第56話 3か国会議 その1
国王陛下と会えばわかるだろうとグレイもリズもそれ以上聞かずに、サイモンを入れた4人で昔話に花を咲かせていると、グレイ達が入ってきたときとは別の扉が開き、
「国王陛下が来られました」
その言葉に全員姿勢を正すとサイモン、エニス、グレイ、リズの順で控えの間から謁見の間に入っていく。サイモンは謁見の間に入るとすぐに扉の前に立ち、エニス、グレイ、リズの3人が絨毯が敷かれた上をゆっくりと進んで国王陛下の近くに着くと膝をついて頭を垂れた。
歩きながらいつも左右に立っている貴族が今日は一人もいないことに気づいたグレイだったが黙っていると、エニスが頭を垂れたまま
「エニス、グレイ、リズの3名、ただいま参りました」
エニスの言葉に鷹揚に頷くと、
「面をあげよ」
国王の言葉に顔をあげる3人。
正面の高い場所にある大きな椅子に国王が座り、
その左には宰相のフィネルが立っている。
文官上がりのフィネルは戦闘能力はないが内政、外交共にこなす王国有数の切れ者で国王よりも厚い信任を受けている。
もちろん勇者パーティとは顔馴染みの間柄だ。
「久しぶりだな。グレイとリズ。元気にしておったか?」
堅苦しい挨拶が終わるとナザレ国王はきさくな口調で話かけてくる。
元勇者パーティのメンバーが皆国王のことが好きなのと同様に、ナザレ国王も目の前にいるメンバーを含む元勇者パーティのメンバーが大好きだった。
「おかげさまで、エイラートでグレイと二人でのんびりさせていただいています」
リズが国王に答えるとうんうんと頷き、
「リズも、そしてここにはいないがケリーも魔王討伐後に更に成長したと聞いておる。グレイが更に一段上に成長したと聞いた時は我が子の事の様に嬉しかったがリズとケリーも続いてくれるとはな。無上の喜びだ」
「ありがたきお言葉」
リズが頭を下げて答える。
「さて、今日お主達を呼んだのは他でもない。余の相談事に乗ってもらおうと思ってな。フィネル、用意はできてるのか?」
「はい。隣の部屋に用意してございます」
「では皆のもの、隣の部屋に移ろうではないか」
そう言って国王が椅子から立ち上がると3人は頭を下げて国王が部屋を出ると続いて隣の部屋に入っていく。
そこは普段国王が宰相らと政を打ち合わせするテーブルがある部屋で。正面の一際大きい椅子に国王が座り、その左に宰相のフィネルが座る、
「グレイ、国王陛下の正面に座ってくれ」
エニスの言葉にびっくりして、
「俺が?」
「ああ、グレイだ」
言われるままにグレイが正面に座り、その左にリズ。右にエニスが座る。
一行と一緒に部屋に入ってきたサイモンは部屋の扉の前で立っている。
「ここからは堅苦しい言葉使いは不要だぞ。余も疲れるしな」
ナザレ国王の言葉に場が和む。
大きなテーブルの上には果実汁や果物が積まれていて、
「昼間だから酒という訳にはいかん、果実汁で我慢してもらって果物を食べながら話しをしようではないか」
そういうと自らテーブルの上にある果物を口に運び
「フィネル、頼む」
「畏まりました」
そういうとフィネルが3人を見ながら今回城に呼び出した目的を話し始めた。
「魔王が倒されてから数年が経った。戦闘で疲弊した街や道路の修理も概ね終わり、この大陸にもようやく平和が戻ってきた」
向かいに座っている3人は黙って聞いている。
「世間が落ち着いてきたのでこの大陸にある3国で一度会議を持とうという話しになった。議題はいろいろある。貿易の取り決めや国境の管理の仕方など。
細かいところは実務レベルで各国の調整をするが、足並みを3国で揃えようという主旨で各国のトップ同士が一同に介して忌憚のない意見交換の場を設けることにしたのだ」
大きな話だとグレイは宰相の言葉を聞きながら思った。
幸いに今はこの大陸にある3国の関係は良好だ。
良好なうちにこの関係を長期に持続させる目的で会議をし、それを大陸中に発表しようとしている。
それと同時にここに呼ばれた目的がグレイにはある程度わかってきた。
「オーブで各国と連絡を取り合って、会談はメディナ教皇国の皇都で行うことと
なった」
フィネルがいうと、横から国王が
