第66話 クレインとダンジョン攻略 その1
グレイらがオズボーンと会ってしばらくして領主のエニス一行がエイラートに戻ってきた。
そしてエニスは直ぐに魔法学院の卒業生で構成された新設のエイラート魔法師団の結団式に参加。魔法師団の連中は結団式ののち辺境領内の各地に派遣されていった。
「やっと一息ついたわよ」
結団式に参加した学院の教師でもあるケリーはグレイの酒場でいつも通りにジュースを飲みながらカウンターの中にいるグレイとリズに話しかける。
「卒業式から結団式とバタバタしてたみたいだな」
ジュースのおかわりをカウンターに置いてグレイが言うと、
「今までと違って全員就職できたからね。聞いた話だと今年の卒業式は今までに見たことがない程盛り上がったみたいよ。私は今年しか知らないからさ、毎年こんなもんかと思ってたけどどうやら違ってたみたい」
「卒業しても自分の進む道が決まってるからよね」
「そうそう、リズの言う通り」
「それで入学式までケリーも時間できたのかい?」
店の中はケリー以外にも数人の冒険者が飲みに来ていて、リズが彼らの相手をしながら時折グレイとケリーの会話に参加してくる。
「うん。冬も終わったし、新学期までの間またスキル上げに行こうかと思って。冬の間で身体が鈍っちゃってるしね」
「そうだな」
酒場でそんな話をしていた数日後、グレイの家に鳥便が届いた。
「クレインからよ!」
リズが中を開けてみると、今度の週末の2日間休暇になったのでスキル上げに行きたい。迎えに来いという内容の手紙だ。
それを見たグレイとリズはケリーとエニスに連絡を入れると二人ともOKとの返事。マリアも来るというので今回は6名だ。
「そうだな。クレインのスキル上げにダンジョンに行くか」
「そうね。楽しみ」
グレイはギルマスに話をして以前紹介してもらった攻略されていないダンジョンの場所を確認し、事前に飛んで場所を記憶する。
そうしてその週末、グレイはルサイル王国の王都近くでクレインを拾うとエイラートに戻ってきてそのままリズ、ケリーと一緒に領主のエニスの館に向かう。
「久しぶりだな。クレイン。今日と明日の2日間OKなんだって?」
エニスと握手をして、
「そういうこと。昨日は興奮して寝付きが悪かったよ」
笑いながら言うクレインは勇者パーティの時のナイトの装備だ。
「久しぶりにこの装備を身につけたけど、王都騎士団の服より俺はこっちの方がいいな」
そう言うクレインに、
「似合ってる。というかその格好じゃないとクレインじゃないわね」
ケリーが合いの手を入れて、その言葉に皆が頷く。
「じゃあ早速行こうか。場所は新しいダンジョンでまだ誰も入ってないらしい。ギルドからは調査依頼も受けてる」
「ほう。真っさらのダンジョンか。こりゃ楽しみだ」
そうして館からグレイの移動魔法で6人はエイラートの西にあるダンジョンの1つに
飛んでいった。
「ここはエイラートからどれくらい離れてるの?」
「歩いて5日程かな」
マリアの質問に答え、ダンジョンの入り口で全員装備を確認する。
「とりあえずクレイン、エニス、マリアで歩いてくれるかい?後衛はリズ、ケリー、俺の順で。普通に考えたら上層は低ランクだからランクAが出るフロアまではスピード重視で進んで行こう」
グレイの声をきっかけにクレインから順にダンジョンの中に入っていく。
「洞窟型か…」
先頭を歩くクレインが言い、普通の街中を歩く感覚で洞窟の中を進んでいく。
1層から5層まではランクD、Cの魔獣しか登場しなかったせいかあっという間に
6層にたどり着いた一行。
ここでようやくランクBとCの魔獣が混在して出てきたが、いずれにしても勇者パーティの敵ではなくて精霊魔法とエニスの剣でまるでそこには何もなかったかの様に進んでいく。
10層につくと、ようやくランクAのフロアとなった。
依然として洞窟型のフロアが続いていて10層の階段を下りた先には真っ直ぐに洞窟が伸びている。
リズから強化魔法をもらった前衛3人はランクAの魔獣を問題なく処理してフロアを攻略している。
後ろから前衛を見ていたグレイは、魔獣を倒し終わった時に、
「クレイン、身体が思い出してきたみたいじゃないの。クレインのスキル上げなんだからガンガンやってくれ」
グレイはダンジョンに入った時からクレインの動きを見ていた。
パーティ解散後、騎士として仕えているせいかクレインは知らず知らずのうちに動きが騎士としての動きになっていた。
グレイは黙って様子を見ていて、このフロアに降りる前、9層辺りからようやく以前のクレインの動きに戻ったと感じて声をかけたのだ。
「そうだよ。クレイン。昔みたいにガンガンやっちゃってOKだよ」
エニスがクレインに言うと、
「じゃあ遠慮なくやらせてもらおうか」
グレイの言葉で吹っ切れたのか、列の先頭に立つと洞窟の奥に魔獣が見えると直ぐに挑発スキルで敵のヘイトを一手に引き受ける。
今までより強い挑発でガッチリと魔獣のタゲをキープし、盾で敵の攻撃を防ぎ、片手剣で魔獣に斬りかかるクレイン。
エニスとマリアもクレインがガッチリとタゲを取ってくれているので敵対心を気にせずに魔獣の左右から剣を振るう。
今までよりもずっと早くランクAを倒すと、
「やっぱりクレインがガッチリとタゲを取ってくれると楽だわ」
「本当ね。好きな様に剣で攻撃できる。これ楽しいわ」
エニスとマリアが目の前で消えていく魔獣を見ながらクレインを褒める。
特にマリアは自身が騎士でもあったこともありダンジョン突入直後のクレインの動きは馴染み深いものであったが冒険者モードになったクレインの動きを見てこうも違うものなのかと一人感心していた。
(個人戦を極めている上位冒険者の動きは騎士としても本当に参考になるわ)
当のクレインも慣れてきて、
「パーティ解散してからは騎士団で団体戦ばかりやってたから身体が鈍ってたけど、やっぱりナイトはこれだよな」
クレインも満更じゃない様子だ。マリアもクレインの言葉に一人頷いている。
「敵が1体のときは今のやり方で。複数体出てきたらクレインとケリーのペア。そしてエニス、マリアと俺で個別に対処しよう」
「「わかった」」
その後も順調にフロアを攻略していく6人。
敵が2体出たときはクレインがタゲをがっちりと取りながらケリーの精霊で削り、エニスとマリアはお互いにタゲを取りながらグレイの精霊魔法と剣とで削っていった。
超精霊士のケリーの本気魔法を初めて見たクレインは
「噂以上の威力じゃないかよ、ケリー」
「でしょ?私も精進してるのよ」
「こりゃ俺もうかうかしてられないな」
6人のパーティは全く危なげなくダンジョンを攻略していく。
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