第64話 王都ギルド その4
3体の人形が攻撃を受けて激しく左右に揺れる。それを見て、
「いい攻撃だ。ランクAの実力通りだな」
と言い、彼らとリズを見て、
「今度はリズがお前達に強化魔法をかけるから今と同じ様に攻撃してくれるか?」
そう言うとリズが3人に強化魔法をかける。そうして先ほどと同じ様に前衛二人は剣で、精霊士は魔法でミスリルの人形に攻撃をした。
するとさっきよりもミスリルの人形が激しく左右に揺れる。それを見て、
「さっきよりも力が出ている」
「ああ。剣の威力が全然違う」
「魔法も威力が凄くアップしてるわ」
リズの強化魔法を受けた3人が次々に言うと、鍛錬場で見ていた他の冒険者からもさっきと威力が全然違うじゃないかという声があちこちからしてくる。
「これがリズ、聖僧侶の強化魔法だ。決してそちらの僧侶の強化魔法が弱いんじゃない。むしろランクAとしたら相当強力な強化魔法だ。ただ、さらにランクが上がるとこう言う風に強化魔法の威力もさらに数段上がる」
前衛2人と精霊士は自分達が実際に攻撃してそのパワーの違いを実感しているので頷いている。
「これだと戦闘が楽になる」
ナイトのネルソンが言うと、オズボーンも
「ここまで違うものなのか…」
その呟きを聞きながら、グレイは
「リズの強化魔法は攻撃の時は今の様に味方の能力の底上げをし、逆に防御の時は格下の攻撃ならほとんど無傷で跳ね返せる程の硬さになっているぞ」
「すげぇ」
「極めるとそこまでいけるのか」
「さて次はケリーの魔法を見てもらおう。ケリー、3体頼む」
「わかった」
そう言うと、ケリーが精霊魔法を範囲化させて3体のミスリルの人形にぶつけると、大きな爆発音と共に3体とも激しく左右に揺れた。
激しく揺れる3体の人形。しばらく誰も言葉を発しない。おもむろにグレイが、
「今のが精霊士がランクアップして得られる範囲魔法だ。1体の時と同じ威力で任意の複数体に攻撃できる」
「初めて俺も見たが、こりゃ噂以上の代物だ」
ギルマスのフレッドがようやく言葉を発すると、間近で見ていたオズボーンのパーティメンバーはもちろん、周囲で見ていた冒険者達もその威力に
「凄すぎる」
「ここまで強くなるのか」
口々に声に出す。
「さっきのリズもそうだが、ケリーについてもランクアップしたことによって魔法の威力がより強力になったと同時に敵対心が大幅に減少している。今の魔法を連続して撃っても敵からタゲを取ることがない」
もう言葉が出ずにただ頷くだけの周囲の冒険者。
「魔力はそれなりに食うから魔力管理は必要だけどな。幸いケリーもリズも、そして俺も魔力だけは相当持っているからこの種の魔法を連発できるけどな。さて、最後は賢者の新しい魔法を見せよう」
そう言うとその場で浮遊魔法で浮き上がるグレイ。
「浮いてる」
「話に聞いていた浮遊魔法だ」
浮き上がったグレイに合わせて視線が上を向く周囲の冒険者。そこでグレイが浮遊したまま姿を消すと、
「消えたぞ」
誰かがそう言った瞬間、消えたグレイから精霊魔法が打ち出されてミスリルの人形に命中した。その威力はケリー程ではないものの、人形が激しく揺れていることから見て相当な威力であることは明らかで。
「消えたまま打てるのか」
「いや、浮いたまま打てるのか」
「どっちにしても無敵じゃないか」
浮遊したまま姿を現したグレイはゆっくりと地面に着地する。
「これが賢者のスキルアップした魔法だ。空中から攻撃できるから敵対心を気にせずに精霊魔法を連射できる」
そう言うと、再び浮遊したグレイ、ケリーの顔を見るとわかったと頷き、ケリーがミスリル1体に弱体魔法を打ちそのまま続けて精霊魔法を打つと、同じタイミングでグレイの精霊魔法が人形に同時に着弾。
今までで一番派手な音がしたと思うとミスリルの人形が粉々に粉砕されて破片が飛び散っていった。
シーンとして誰も声を発しない鍛錬場。
「今のはケリーが新しく覚えた弱体魔法の後に精霊魔法をケリーと俺とので同時に着弾させた。それによって2人分の精霊魔法の威力がさらに増大されたということだ」
オズボーンはたった今自分の目の前で起こったことが未だ信じられないという目で聞くともなくグレイの言葉を聞いていた。
無詠唱同士の精霊魔法の同時着弾だと?
王都では自他共に認めるランクAパーティのリーダー。実力はピカイチだと言われ、自分たちもそう言う自負を持って今までやってきたが、目の前にいる3人は自分たちとは全く違う世界に住んでいる。王都でNo.1パーティでございと胡座をかいていた自分たちが恥ずかしくなるほどの力量差を目の当たりにしていた。
ランクAとランクSの差とはこれほどのものなのか。魔王を倒しさらに上を目指して日々鍛錬を続けてきた者達だけが到達できる場所。
ランクAの自分だからわかる、彼らがいかに過酷な試練を経験し、そしていかに厳しく自己を鍛えてきたか。
俺たちは甘い、まだまだ甘すぎる…
模擬戦じゃなくてよかった。やってたら赤子の手をひねる様にあっさり倒されていただろう。
「これがランクSを極めた人達の実力なのか」
言葉を絞り出す様にオズボーンが言うと、ギルマスのフレッドも
「ここまでとは流石に思わなかったぜ。リズもケリーもグレイもランクSどころかランクSSクラスじゃないかよ」
「私たちも元々はランクAだったのよ。だから皆さんにもここまで到達できるチャンスは公平にある。日々自己鍛錬を怠らずに頑張れば到達できるわよ」
ケリーが周囲を見ながら言うと、ギルマスのフレッドが鍛錬場にいる冒険者達に大声で、
「今ケリーが言った通りだ。こいつらも元は今のお前らと同じランクだったんだ。
毎日自己鍛錬を欠かさず、冒険者としてしっかりと活動してきたから彼らの今がある。いいか、お前らにも可能性は十分あるんだぞ」
そうしてグレイらの実力の披露は終わった。
その後は戻ったギルドの酒場で周囲から質問責めにあった3人だが、嫌がることなく丁寧に答えていき。日が暮れてしばらく経った頃にようやく開放された。
「ギルマス、世話になった。また機会を見つけてくる様にするよ」
「おお。是非頼むぜ。今日のお前らの実力を見てあいつらの目の色が変わって明日から頑張ってくれるとは思うが。たまには様子を見に顔を出してくれよ」
「じゃあ、またお邪魔しますね」
「お世話になりました」
そう言ってから3人は移動魔法で王都を後にし久しぶりにエイラートに戻ってきた。
「雪がまだしっかりあるけど、エイラートに戻ってきたらホッとするわ」
ケリーを送って久しぶりの自宅に戻ってきたグレイとリズ。
「本当だな、やっぱり自分の家が落ち着くよ」
暖炉に薪を入れて火をつけて暖めながらグレイがリズの言葉に答える。
二人とも、会議が無事終わった開放感から完全にリラックスして暖まってきた部屋のソファに並んで座っていて、
「明日はゆっくり休もうか」
「そうね。久しぶりに寝坊してみたいかも」
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