第50話 妖精の村 その2

 グレイの言葉に微笑みながら、カナは続けて、


「妖精は大陸のほとんどの場所にいます。私たちエルフが森から出ずに、森の外の様子を知ることができるのも妖精達が教えてくれるからです」


「なるほど」と頷く3人。


「さて、グレイ。今日このエルフの村に来てくれたのは挨拶だけじゃないんじゃろう?何か用事があったからじゃないのか?」


 長老の言葉に頷いて、


「その通り。実は俺とリズ とケリーのローブがそろそろ寿命というか、相当使い込んできたので修理をお願いしようと思って」


「なるほど。お前達3人が身につけているローブは魔王討伐の前にエルフが差し出したもの、魔王が倒れて時が立って傷んできたのか」


「魔王が倒れてからも重宝して自分のスキル上げ等で結構使い込んでいたから」


 そう言って3人は持ってきたローブをテーブルの上に置く。長老がそのローブを手に取ってみて、


「3人ともかなり使い込んでおるの。ここまで使い込んでもらえると作った方も満足じゃ」


 そうしてローブを隣のナインに見せる。しばらくローブを見ていたナインは、3人を見ると、


「正直驚いています。エルフの作ったローブは丈夫にできているはずなのに、相当傷んでいる。想像するにかなり厳しい戦闘や訓練をを繰り返し、経験してこないとここまで傷まない」


 その言葉に長老のモネが、


「その通りじゃ。ここにいる3人と勇者とナイトを合わせた5人の勇者パーティは

魔族領に乗り込んで生きるか死ぬかの戦闘を何度も繰り返して最後に魔王を倒した

強者じゃ。

 しかもこの3人は魔王を倒して平和になってからも自分自身のスキルアップのために鍛錬を欠かさず行い、そして大賢者、聖僧侶、超精霊士と、今までのジョブのスキルを開放させたのじゃ。ただ強いだけではないぞ。普段から鍛錬を忘れない本当の勇者達じゃ」


 そう言うと再びテーブルの向かいに座っている3人を見て


「せっかくだから3人のローブを新調してやろう。以前よりも強く、そして性能が上がったそれぞれのジョブのローブを作ってやろう」


 長老の提案にびっくりする3人。


「いや、それはあまりに悪いだろう?もう魔王もいないし」


 そこまで言ったところで長老が


「グレイ、ボロボロになったローブがエルフが作ったものだと言われたくないのじゃ。大丈夫、ちゃんと新しいのを作ってやる」


 そう言うとドアに立っているエルフの衛兵にエルフ語で指示をだす。


 待つこともなくドアから出ていった衛兵が戻ってくると、そこには一緒にエルフの女性がいて、長老が部屋にその女性を招き入れる。


「彼女はジュリア。裁縫士じゃ。そして前回のこのローブを作ってくれたのが彼女じゃ」


 そしてジュリアに3人のローブを見せて、


「新しいのを作ってやってくれぬか?」


 ジュリアと呼ばれたエルフは3着の自作のローブを手に取ってじっくりと見ると、


「ここまで使い込んで頂けると裁縫士冥利に尽きますね。わかりました。新しいローブを賢者様用、僧侶様用、そして精霊士様用の3着、作らせていただきます」


「ジュリア。どれくらいでできるのじゃ?」


 長老の問いかけに裁縫士は


「3着ですので2週間あれば」


「そんなに短時間でできちゃうの?」


 思わずリズ が声に出して言うと、


「生地はあります。あとは妖精の糸で縫って染色してから乾かすだけですから」


 妖精の糸。それはエルフのみが使用できる糸で、その糸で縫われた防具はジョブ特製効果をアップする効果が付与される。


「ジュリアが2週間と言えば2週間でできる。あんた達は一旦街に戻って2週間後にまたこの地に来るがよい」



 その日は久しぶりにエルフの村で食事を共にし、そうしてグレイ一行は一度エイラートの街に戻っていった。

 

 雪が降らない南西の森でスキル上げ、そして夜は酒場の生活を送って2週間後、再び妖精の村を尋ねると村長のモネの平屋に案内される、そこにはモネの他にカナとジュリアが3人を待っていた。


「出来ておるぞ」


「生地が余ったのでズボンもついでに新調しておきました」


 そう言って3人のローブとズボンを渡してくる。3人はもらった新しい装備に着替えると


「素敵ね」


「以前のも良かったけどこちらもすごくいいわ」


 女性二人は新しいローブとズボンを履いてご満悦の様子。グレイも新しいローブとズボンを身につけると、


「これ、以前のよりも軽くて動きやすいな」


 そう言うとしてやったりのジュリア、


「そうなんです。前のを作った時と比べて私の裁縫士のスキルが上がったので軽量化できる様になりました。それと今回はカナに頼んで妖精の力を以前よりも多く妖精の糸に注ぎこんでもらったのでそれぞれのジョブについて魔法の威力が底上げされています」


「軽くなって性能が上がってるのか。それは凄いな」


 ジュリアの説明にグレイが感心していうと、隣でリズ とケリーも、


「そこまでして貰ってありがとう」


「ありがとうございます」


 頭を下げて礼を言うと、村長のモネは


「魔王を倒した勇者パーティの装備に我らエルフの防具を使って貰っておる以上、通り一遍の防具は作れないじゃろ?今回、ジュリアは相当気合を入れて作ってくれたから大事に使ってくれると嬉しいぞ」


「もちろんです。大事に使わせていただきます」


 3人を代表してケリーがお礼を言う。


 ケリーのローブは藍色で銀の縁取りと刺繍が施されている。


 リズ は白のローブで、赤の縁取りと刺繍がされていて、そしてグレイの賢者のローブは濃い茶色で金色の縁取りと刺繍が施されている。


 ズボンはケリーとリズ は膝下丈のキュロットタイプでグレイは足首までのズボンだ。


「何から何まで申し訳ない」


「なぁに、気にすることはない。それよりお主達元勇者パーティの人間はいつでも歓迎じゃ。これからは用がなくともこの村に来てくれると嬉しいぞ」


 長老の言葉にびっくりする3人。


「いや、それは嬉しい話しなんだが、本当にいいのか?」


 エルフは余所者をあまり村に入れたがらないと言われている。そんなエルフの方から用がなくても来てもよいと言われてグレイはびっくりする。


「お主たちは魔王を討伐してくれた。それは人にとっても私等エルフにとってもありがたい事じゃ。そんな勇者を断ることはあるまい。エルフにとってもお主らは恩人なのじゃからな」


 モネの言葉にその隣にいるジュリアもカナも大きく頷いて、


「長老様のおっしゃる通りです。私たちエルフは決して恩人を忘れません」


 カナとジュリアが口を揃えて言う。


「わかった。これからも時間があるときには顔を出すことにするよ」


 グレイがそう返事すると頷く3人のエルフ。

 

 その後村で食事を共にして昼過ぎに村を出た3人。


「せっかくだからこの新しい装備でスキル上げに行かない?」


 ケリーの言葉に乗っかって3人はいつもの森の奥に飛んでいった。


「動きやすいわね」


「それに、精霊魔法の威力が増えてるのが実感できる」


 ランクAの魔獣を倒しながらリズ とケリーが新しい装備の感想を言っているが

グレイも全く同じ感想であった。


「魔法の効果が1割ほどアップしてる感覚だな」


「そうね。この1割アップは大きいわね」


 リズ は回復魔法を使って


「僧侶の魔法も1割程効果が上がってる感じ。これは助かるわ」


 3人ともに新しい装備に大満足してエイラートに戻っていった。


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