第49話 妖精の村 その1

 朝がめっきりと冷えこんできて、街の中ではもうすぐ初雪だと人々が話し合っている頃、森での魔物退治を終えて昼過ぎに自宅に戻ってきたグレイとリズ 。


「俺とリズのローブも随分とくたびれてきてるな」


 自宅に戻って脱いだローブを手に取って前と後ろを見ながらいうグレイ。リズも同じ様にローブを見ながら


「そうね。結構長い間使ってたから。そろそろ寿命かな」


 グレイ、リズ 、そしてケリーは後衛ジョブでありそれぞれジョブのローブを身につけている。賢者のローブ、僧侶のローブ、そして精霊士のローブだ。


「久しぶりに妖精の村に行って修理してもらおうか。長老のモネにも久しぶりに会いたいし」


「そうね。行くならケリーにも声かけないと」


「そうだな」


 グレイとリズ が話しをしている妖精の村、別名エルフの村はアル・アイン王国、ルサイル王国、そしてメディナ教皇国の3箇所にまたがる大森林の中にある。


 彼らエルフは国という概念を持たず、昔からずっとその大森林の中に独自の村を作って人族とは距離を置いて生活してきていた。そして決して大森林から外に勢力を広げようとしなかった。


 そうは言っても人族と対立しているわけではなく、距離を置いているだけで、実際魔王討伐の際にはエルフの村から勇者パーティに装備が送られている。


 今のバンカール大陸の3国も、エルフの意思を尊重し、彼ら独自の生活圏としての大森林を不可侵のエリアとして大森林の周囲を常に警備して許可のないものが勝手に森に入らない様にしている。


 勇者パーティのメンバーは皆エルフの村を訪問しており、また魔王を討伐した後、村に報告に行った際にはお礼の言葉と同時に、メンバーはいつでも来てよいと村の最長老から言葉をもらっていた。


 このことは大陸3国のトップも知っており、元勇者パーティのメンバーだけはそれぞれの国のトップの許可なく村を訪問することが許されている。


 ケリーが家にやってきた。


「試験がちょうど終わって時間があったのよ。私も気になっていたからよかったわ」


「じゃあ早速行くか」


 3人は移動魔法で大森林の中に飛ぶ。森に入ったところあたりに飛んだグレイ。いつでも許可なく行けるとはいえ、周囲を警備している兵士たちに見られなくてすむのならそうした方がいいだろうという考えだ。


「この辺はやっぱり暖かいわね」


 獣道の様な細い道をグレイ、リズ 、ケリーの順で歩いていると後ろからケリーの声がする。


「森の木で陽光が直接当たらなくてこの暖かさだ。直接日光を浴びたら暑いくらいだよな」


 ケリーの言葉にグレイも同意して細い道を歩いていくと。前方の気配を感じて止まる。


 この大森林はなぜか魔物がおらず、いるのは野生動物ばかりだ。これも妖精の加護と言われている。


 グレイが感じているのは野生動物の気配ではない。となると、


「大賢者グレイ様と見ますが」


 正面の大きな木の後ろから声がして、その木陰から弓を持ったエルフの男が顔をだした。青年に見えるがエルフは長寿故に本当の年齢はわからない。


「そうだ。グレイだ。後ろは同じパーティメンバーだったリズ とケリー」


 答えながらグレイは正面のエルフを見ていた。


(弓使の戦士だな)


 エルフの青年はグレイの背後の二人を見て頷いて、


「確かに。我がエルフの村にようこそ、ここからは私が案内します」


 そう言って細い道を歩き出したエルフに続いて3人も森の中に進んでいく。


 3人は気づいていたが、3人を取り囲む様に周囲に数名のエルフがいて、同じ様に進んでいる。


 1時間ほど歩くと、森の中の大きく開けた場所についた。エルフの村だ。


「いつ見ても綺麗な場所ね」


 リズ が思わず言うと、案内役のエルフは振り返って、


「ありがとうございます。勇者パーティの方にそう言っていただけると嬉しいです」


 開けた場所には自然のままの木々の間に木で組まれた家屋が余裕を持って並んでいて、木から張り出している大きな枝葉によって日光が遮られていて、鳥の声や風で木々の葉が揺れる音がしている。


 一行は村に入るとエルフの民から挨拶を受けながら村の中を進み、一軒の大きな平屋の建物の前についた。


 案内役をしたエルフが先に建物に入ると直ぐに出てきて


「長老様がお会いになられます。どうぞ」


 3人が中に入ると、奥の大きな椅子に一人の女性のエルフが座っていた。


 3人を見ると相好を崩して椅子から立ち上がり、


「久しぶりじゃの。グレイ、リズ 、ケリー。今はそれぞれ大賢者、聖僧侶、超精霊士じゃったか。魔王討伐以来じゃが、それぞれの活躍はここにも届いておった。弛まぬ鍛錬を続けておったみたいじゃの。うん、見事見事」


 そうして部屋にあるテーブルに座る。長老の正面にグレイが座りその左にリズ 、右にケリーが。エルフの方は正面に長老、そしてその左にグレイ達を案内してきたエルフ。右にはこの部屋にいた女性のエルフが座った。


「モネ長老様もご機嫌麗しく、また今回は急な訪問にも関わらずご対面いただきありがとうございます」


 グレイが精一杯の敬語で話かけるのを左右のリズ とケリーは顔を下に向け、笑いを堪える表情で聞いている。


 グレイの言葉を聞いた長老も笑いだして、


「グレイ、似合わないことをしても疲れるだけじゃぞ。私は普段のグレイが好きなのじゃ、遠慮は要らぬ」


 そう言われてふぅ〜と大きな息を吐くと、


「とりあえず最初くらいはと思ったけど、俺にはきついわ。エニスの様にできないよ」


 長老のモネに言われてホッとしてつい本音で言ってしまう。


「そういえばエニスも今はお主らの領地の領主らしいの?」


「ええ。辺境領の領主をしています。住民からは意外と評判がいいんですよ」


 ケリーも普段の口調で長老に話しかける。


「なるほど。まぁあんた達勇者パーティだったメンバーは皆裏表のない素直な人達だ。エニスが評判が良いといのもうなずける話じゃ」


 そこまで言うと、


「そうそう。先に紹介しておこう。私の左に座っているのがナイン。右に座っているのがカナという」


 紹介された二人はエルフ式の礼をする。


「ナインはこのエルフの村随一の弓の使い手で、今は村の守備隊の責任者をしておる」


 紹介されてなるほどとグレイは思った。森の中で会った時印象通りだったからだ。


「こちらのカナは妖精に通じておる。エルフはもともと妖精と通じておるが、この子は強い力を持っているみたいでな。我らの中で一番妖精に好かれておるのじゃよ」


「そうなんですか。じゃあ私達が森に入った時から妖精さんから教えて貰って知っていたんですね」


 リズ がカナの方を向いて言うと、頷き、


「はい。妖精達がやってきて言ってくれました。人族の3人が森に入ってきている。

この3人は前にも見たことがある。皆いい人だよ、怖くないよって」


「妖精達に嫌われていなくてよかったよ」

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