「あそこはいつも暖かいからな」
と笑いながらいう。
「でもここ王都からはすごく遠いですよ」
リズが言うと、ナザレ国王が、
「リズはその遠いところから王都より更に北にあるエイラートまで移動したのだろう?」
ニヤリと笑う国王。
「あの時は周りが見えてなかったから」
「いやいや。見事だぞ。そうして乗り込んでグレイの首根っこを掴むなんて、なかなか出来る事ではないぞ」
「陛下、お言葉ですが別に首根っこを掴まれているって訳ではないんですが」
グレイが弁解するも、ナザレ国王は正面に座っているグレイを見ると、
「グレイ、お前はリズに首根っこを掴まれてるくらいでちょうどいい。でないと無茶ばかりしよるからな。余は前からお前が一番心配だったのだ」
ナザレ国王はグレイを暖かい目で見ている。
この国王は賢者というジョブで勇者パーティの参謀役として縦横無尽の活躍をしたグレイの能力を認めていて普段から気にかけてくれていたのだ。
「まぁ、無茶をするのは否定出来ませんが」
しどろもどろになるグレイの様子を見ていた宰相のフィネルが言葉を続けて
「そう言うことで場所はメディナ教皇国の皇都となったのだが従来なら各国から馬車で何日もかけて移動をしていたわけだが、グレイが移動魔法が使えるということで今回はそれを利用させて貰おうと言う意見が出てな」
やはりそうかとグレイは思ったがその思いは口に出さず、代わりに
「フィネル宰相。私の移動魔法では一度に大勢を移動させることは出来ませんよ?」
グレイがそういうと国王が、
「大勢を向わせる気はない。要は各国のトップクラスが合えば良いだけじゃからな。そう言うことで今回は各国から2名の参加とした」
「「「2名?」」」
エニスもここまでは知らなかった様で思わず声を出す。
ナザレ国王は平然と、
「2名じゃ。うちからも、ルサイルもメディナもそれぞれ2名合計6名で会議を行う。ちなみに我が国からは余とフィネルの2人じゃ」
「2人ならグレイの移動魔法で問題なく移動できるだろう?」
フィネルの言葉に頷くグレイ。
「大所帯で移動すれば金も時間もかかる。
特に移動にかかる莫大な経費は全て民が納めてくれている税金じゃ。
貴重な税金はもっと国ためになる用途に使うべきだという余の意見に他国の国王達も同意してくれての」
「しかしそれでは護衛と警備がおりませんが」
エニスの言葉には宰相のフィネルが、
「移動の護衛は不要だろう?グレイが各国の首都から皇都の神殿まで魔法で移動させてくれれば何ら問題はない。会議自体は2日で終わる予定だ。あまり長くやる意味もないし短期間なら各国とも日程が調整しやすい」
「しかし、2日とは言え会談中の神殿の護衛が必要では?」
エニスがなおも食い下がる様に言うと、国王がエニスを見ながら、
「もちろんじゃ、だから余を含めた3国のトップは会議中の会場の護衛を現地のメディナの神兵と元勇者パーティに依頼することに決めた」
「「「ええっ?!」」」
思わず顔を上げて国王を見る3人
「何を驚いておる。大陸最強の5名が護衛してくれれば何ら心配することはなかろう」
「お前さん達より強い護衛は大陸にはいないからな」
国王の言葉に宰相が続けていい、最後にナザレ国王が
「各国とも合意済みじゃ」
国王のその一言でこの場にいた3名は何も言い返さずわかりましたと頭を下げた。
最後に国王は扉に顔を向け、
「サイモン、本来ならお前が余の護衛となるべき地位におるが今回だけは堪えよ」
サイモンは頭を下げ、
「ありがたきお言葉」
そこで顔をあげると、
「勇者パーティが護衛につくのであれば私は何も心配はしておりません」
「うむ」
国王陛下との謁見が終わって部屋を出ると、扉に立っていたサイモンが3人を先導して城の出口に向かう。廊下を歩きながらサイモンが、
「大変な任務だがよろしく頼むぞ」
「それにしても相変わらずというか何というか」
国王陛下との面談を終え、グレイが歩きながらブツブツと言うと、
「いいじゃないの。久しぶりにクレインにも会えるしさ」
「全くエニスはお気楽だよな」
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