第65話 エイラートの雪解け

 グレイ達が自宅のあるエイラートに戻ってから1ヶ月後、大陸の3国にて同時に会議の報告がされた。人々はまず、会議が行われたことに驚き、そして次にその内容に驚かされた。


 3国が発表した内容とは、

・3国域内では取引にかかる税金を0にする。

 今までは他国と貿易をすると自国(輸出国)に税金を納めていたが

 今後は税金を納める必要がなくなる。

・国を跨ぐ移動についてはその手続きを簡素化する。

 ただし国を跨いでの居住については従来通りである。

・犯罪者引き渡し協定を締結する。

・3国のTOPの会議は今後定期的に行う


 この発表に商人は大いに喜んだ。

また冒険者ギルドにとってもこれは良い話であった。商人の行き来が増えれば護衛をする冒険者が必要となる訳でギルドとしても護衛クエストが増えるメリットがある。


 そして人々の間では一体いつの間にTOPが集まって会議をしたんだろうという

話になり、そうしているうちに移動魔法を持っているグレイがこの会議に噛んでいるということが人々の間に広まっていった。


 一方、そんな話が広まっているとは知らないグレイとリズはようやく厳しい冬が

終わったエイラートの街に繰り出していた。


 雪解けを待ち望んでいた人々が大勢街に繰り出してきていて大通りは人がいっぱいで、皆厳しい冬が終わったことを実感してあちこちで春の到来を喜びながら話をしている。


「賑やかだね」


「皆待ち望んでいたからな。俺たちもいろいろ見て回ろう」


 二人で通りを歩き、露店を見たり、店先に並んでいる品物を手にとったりして通りを歩いてひとしきり楽しんでから通りの並びにあるギルドの扉を開けて久しぶりにギルドに入っていく。


 冬の間は雪かきのクエストが殆どだった掲示板には雪解けと共に商品をエイラートに運んできた商人達の護衛クエストが貼られ、それらを次々とちぎってはカウンターに持ち込んでいる冒険者や、春からの活動前に併設の酒場で打ち合わせをしている冒険者達などでここも大通りに劣らず賑やかだ。


 グレイとリズは特に用事もなかったので酒場の隅の空いているテーブルに座ってジュースを頼むと活気のあるギルドの中を見るともなく見ていた。


「冒険者もこれからまた稼ぎどきだね」


 忙しそうにしている冒険者達を見ながらリズ。


「そうだな。この時期だと護衛クエストが美味しいんだろうな」


 グレイとリズは酒場の隅に座っているがギルドの中にいる冒険者の中には二人に気付いて挨拶をしたり、遠目にチラチラと二人を見ているパーティやらいつものギルドと変わらない日常がそこにあった。


「よう。久しぶりだな」


 声がしてギルマスのリチャードが酒場に入ってきて二人が座っているテーブルの空いている椅子にどっかと腰かける。どうやら二人を見つけたギルドの職員が気を聞かせてギルマスに声をかけてくれたらしい。


「久しぶり。活気があるじゃない」


「皆待ってたからな、これから護衛やら道路の安全確保やらでこのギルドもこれから忙しくなるぞ」


 ギルマスがそう言って、忙しいギルドの中を一瞥してから


「やっぱりギルドはこうでなくっちゃな」


 ギルマスの言葉に


「そうね。皆生き生きした顔している」


 リズもギルマスと同じ様にギルドの中をぐるっと見渡す。


「お前さん達も何かクエスト受けるか?」


「俺たちはいいよ。稼ぎたい奴にどんどん仕事を振ってやってくれよ」


「そういや3国の共同の声明の内容を見たが、これから商人の動きが活発になるぞ」


 話を変えてギルマスがグレイに顔を向けて言うと、


「ギルドにとってもいい話じゃないの。商人が動けば護衛がいる。ここエイラートから荷物が出る時はギルドにとっても稼ぎどきになるな」


「そういうことだ。幸いここのギルドに所属してる奴らはそこそこできる奴が多い。商人達も安心だしな」


 エイラートは辺境にある街のせいで周辺の魔獣のレベルが総じて高めで、そんなレベルの高い街でランクを上げていった冒険者は同じランクでも他の街の冒険者に比べて実践経験が豊富で腕がいいというのが商人達の間での評価になっている。


