第52話 港町ティベリア その2

 翌日の朝、二人がギルドに顔を出すと職員がこちらですと二人を奥の倉庫に

案内した。

 

 そこには麻袋に入ったモコ草が積まれていて


「全部で100袋ある。頼めるか?」


 倉庫にいたギルマスのリチャードが二人を見つけて声をかけてくる。


「問題ないな」


 リズと二人で次々とアイテムボックスに袋を収納してあっという間に倉庫に

あった100袋がなくなって、


「もう無いのか?」


「これで全てだ。100袋あればかなり持つだろう。それでこの手紙を向こうのギルマスに渡してくれるか」


 リチャードから預かった手紙もアイテムボックスに収納すると、


「じゃあ、早速行ってくる」


「頼む」


 その場でグレイが転移魔法でリズと二人でティベリアに飛んでいった。


「エイラートに比べたらずっと暖かいわね」


 ティベリアの街の外に飛んだ二人は街道を並んで歩いて城門を目指す。


 港町ティベリアは沖合に暖流が流れている関係で冬でもそう寒くなく、また年中を通して漁ができるのでいつも賑やかだ。冒険者の数も大都市相応に多くいる。


 城門でギルドカードを見せて衛兵にびっくりされるのはいつものことで、そのまま市内に入っていくと


「賑やかだな」


「そうね。春のエイラートみたい」


 広い通りの左右には露天が並び、行き交う人の数も多い。通りを歩いていくと右手にこの街のギルドの建物が見えてきた。

 

 扉を開けて中に入ると、昼前でも冒険者が多く、受付のカウンターにもそして隣接している酒場ににも多数の冒険者がたむろしている。


 ギルドにいた冒険者達が入ってきた二人に視線を送るが、よそ者に対する視線にはグレイもリズも慣れっこなので特段気にすることもなく、絡まれることもなく受付の前に行くと、


「エイラートから物資を持ってきたんだが、ここのギルドマスターに会いたい」


 そう言って二人のギルドカードとリチャードの手紙を見せる。二人のカードを見て顔色を変えた受付嬢は椅子から立ち上がると、


「少々お待ちくだ…」


 と、最後まで言わずに奥に走っていった。


 そしてすぐに戻ってきて二人を奥に案内する。


 廊下の先にあるギルマスの執務室の扉を開けて言われるままに部屋に入る二人。


「ようこそ。ティベリアのギルドへ。私がここのギルドマスターをしているタニアよ。よろしく今回は急なお願いをしたけどあなた達がエイラートに住んでいてくれて助かったわ」


 机から立ち上がって二人に近づいてくるギルマス。背が高く服の上からでも良いスタイルであるのがわかる。何より特徴的なのはピンと尖った耳。エルフだ。


 ギルマスと握手をしてお互いに自己紹介を済ませると、リズが、


「エイラートからモコ草を100袋持ってきています。先に渡したいのですがいいですか?」


「そうね。先にいただこうかしら」


 そう言うと職員を呼んできて二人をギルドの裏の倉庫に案内し、そこでアイテムボックスから100袋のモコ草を取り出して倉庫に置いた。


 そして再びギルマスの執務室に戻り、ソファに座ると


「ありがとう。エイラートのリチャードにはこちらにまわせるだけの数をお願いしたんだけど、100袋も送ってくれたのね。これで当分は大丈夫だわ、ありがとう。それにしてもグレイの移動魔法は便利ね」


「一度行ったことがある場所しか飛べないけどな」


 渡すべき品物を渡したので仕事が終わったリズとグレイはリラックスしてギルマスと話を続ける。


「以前勇者パーティの時にこの街に来たことがあったのでグレイの魔法で飛んで来られました。その時はギルマスはこの街にはいなかったですよね?」


 リズの言葉に頷き、ギルマスのタニアは、


「私がこの街に来たのは4年前。それまでは他の街でギルマスをしていたの。だから貴方達が来た時は居なかったわね」


「それにしてもエルフのギルマスは珍しいんじゃないの?」


 グレイが思ったことを口にすると、


「多くはないわ。エルフ自体少ない上に、妖精の森から外に出るのは少ないし。

でも少ないなりにエルフの冒険者はいるのよ」


 タニアの言葉に反応するリズ。


「じゃあ、ギルマスも妖精の村の出身ですか?」


「そうよ」


 あっさり認めるギルマス。


「この前グレイとケリーの3人で妖精の村に行ってきてこのローブを新調して貰ったんです」


「村長のモネも元気だったし。これは村の裁縫士のジュリアが作ってくれたものだ」


 二人の話を聞いてタニアの表情が和んで、


「そうなの。皆元気にしてた?」


「ええ。お元気そうでした」


 リズが答え、ギルマスのタニアは顔を天井に向けると、思い出す様な仕草をしてから再び顔を二人に向けて、


「私はね、村を冒険者になるって言って村を出て以来一度も帰ってないのよ。一度くらい帰ろうと思ってるんだけどなかなか時間がなくてね」


「そんなことなら俺たちと一緒に行けばいいじゃないか。行きたい時に声をかけてくれたらすぐに村まで飛ばしてやるよ」


「グレイの移動魔法ならそうね、すぐに行けれるわね。今度お願いするわ」


「ああ。遠慮なく言ってくれればいい」


「たまには皆に元気な姿をお見せした方がいいですよ」


 グレイとリズがギルマスに助言すると、そうねと頷いて、


「ところで、貴方達、これからどうするの?」


 話題を変えてギルマスが聞いてくる。


「せっかく来たので美味い魚料理を食べてから帰る予定です」


「エイラートは雪でしょ? 暖かいここでのんびりしていってね。魚も美味しいし」


 そうしてギルマスとの話が終わって受付に戻ってきた二人。ギルドにいた冒険者が二人をじっと見ている中を普通に歩いてそのまま扉から出て行ったあと、その扉をじっと見ていた一人の冒険者があっと声を出した。


「間違いない。今出ていったあの二人。大賢者のグレイと聖僧侶のリズだ」


 彼のその言葉にギルド内が騒然となる。


「まじか?あの元勇者パーティでランクSの二人か?」


「エイラートにいるんじゃないのかよ?」


「あれか?移動魔法ってのでやってきたのか?」


 そんな話をしている中、一人の冒険者が受付に行くと二人をギルマスの部屋に案内した受付嬢に、


「今出てったの、ランクSの大賢者と聖僧侶だよな?」


 ギルドの中がシンとして皆受付嬢の言葉を待っていると、


「そうです。クエストでこの街に来られました」


 受付嬢のその言葉を聞いてギルドの中が再び騒めく。


「やっぱりか。雰囲気が違うわね」


「オーラがあるよな」


「二人とも高そうなオーブ着ていたな」


 ギルドにいた冒険者達の中ではしばらくグレイとリズの話題で持ちきりだった。

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