第54話 国王陛下からの呼び出し その1

「やっぱり寒いね」


「こっちは真冬だもんな」


 ティベリアからエイラートに戻ってきた二人は城門をくぐって雪掻きが終わっている人通りの少ない大通りを歩きながら話ししている。


 まずギルドに出向いてギルマスにモコ草を届けた報告と、ついでにクラーケンを倒してきたと言う話を順を追ってギルマスに説明した。聞いていたギルマスのリチャードは途中から呆れた顔になり、グレイの話が終わると、


「厄介ごとに巻き込まれる体質なのかよ?グレイ」


「たまたまだろう?それにクラーケンは大して強くなかったし。こっちは厄介な目にあったとは思ってないぜ」


「お前達だからそう言えるんだよ」


 ギルマスとそんなやりとりをしてギルドを出て、家に帰る前にケリーの家に寄りティベリアでの出来事を話しして、クラーケンの足を持って帰ってきたというや否やケリーが、


「行く! 食べるに決まってるでしょ」


 と、今度は3人でエイラートの街中をグレイとリズの家に向かってのんびりと歩く。


「私もティベリアに行きたかったな」


「ケリーは海鮮料理が食べたいだけだろう?」


「当たり前じゃない、クラーケン退治はグレイとリズに任せてその間に魚介類をたっぷりと食べるのよ」


「ちゃんと魚介類もいっぱい買ってきたから家に着いたらケリーも手伝って」


 リズの言葉にケリーの機嫌も直り、その夜はグレイの家で海鮮料理となった。


「エイラートはお肉もお野菜も悪くないんだけどさ、たまにはこうやって新鮮な魚も食べたくなるわね」


 リズとケリーで作った料理を次々と口に運び、その度に美味しいを連発しているケリー。


「このスープなんて絶対にここじゃあ食べられないよ」


「魚もこっちは川魚が殆どだしね」


「そうそう。魚はやっぱり海のが美味しいね」


 そうしてクラーケンの足を茹でた料理を口にすると、


「本当に美味しいね。これ。コリコリしてて甘味があるしティベリアの人が高級食材って言ってるのも納得だわ」


 ぶつ切りにしたクラーケンの足を次々に口に運びながら言うケリー。


「確かに美味い。素材だけで十分美味いよ」


 グレイもタコのぶつ切りを堪能している。リズも茹でただけでこれだけ美味しいなんてと言いながらぶつ切りを次々に口に運んでいる。


「ふぅ〜。 久しぶりに海鮮料理を堪能したわ」


 食事が終わるとケリーが満足気に言い、


「そうそう。魔法学院の3年生の生徒の就職先が決まったの」


「ほう。それで?」


 グレイが先を促すと、


「王都の魔法師団に入るのは4名。残りのは殆どがエイラート魔法師団に入団が決まったわ」


「よかったじゃないか」


「家が貴族で後継ぎで貴族領の自分の家に戻る生徒がいたから実質的には希望者全員が就職できたって事ね」


「これでケリーも一安心だね」


 グレイもリズも講師で生徒を教えている立場でその生徒の進路についてはそれなりに心配していたが今のケリーの話しを聞いて肩の荷が降りた感じだ。


「あんた達には引き続き講師で月に1度は頼むわよ」


「わかってる。約束は守るよ」


 食後の果実汁を飲みながら雑談をする3人。外は夜になって底冷えしてきているが、暖房の効いている部屋でのんびりと食後の会話を楽しんでいた。




 去年は冬でも毎日開けていたグレイのBARだが、今年は週に2、3度のOPENとしている。やっぱり雪が多い日は客が来ないのだ。


 この日は昼間から結構な量の雪が降って家から外を見て今日は店を開けるのを止めることにしてのんびりと午後を過ごしているとリビングに置いてある対のオーブが光だした。


 リズがオーブを持ち、それに魔力を通すとオーブの中にエニスの顔が写って、


「やぁ、元気?」


 オーブにエニスの顔が映る。


「こんにちは、エニス。王都はどう?こっちは今日は結構雪が降ってるわよ」


 エニスの挨拶にリズが答えると、


「王都はまだ雪は降ってないよ。ところでグレイはいる?」


「ああ。ここにいるぜ」


 リズがリビングのテーブルにオーブを置いて、その正面のソファにグレイとリズが並んで座る。


「グレイ、久しぶり」


「久しぶりだな。いつこっちに帰ってくるんだ?」


「エイラートの雪解け頃かなぁ」


 エニスがそう言ってから続けて、


「早速だけどグレイ、ちょっと大事な話があるんで明日の午後にリズと二人で王都に来られないかい?」


 エニスの言葉を聞いたグレイとリズは顔を見合わせ、


「大事な話? 嫌な予感しかない」


 グレイの呟きがオーブを通じてエニスにも聞こえ、


「まぁそう言わずに来てくれよ。国王陛下から頼まれてるんだよ」


 国王と聞いて二人とも条件反射の様にソファに座っている居住いを正す。


「何だって?国王陛下が来いって言ってるのかよ」


「そうそう」


「先にそれを言えよ。ナザレ国王の頼みなら俺たちが断る訳がないだろうが」


「全くエニスって肝心なところを先に言わないのは全然変わらないのね」


 リズも隣で呆れながらエニスに向かって話かける


「そう責めないでよ。とにかく明日の午後王都にきてくれるかな?関係者には

話しておくからさ。貴族門から入ってそのまま城に向かってくれたらいい」


 オーブの通信が切れると、リズがオーブをリビングの棚の上に丁寧に戻してソファに戻ってくると


「ナザレ国王が今頃私たちに何の用かしら?」


「さぁ。想像もつかないよ」

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