクAなんていうダンジョンはそうないわよね。あのダンジョン、結構難易度が高そう」
ケリーの言葉に頷く3人。
「正直グレイの戦法じゃなかったら俺たちでも相当苦労してたよな。正面突破出来なくもないけど相当疲れたはずだよ」
エニスがモンスターハウスを思い出す様に顔を天井に向けながら言うと、
「ランクAのパーティでも無傷でクリアできないんじゃない?」
「リズの言う通り。クリアするなら全員魔導士とか全員ナイトとか”尖った”パーティじゃないと厳しいかも。でもあのフロア以外はそんな構成でクリアするフロアでもないしね」
ケリーの言葉を聞いてエニスがカウンター越しにグレイを見て、どう思う?という視線を投げてきた。
「確かに今までのダンジョンの中でも相当難易度の高いダンジョンには違いないよな。ギルドにはその辺しっかり説明しておかないと事故が起こりそうだ」
「もし魔王を討伐していた頃の俺たちのパーティだったとしたらグレイ、どうやって攻略するつもりだった?」
エニスの問いにグレイは少し考えると口を開く。
「まずエニスとクレインが階段から部屋に入って敵のヘイトを一斉に取って、その場で近づいてくる魔獣を討伐する。それから後衛3人が階段を降りてエニスとクレインの背後から精霊で倒していく。というのがオーソドックスな攻略なんだろうけど。相手の数は多いし遠隔持ちもいる。しかも全てランクAの魔獣だとなると、どんな事故でも起こりうる状況だよな」
グレイはそこまで言うと、隣のリズを見て
「リズの強化魔法が攻略の鍵だろうな。いかにダメージを食らわずに多くの敵を倒すかということになると強化魔法が重要になってくる」
グレイの分析に、そうだよねと頷く3人。
「俺たちランクSだからその戦略でいけるけど、ランクAのパーティだったらリズが言う通りかなりの確率で事故は起こるだろう」
「それほどの難易度なの?」
クレインと騎士団講義で盛り上がっていたマリアが話に参加してくる。
「そうだな。マリアに分かりやすい様に言うと騎士団と魔法師団合わせて100人を相手にこっちは騎士と魔法士合わせて10人で立ち向かうって感じだ。しかも逃げ場はない」
マリアの質問にクレインが答えると納得した様に、そりゃ全滅よと言うマリア。
「そういうこと。ランクAがあのモンスターハウスに1パーティで突っ込むとまず勝てない」
マリアの言葉に頷きながら言うクレイン。それを聞いていたエニス
「グレイ。ギルマスにはしっかりと説明をしておいてくれよ。俺としても貴重な冒険者を無駄死にさせたくはないし」
真剣な顔をしてエニスが言うのに大きく頷くグレイ。
(あのダンジョンはランクAでも攻略していいのはせいぜい10層までだ)
グレイはギルマスにはそう言おうと決めていた。
「それで明日は今日と同じ感じ?」
「出たとこ勝負の感はあるけど基本今日と同じで。あのダンジョン、意外と深いかもしれない」
「となると俺のスキル上げにはバッチリじゃないの」
グレイの言葉を聞いてクレインが嬉しそうな顔をする。
「そうなるな。がっつりスキル上げしてくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます