第53話 クラーケン退治

 そんな話題になっているとは思っていない二人はギルドを出ると港町ティベリアの中をのんびり散策している。露店をのぞいては、


「見たこともない魚があるね」


「貝や海老もデカくて美味そうだ」


 そうして露店で聞いた海鮮料理の美味しい店に入って海鮮料理をいくつか注文する。


「すごく美味しいね」


「エイラートでは食えない味だ。スープも魚介の出汁が効いててめちゃくちゃ美味いな」


 出されてくる料理を口にするたびに感嘆する二人。リズは持ってきた給仕に魚の名前や調理方法を聞いている。


「ふぅ〜、食った食った」


 二人ともたっぷり海鮮料理を楽しんで店を出てグレイがお腹をさすりながら言うと、その仕草を見て隣を歩いているリズが、


「エニスみたいに明日お腹壊さないでね」


「多分大丈夫。まぁ壊したらリズの治癒魔法で頼むわ」


「もう」


 そうして二人は露店を見ては、さっき食べた魚や貝を買ってリズがアイテムボックスに収納していく。


「ケリーにも食べさせてあげないとね」


「そうだな。多めに買っていこう」


 のんびり露店をのぞき、買い物をしながら港の方に近づいていく2人。


 ティベリアには港が2つあり、1つは他国や国内の他の街とを結ぶ貨物船や客船が入る大きな港、もう1つは地元の漁師の船が並んでいる漁港。


 露店を見ながら歩いていくと、漁港が見えてきてせっかくだからと二人でブラブラと漁港に歩いていく。


 漁港に着くと、思いの外、漁船がたくさん停泊していて今日の漁はもう終わったのかとグレイがそこに立っている漁師に話かけると、


「いや、漁に出られないんだわ。沖にクラーケンが出ていてな。最近見なかったんだが昨日から出てきて漁船が何隻か沈められているんだよ」


「そうなんですか」


 クラーケンはタコの大型の魔獣で、強さ自体はランクAクラスの冒険者ならパーティで普通に倒せるが問題は海の中にいるということで、攻撃を受けるとすぐに海中に逃げ、そして海中から足を伸ばして攻撃してくる厄介な魔獣だ。


「グレイ。やっつけちゃったら?」


 リズに言われるまでもなく、


「そうだな。漁の邪魔をして美味しい海鮮料理を食べさせてくれない魔獣は討伐しないと」


 そうして二人が漁船の停まっている桟橋に近づくとそこには数名の冒険者達が桟橋から海を見ていた。


「クラーケン退治かい?」


 グレイが冒険者に声をかけると、彼らはこちらを振り向き、


「ああ。ただ、あいつすぐに海に潜るんで困ってるんだ」


「なるほど。俺はグレイ、こっちがリズ。エイラートから来たんだけど、クラーケン討伐手伝ってもいいか?」


 グレイが桟橋で固まっている冒険者に自己紹介すると二人の名前を聞いた冒険者達の表情が一変する。


「グレイとリズって大賢者と聖僧侶かい?」


「そう言われてるな。一応二人ともランクSだ」


 その言葉で全員グレイとリズを尊敬の目で見て、


「是非お願いしたい。俺たちじゃ埒が明かなくて困ってたんだ」


「わかった」


 そう言うと冒険者の一人がギルドに行ってくると言って走り出した。


「漁船を一隻借りてくれ、それにリズが乗り込む」


 すぐに一人の冒険者が漁師を連れてきて、その漁師にグレイが作戦を説明する。


「わかった。だが俺の船は大丈夫なんだろうな」


 心配そうに言う漁師に、


「大丈夫だ、リズの強化魔法はクラーケンクラスじゃ破られない。安心してくれ。万が一の時は俺が船の代金を支払う」


「そこまで言ってくれるんならOKだ。あの野郎を退治してくれるのなら協力するよ」


 そうして漁師の出す漁船にリズが乗り込み先に海に出ていく。


「そろそろ俺も行くか」


 グレイはそう言うと桟橋にいる冒険者達に、


「ここで見ていてくれて構わない。サクッと倒してくるよ」


 そう言うとその場で浮かび上がる。


「あれが大賢者の浮遊魔法か」


「凄いな。飛んでる」


 浮かび上がったグレイがそのまま浮遊状態で沖に向かって飛んでいくのを茫然と見る冒険者達と漁師達。


「今飛んでいったのはグレイね」


 冒険者が声のする方を見ると、ギルマスのタニアを始め職員数名が桟橋にやってきた。


「そうだ。リズが船で出ていってそれでクラーケンをおびき出してグレイがやっつける戦法らしい」


 一人の冒険者がギルマスに答えると、


「なるほど。あの二人なら見つけたらさっくりと倒してくれるでしょう」


 沖合に飛んでいくグレイを見ながらタニアが呟く。


 グレイは浮遊魔法で浮かび、飛行魔法でリズの船を追って沖合に向かうと、リズの船が見えてきた。


(しっかり船全体に強化魔法が掛かっているな)


 そのまま浮遊しながら船に近づいて、リズに、


「クラーケンが出そうな場所をゆっくりと船を進めてくれ」


「わかった」


 そう言うと操舵室にいる漁師に話しをするリズ。


 漁船はしばらく沖合に進むと、その場でゆっくりと周回しだした。


(この辺りか…)


