第59話 3ヶ国会議 その4

 こうして方針が決まってメンバーによる打ち合わせが終わった。

 

 打ち合わせが終わるとエニスが


「打ち合わせも終わったし、隣の部屋に食事を用意している」


「そりゃありがたいな。アル・アインの料理も久しぶりだ」


 クレインが立ち上がったのを合図に全員ソファから立って隣の部屋に入っていくと、給仕達が料理を運んできて5人プラス、マリアの6人で食事会が始まった。


 5人は普段から顔を合わせていることが多いのがクレインとは魔王討伐以来久しぶりなのでクレインは5人の近況を知りたがり、5人はクレインの近況を聞きたがった。


「グレイがスキルアップしたって聞いた時は正直驚いたぜ。まさか魔王を倒してからも厳しい鍛錬を続けているとは思ってなかったからな」


「何となく、感覚的なものなんだけど自分の中でこれが最高じゃない、まだ上がありそうな気がしてたんでね。エイラートって街は周辺にランクAの魔獣が多いからソロで鍛錬するにはいい環境だったよ」


 グレイはその時の心情をクレインや他の連中に言うが


「そのまだ上がありそうっだっていう感覚、普通の人じゃそんな感覚というか意識は持たないわよ」


 ケリーがナイフとフォークを持っている手を止めずに言うと、


「そうだよな。普通なら魔王倒して終わりってなるよな。そうでなくてもランクSなんて他にいない訳だし」


 グレイはクレインとケリーのやりとりを聞きながら、確かに普通の感覚なら、勇者パーティで魔王を倒したら目的達成で、世界もとりあえずは平和になったし、そこでまだ上を目指すという考えにはならないよなと自分でも思っていた。いや俺が変わってるって話だろう?それは自分でもわかってるって。


 そう思いながら話しだすグレイ


「まだ若いし、引退する年でもないが今更他のメンバーとパーティを組んで日々クエストをこなす気もない。そう考えてとりあえずエイラートに引っ込んで酒場をやりながらのんびりソロでスキル上げでもして過ごそうと思ったんだよ。感覚的にもうちょっと上にいけるかなとは思ってたけど根拠がないしな、自分はまぁ上がらなくても全然オッケーという軽い気持ちだったよ」


「それにしても本当にグレイは向上心の塊ね」


 ケリーが褒めてるのか何なのかわからない口調で言う。


「でもそのおかげでリズもケリーもスキルアップしたじゃない。グレイの貢献は大だよ」


「もちろん。そこは認めてるわよ」


 エニスに言われてケリーが答える。


「クレインもナイトのスキルがアップするかもしれないね」


 リズがクレインを見ながら言うと、


「う〜ん、どうだろうか。俺はルサイルに戻ってからはほとんど魔獣を相手にしていないからな。訓練では同じ騎士相手ばかりだから難しいかもな」


 食事する手を止めずにクレインが答える。


「騎士だって休みなしってことないんだろう?うちでも騎士にはちゃんと休日をあげてるぞ。クレインも休日に魔獣相手にやってみたら?クレインならジョブの性格上ランクAなんて余裕だろうし」


 エニスの言葉に頷き、


「そうだな。街からちょっと離れた山の奥にランクAがいるって聞いてるから一度行ってみるか」


「それともグレイがルサイルに迎えに行ってクレインもこっちで私たちと一緒にスキル上げする?」


リズの提案に身を乗り出すクレイン。


「そうか。グレイの魔法がありゃ移動は楽か」


「こっちは大抵暇してる。鳥便で空いてる日を前もって教えてくれたら当日迎えに行くのは構わないぜ」


 グレイは昔の仲間と一緒にスキル上げできるなら迎えに行くことについては全然気にしていないと言い、ケリーもリズも歓迎するわよと言ってくれている。


「わかった。この会議が終わってルサイルに戻ったら予定表を見て連絡する」


「ところで」


 今まで黙っていたマリアが周りを見て、


「さっきの打ち合わせだけど、いつもあんな感じなの?」


「あんな感じって?」


 ケリーがマリアの質問の意味を確認しようと顔をマリアに向けて問うと、


「5人共ランクSの勇者パーティだからもっといろんな意見をぶつけ合いながら決めていくのかと思ってたのよ」


 マリアの答えにケリーがああなるほどねと呟いてから、


「マリアはグレイが決めた方針を皆すんなりと受け入れているってことにびっくりしてるのね?」


「そうそう、もっと喧々諤々で物事を決めてるものだと思ってたから」


 マリアがそう言うと、クレインは飲んでいたグラスをテーブルに置いてマリアをじっと見て、


「グレイが入る前はそう言う風にいつもみんなであーだこーだと言いながら決めてた。グレイがパーティに参加した直後もそうだった。マリアが言う様に俺たちは勇者パーティだって言う自負とプライドがあったし、実際それなりの実力も皆あったからな」


 クレインはそこまで言うと果実汁を飲み干して、


「グレイがパーティに合流してからしばらく経った時だったか、俺たち魔族領で周囲を敵に囲まれた時があったんだよ」


 周りのメンバーはもちろん当時のことを覚えているから黙って頷いてクレインの話を聞いてる。


「その時、グレイ以外のメンバーはこのまま強行突破しようと言ったんだが、グレイだけが猛烈に反対してな。一旦撤退しようと主張したんだよ。

俺もそん時はグレイに向かって俺たちは腰抜けじゃないんだぞって突っかかっていったんだが、グレイの奴そんな言葉を全く意に介さずに各メンバーのコンディションを説明していったんだ。


 エニスは勇者だから元気だったが、俺はそれまでの戦闘で結構体力を持っていかれていて、実はかなり疲れてた。ケリーとリズも何も言わなかったけど魔力はそんなに残ってなかった。もちろん俺も、ケリーもリズもそんな素振りは一切見せずにまだいけるって言ったんだけどさ、グレイは各メンバーの疲労具合や魔力の減り具合を全部知ってたんだよ。


 退却する際の敵との戦闘回数は予測できる。

その戦闘回数内なら今の俺たちの体力でも安全地帯まで戻れる。もし強行突破して前に進んだ場合、これからどれだけ連続して戦闘があるか予測ができない。だから一旦戻って回復してから再度挑戦すべきだってな。


 それまでイケイケでやってきた俺たちは正直他のメンバーの状態なんてほとんど

気にしてなかった。


『いけるか?』『大丈夫!』 それだけだった。


 グレイだけはいつもパーティメンバーの状態をしっかりと見ていたんだよ。


 んで最終的にエニスが撤退を支持して俺たちは一旦退却した。その退却時の戦闘回数も見事にグレイが予想した通りの範囲内だった」


 クレインはそこまで一気に話をすると、乾いた喉を潤す様にもう一度果実汁をグイッと飲む。そしてマリアを見ると話を続けていく。


「安全地帯まで戻ってから俺たちは話し合いをした。話し合いっていうか、グレイに問い詰めたって感じだったな。どうして全員の状態を知ってたんだ?ってさ」

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