「あれ?グレイ。あの人達って…」


 グレイとギルマスが話をしている間、見るともなくギルドの中を見ていたリズは、丁度ギルドの扉が開いて中に入って来た4人組を見つけてグレイに声をかける。


「おっ、王都のNO.1パーティのオズボーン達じゃないか」


「王都のNO.1パーティ?」


 グレイの言葉に反応したギルマスが入ってきた4人組を見る。


「この前王都に行った時にあっちのギルマスのフレッドから紹介されたんだよ。ちょうどいい、ギルマスに紹介するよ。ランクAだがこの街でもランクAを名乗れる実力がある」


「ほぅ。グレイがそこまで言うなら本物のランクAだな」


 ギルマスがグレイに答えるのを聞きながらグレイがオズボーンに声を掛けると、4人がグレイとリズに気付いて頭を下げながら近づいてきた。


「どうしたんだ?」


「エイラートに武者修行にやってきました。この前王都でグレイさんやリズさん、ケリーさんの実力を見せてもらって俺たちももっと頑張らないといけないと思って、ギルマスのフレッドに話しをしたら春から秋までエイラートで武者修行してこいって背中を押されまして」


 4人を代表してオズボーンがグレイに説明をする。


「そう言うことか。なるほど。ちょうどよかった。ここに座っているのがエイラートのギルマスのリチャードだ」


 そう言うと4人はギルマスに自己紹介をしていく

戦士のオズボーン、ナイトのネルソン。

精霊士のリーファと僧侶のエリーは女性だ。


「エイラートのギルドマスターをやっているリチャードだ。フレッドは俺の親友の一人さ。エイラートのギルドはお前さん達を歓迎するぜ。しっかり腕を磨いて王都に帰ってくれ」


 隣のテーブルに4人が座って話を始めると、その周囲にいた地元の冒険者達も集まってきた。


「王都から雪解け直ぐに来たのかよ。気合入ってるな」


 その言葉にはナイトのネルソンが、


「王都でグレイさんらランクSの実力を見せつけられて正直相当ショックを受けたんだよ。ここまで違うものなのかと」


「そりゃ大賢者グレイらのを見たらそうなるな。俺たちも同じだぜ」


「それにしても王都で一番のパーティ、よくフレッドが武者修行をOKしてくれたね」


 リズはそう言ってから、でもあのギルマスの性格ならあり得るかと独り言を言うと、ギルマスのリチャードがリズ に


「あいつならそう言うさ。王都ギルドの将来を考えたら強いパーティこそ武者修行に出すべきだ。得るものが必ずあるってな」


「それにしてもグレイさんもリズさんも普通にこうやってギルドに顔を出してるんですね」


 精霊士のリーファ。


「グレイ、リズでいいぜ。さん付けはいらない。俺たちだって一応冒険者だ。毎日じゃないが顔は出してるよ」


「ランクSになって大賢者とか聖僧侶って言われるくらいだから何か特別待遇になってるのかと思ってたわ」


 僧侶のエリーの言葉に他の地元の冒険者が


「グレイとリズはいつもそうさ。俺たちも最初はびっくりしたけど、今はもう慣れてる。外から帰ってきたらちゃんと受付の列に並んで待ってるランクSなんて普通はいないと思うけどな」


「えっ! ちゃんと列に並ぶの?」


 びっくりするエリーはそう言った直後に自分で


「そういえば王都でも並んでたっけ」


と呟く。


その言葉にリズが微笑みながら、


「そう。私達も冒険者よ?ランクに関係なくギルドのルールには従わないとね」


「そう言うこと。特別待遇なんてないし、そもそも俺たちは特別待遇を望んでないし。まぁしいて言えばクエストのノルマがないくらいか」


 王都から来た連中とここエイラートの連中、そしてグレイとリズのやりとりを黙って聞いているギルマス。


 地元の冒険者だろうが外からきた冒険者だろうが分け隔てなく接して話をしているグレイとリズをみながら 確かにこいつらは普通じゃない。


 ランクSでございと威張り散らすこともなく、誰とでも普通に接する。

エイラートの冒険者の質が高いのもこいつらがいるからだ。フレッドが武者修行してこいって言うのも当然の話だと感じていた。


 ギルマスのリチャードはおもむろに椅子から立ち上がると、


「オズボーンだっけか。掲示板のクエストはどれでも好きなのをやってくれて構わないからな。無茶だけはするなよ」


 そう言うとグレイとリズに向かって手をあげてカウンターの奥に消えていった。


 その後地元の冒険者達にエイラートのいい宿の情報や付近の狩場の情報などを聞き始めたオズボーンのパーティに手を振って別れ、二人はギルドを出て自宅に帰るべく通りを歩いていた。


「あの調子ならエイラートの人達とも上手くやっていけそうね」


「そうだな。実力はあるからな。周りも認めるだろう」


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