 グレイは水面から数メートルの高さを保ちながら気配感知を働かせる。


(いた! 上がってくる)


「見つけた、来るぞ!」


 大声でリズに言うと水面をじっと凝視するグレイ。すると、海中から大きなタコの足が船に伸びてくるのが見えた。


 足は船を掴もうとするがリズの強化魔法で足が弾かれる。クラーケンは船の下を移動しながら何度も足を出すがその度に弾かれて船をつかめない。

船は左右に揺れるものの、強化魔法で覆われているのでクラーケンの足の攻撃を全て弾いている。


 グレイはじっとその様子を見てクラーケンの頭が海面に出るまで待っている。


 何度足を出しても弾かれることに怒ったクラーケンがその姿を海上に出した瞬間に、


(今だ)


 グレイの雷系の精霊魔法がクラーケンの頭に直撃するとクラーケンの全身が雷に包まれ、感電死した身体が海の上に浮かび上がった。


 グレイは近づくとその死体をアイテムボックスに収納し一旦船に降りると漁師に


「倒したから港に戻ってくれ」


「凄いな、あのクラーケンを一撃かよ」


 漁師はびっくりしながらも船を漁港に向けて全速力で戻っていく。


「1体しか感知しなかったけど、リズはどうだった?」


「私もあの1体だけだった。他はいないみたいね」


 船の中でそんな話をしていると無事漁港に戻り、船から降りて船着き場の空き地に倒したクラーケンをアイテムボックスから取り出した。


「こうして見るとでかいな」


「こいつ死んでるのか?傷がついてない」


 空き地に出したクラーケンの周りに漁師と冒険者達が集まってきた。


「感電死させたから表面に傷はないよ」


「なるほど。それにしても精霊魔法一発で倒しちまうのか」


 クラーケンを見ながら思い思いに喋っている冒険者や漁師。


「グレイ、リズ、助かったわ。ありがとう」


 ここのギルマスのタニアがクラーケンのそばに立っている二人に近づいてきた。


「恐らくこの1体だけだと思う。俺もリズもこいつ以外の気配を感知しなかったから」


「そう。じゃあ漁師さんや隣の客船、貨物船ももう問題ないわね。私から港の関係者に連絡しておくわ。それにしても空から精霊魔法か、それならいくらクラーケンでも逃げられないわよね」


 感心した声でギルマスのタニアが話す。


「顔に魔法が撃てるのなら強さは大したことないからな」


「それはランクSの言葉でしょ?この街は殆どがランクB以下の冒険者なのよ。彼らの精霊魔法だと一撃では倒せない」


(見ていないけど、グレイの精霊魔法は恐らく無詠唱。でないとこのクラーケンはすぐに海に潜ってしまう。流石、元勇者パーティで今は大賢者のグレイ。そして隣に立っているリズも想像以上に凄いわね。船全体を強化魔法で覆うなんて、しかもクラーケンの足の攻撃を弾くほどの強度。それほどの強化魔法は私も見たことがない。

 聖僧侶か…グレイみたいに目に見える強さがない分わかりにくいけど、リズのレベルも半端ないわ。この二人は本当のランクSのレベルね。しかも魔王討伐後よりもさらに強くなっている)


 タニアは目の前のグレイとリズを見て、ギルドのレポートで聞いていたが、実際にその強さを目の当たりにしてその想像以上の強さに驚愕していた。


「ところで、このクラーケン、グレイが持って帰る?」


「えっ!?」


 ギルマスから予想もしなかった言葉を聞いてびっくりするグレイ。隣でリズも同じ様に驚いている。


 びっくりしている表情の二人を見て、


「クラーケンは意外と美味しいのよ。特に足がね。

この街でも滅多に討伐されないから高級食材になってるの」


「そうなんだ。ねえ、どうする?グレイ?」


 リズがグレイを見て聞いてくると、


「そうだな。足の部分少しだけ貰うよ。あとはこの街で消費してくれて構わない」


「そうだね。少しだけ分けて貰っとこうか」


 グレイとリズの言葉にやったぜと歓声をあげる漁師と冒険者。


「本当?じゃあギルドの解体場で持って帰る分だけ切り取って渡すけど。

残りは本当にいいの?」


 タニアの言葉に要らないと答え、クラーケンを一旦アイテムボックスに収納すると、その足でギルドの解体場に向かい職員が解体した足の一部だけ貰って、残りは皆んなで食べてくれと残りの大部分をギルドに譲渡した。


「本当に助かったわ。ありがとうね、グレイ、リズ」


「こっちこそ、クエストで来たついでに美味しい魚介料理を食べられて満足だよ」


「またお買い物目的でこの街に来ると思いますけどその時はよろしくお願いします」


「お二人ならいつでも大歓迎よ」


「じゃあ、これで帰りますね」


 そう言ってギルドから城門に歩いていく二人。

その後ろ姿を見ながら、


「ランクSの実力を初めて見たけど、想像以上だった」


「二人とも強さが半端ないよな」


「勇者パーティの時より強くなってるって話だぜ」


 等と話している冒険者達の言葉を聞きながらギルマスのタニアも冒険者達の言葉に一人頷いていた。


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