第60話 3カ国会議 その5
マリアはクレインの話を聞きながら時折他のメンバーを見ていた。エニスはいつも通りにニコニコしながらクレインの話を聞いているし、ケリーも食事の手を止めずに耳だけクレインに向けている。リズはゆっくりとフォークを動かしていて、これもいつも通りのスタイルだ。グレイは自分の話が恥ずかしいのか俯き加減で一心不乱に料理にフォークを伸ばしてる。
「それで?」
マリアがクレインに先を促すと、頷いたクレイン。
「グレイが言うには自分がパーティに参加してからずっと他のメンバーの状態をチェックしていたって言うんだ。それが俺の仕事の一つだと言ってな。
そしてそれが嘘じゃない証拠に、それまでの戦闘の時の状態を再現していった。
あんときはケリーの魔力が枯渇寸前であと一発でかい精霊を打ったら恐らく魔力欠乏症になってぶっ倒れてただろうとか、リズにしてもしかりだ。
あそこでリズじゃなくてグレイが回復魔法を使ったのはリズが回復魔法を使うと敵対心がマックスになって敵のターゲットが俺からリズに移って体形が乱れてグダグダになったからだ。とかな。
俺も言われたよ。俺の体力が落ちて盾のシールドバッシュの効果が出てないのをごまかしてただろう?ってな。グレイの指摘は全て正解だった。
(注:シールドバッシュとはナイトが装備している盾を敵にぶつけることにより敵を一時的に麻痺させるスキルである。発動はナイトの体力に依存すると言われており100%成功するスキルではない)
聞いていた俺たちは正直びっくりしたよ。
ここまでメンバーの状態を理解しているとは誰も思ってもみなかったからな。
それまでは勇者パーティってのは辛くても人のためなんだから当然だ…みたいな思いがあったんだんが、グレイはそれを真っ向から否定した。
『俺たちは結果を出さないといけない。そのためには各自が常にベストコンディションでベストの戦略で臨む必要がある』ってな」
そこまで言うとケリーがクレインを見ながら
「よく覚えてるわね」
「ああ。あれは俺にとってはショック、もちろん良い意味でのショックだったからな」
「私もそうよ」
ケリーはそう言うとマリアを見て、そしてクレインの話を引き取って続ける。
「それでね。休んだ後にエニスがグレイに言ったの。『今度グレイが作戦を考えてくれないか?』ってね。グレイはわかったと言って引き返してきた魔族領に再度進軍する時の作戦を私たちメンバーに説明したの。それを聞いたエニスがそれでやろうってみんなの了承をとったの。それからは見ての通りよ。
それまで作戦なんて殆どなかった私たちに作戦という物を教え込んだグレイ。
グレイの作る作戦は私たちの力量を完全に把握した無理のない、そして無駄のない効率的な作戦だったわ。各人の能力が最大限生かせる作戦を考えた。作戦の説明をする際にも私たちが疑問を持って質問してもいつも理路整然と答えてくれていた。しかも戦闘中もどんどん指示を出してくれる。
そうしているうちに自然と作戦を考えるのはグレイとなっていったのよ。それまでは個人の力量に頼っていたのがグレイの指示でパーティとして動きだしたの。そうしたらずっと戦闘が楽になったのよ」
「そうだったのね」
グレイの優秀さはダンジョンの攻略の時にもわかっていたが、こうして改めて聞くとその凄さに言葉が出ないマリアだった。
「そんなグレイが今回の護衛の作戦を立てたらよっぽどのことがない限りその作戦に沿って行動するよ」
「さっきの説明でも私たちの疑問点は全てクリアしてくれてたしね」
クレインとケリーが頷きながら話している。
「なぁ、もういいだろう?飯を食おうや」
今まで黙っていたグレイは照れ隠しなのかそう言うとガツガツと料理を食べ始めた。隣でリズが笑いながら食事をするグレイの背中をポンポンと叩いてる。
それを見ていたケリーが、
「戦闘の作戦を考える立案能力とメンバーの管理能力、戦闘中の指示についてグレイ以上の人は見たことないわ。グレイが参謀だったから魔王が倒せたとも言えるわね」
その言葉に頷くメンバー。
「それでグレイ、お前さんは実際のところ今回のこの会議中に何かあると思ってるのか?」
食事を終えてデザートを口に運びながらクレインが聞いてくる。
クレインと同じくデザートを口にしていたグレイ。
「正直なところ、何かある可能性は限りなくゼロに近いと思ってる。こう言うのって移動中とかが一つの狙い目だろ?今回はそれがないからな」
グレイの言葉にエニスも
「そうだよな。目的地の皇都は厳重に警戒されるだろうしそう易々と入り込めないと思うよ」
「とは言え」
グレイはそこで一旦言葉を切って、
「何かあってからじゃあ遅いから、俺たちは普段通りのことをする必要があるんだよな」
そうだよねと頷く一同。
「それで今回うまくいったら今後もグレイの魔法をあてにして頻繁に会議とかするんじゃない?」
「その可能性は十分にあるんだよな」
ケリーの言葉にグレイも頷く。
「まぁそんときはグレイ、頑張ってくれや」
「クレインも絶対に巻き込んでやる」
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