第55話 国王陛下からの呼び出し その2

 そして翌日、家で昼食を済ませると冒険者の格好になった二人は街の外から移動魔法でアル・アイン王国の王都に飛んだ。


 城壁の外に飛ぶとエニスに言われた通りに貴族門を目指して城の外側の道を歩いていく。


「雪は降ってないわね」


「エイラートに比べると寒いとはいえやっぱりこっちはまだ気温が高いよな」


 そんな話をしながら高い城壁にそって整備されている道をのんびりと歩く二人。


 王都にはいくつか門があるが、普段開いているのは一般人用の西門と貴族門といわれる2つのみだ。西門を入ると商業区、そして居住区という風にエリアが並んでいる。


 一方、貴族には専用の門があり、それは貴族地区に近い場所にあり、正式には東門という名があるが、いつからか東門と言わずに貴族門と呼ばれる様になっていた。


 ちなみに王家とその一族はまた別の専用の門がありここはいくら大貴族であっても通行できない。


 グレイとリズは塀沿いの道をしばらく歩いて貴族門の入り口を見つけるとそこに近づいていった。西門と違ってここは殆ど混むことがない門で二人が門に着いた時にも二人以外に誰もいなかった。


 二人を見つけた衛兵が門の傍にある詰所を出て近づいてきた。グレイがギルドカードを見せて、


「エイラートからきたグレイとリズだ。国王陛下に呼ばれている」


 元勇者パーティのメンバーは王都では特に有名で衛兵は二人を見たときからわかっていたのか、二人に敬礼をすると、


「大賢者様と聖僧侶様ですね。伺っています。今案内致しますので」


 そう言って詰所に声をかけると、中から大柄な騎士が出てきた。


 グレイもリズも何度も王都で会ったことがある王都守備隊の隊長のサイモンだ。


「グレイ殿、リズ殿、お久しぶり」


「お久しぶり。お元気そうですね」


 リズがサイモンに挨拶すると、グレイも、


「久しぶり。守備隊隊長自らお出迎えかい?」


「国王陛下から粗相のない様にと言われてな。そう言われると他の者には任せられない」


 3人が並んで歩くと、その後ろに守備隊の隊員が3名続いて同じ様に城に続く道を歩く。


「それに久しぶりに二人に会えるのでな、楽しみにしてたんだよ」


 サイモンは年の頃は20代後半。がっしりとした体躯で魔法は使えないが剣の腕は一流だ。エニスの妻になっているマリアも騎士としては相当の使い手で王都守備隊の騎士をやっていたが、その時から隊長はサイモンだった。守備隊でNO.1の地位をずっと守っている強者だ。


「グレイもリズも魔王を倒してから更にスキルアップするとは日頃の鍛錬の賜物だな」


「エイラートに引っこんで時間だけはあるからな。暇な時に森で魔獣を倒してたら

スキルが上がったよ」


 そんなお互いに近況報告をしながら歩いていると王城が見えてきた。城に入る門にも騎士が立っているがサイモンとグレイ、リズを見ると敬礼してくる。顔パスだ。


「サイモンはまだ結婚しないの?」


 城内に入ってきれいに掃除されている廊下を歩きながらリズが聞くと、


「騎士はいつ戦場に出るかわからない。そういう中で家庭を持つふんぎりがつかなくてな」


「サイモン、昔からそれ言ってるぜ」


「そうそう。そろそろ身を固めてもいいんじゃない?いい人いるんでしょ? 平和になったんだしあんまり女性を待たせちゃダメよ?」


「むぅ。わざわざメディナからエイラートにまで乗り込んでグレイを捕まえたリズに言われると返す言葉がないな」


「でしょ?サイモンも行っちゃいなよ」


「そうだ、そうだ 行っちゃえ」

 

 焚きつける二人。


 グレイとリズはサイモンより年下だが、勇者パーティの時から何度も会っているし、模擬戦もしてきた仲なのでお互いに年上、年下関係なく普通に友人同士の会話をしているが、騎士からみればサイモンは強面の上司で、仕事一途の騎士だ。しかも剣の腕前は守備隊でもNO.1。


 そんなサイモンにタメ口で早く結婚しろと話しかけるグレイとリズに後ろからついてきている3名の騎士達はびっくりしている。


 しかもこれから会うのは国王陛下だというのに全く緊張していない二人。まるで街の酒場での会話の様に冗談を言いながら普通に城の中を歩いていくのを見ると改めて前を歩く3人、特にグレイとリズは我々とは次元の違う所に住んでいるんだと思わざるを得なかった。


 いくつか角を曲がり、階段を上がると1つの部屋の前に着いた。国王に謁見する前に入る控えの間だ。


 先頭を歩くサイモンが近づくと、扉に立っていた騎士が扉を開ける。


 グレイ、リズ、そして最後にサイモンが部屋に入ると、


「やぁ、久しぶり」


「エニスも来てたのか」


 控えの間にはエニスが一人椅子に座って果実汁を飲んでいる。


「もちろんだよ。ケリーにも来て貰いたかったんだけど彼女は学院があるだろう?」


「元勇者パーティを集めて何するんだ?」


 メイドが持ってきた果実汁のコップを手にとってグレイがエニスに聞く。


「まぁ、それは国王陛下から直接お話があるから」


 思わせぶりな口調のエニス。


「エニスはもう知ってるのね?」


 グレイと同じ様に果実汁のコップを持っているリズが聞くと、


「ある程度は聞いている」

 

 とだけ短く答える。

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