第47話 グレイとリズ、講師をする その2
そうしてグレイとリズが初めて魔法学院に教師として生徒を指導する日がやってきた。
エイラート魔法学院は居住区の一角にある。二人とも賢者と僧侶の格好で学校の正門をくぐっていくと、正面にある教職員の建物の前でケリーが二人を待っていた。
「待ってたわよ、お二人さん」
ケリーに案内されてまずは職員室に入り、教職員に挨拶をしてから生徒が待っている屋内の鍛錬場に向かう通路を歩いていく。その後ろには教員もついてきている。
大賢者と聖僧侶の魔法を間近で見られる機会なんて滅多にあることではないし、初日ということもあり、生徒はもちろん、ほとんどの教員も鍛錬場に集まってきていた。
「一応全校生徒を集めているの。当人の希望のジョブはあるけど全部見た方がいいと思って」
「全校生徒って何人いるんだい?」
「1学年約40名だから120名ほどかしら」
「結構いるんだね」
リズ がびっくりして言うと、
「王都の魔法学院はここの2倍はいるわよ」
「そりゃすごいな」
「数が多けりゃいいってもんじゃないけどね。問題は質よ、質」
そうしてケリーを先頭にリズ 、最後にグレイが魔法学院のドーム型をした鍛錬場に入ると、大きな歓声が沸く。
学院の全生徒が鍛錬場のグランドの片側に集められていた。グランドの周囲には観客席になっていてそこには3人の魔法を見にきた教職員達が座る。
最初に職員室で挨拶をした魔法学院の女校長のセシリアが生徒を前にして、
「はい。みなさん、静かに」
一瞬で静かになる鍛錬場
「この前言ってた通りに、大賢者のグレイ様と聖僧侶のリズ 様が当学院の非常勤講師としてこれから月に1度程度みなさんの指導をして頂けることになりました」
そこまで言うと再び歓声が上がる。その歓声が収まってから、
「今日は初日ということで超精霊士のケリー先生と3人でこれから精霊士、僧侶、賢者の魔法とその役割について実践しながら説明してもらいます。元勇者パーティで今では大陸で最も優れている3人の魔道士の魔法をしっかりと見て勉強する様に」
「えらく持ち上げるな」
「そりゃそうでしょ?事実なんだから」
グレイの呟きにケリーがあっさりと答え、校長先生のじゃあお願いしますという言葉にケリーは一歩前に出ると、
「僧侶と賢者の魔法と役割について今日はグレイとリズ からしっかりと教えて貰うから皆さんもしっかりと聞いて、見て、自分のものにしてください。じゃあリズ からお願いできる?」
そう言うと職員が生徒とリズ の間にミスリル製の人形を何体か持ってくる。
「はじめまして、リズ です。僧侶をしています」
美人のリズ が前に出ると男子学生を中心に生徒達の身体が前のめりになる。
「僧侶は回復、治癒、そして強化や浄化の魔法に特化した魔道士で戦闘中、戦闘の後の味方の回復や治癒、あとは瘴気で痛んだ土地の浄化などを行います」
そうして杖を持ってミスリル人形に回復魔法をかけると人形の全身が光に包まれていく。
その綺麗な光と光の強さに学生を始め教職員も「凄い」「綺麗」と呟きながらリズ の光をじっと見ている。
「これが回復魔法です。杖の先を相手に向けて魔力を送り込んでいきます。皆さんも隣の人と交代で掛けてみましょう」
リズ がそう言うと生徒達はお互いに回復魔法の掛け合いをしていく。その学生の中を歩き、杖の使い方や魔力の加減を指導していくリズ 。
「リズって教師の素質あるわね。教え方が上手いよ」
生徒の間を歩きながら指導していくリズ を見ながらケリーが言う。
「次は治癒魔法です。これは痛めている箇所に杖の先を当てて詠唱します。回復魔法と同じやりかたですが、魔力は強めにして同じ魔力を続けることが大事です」
再び生徒達が交互に身体の一部に治癒魔法を掛け合う。
「治癒魔法は回復魔法とは違いますよ。ちゃんと治癒という意識を持って魔法をかけないと効果がありません」
こんな感じで丁寧に生徒に僧侶の魔法を指導していくリズ 。時に学生の杖を持って指導したり、魔力の注ぎ方について説明をしたりしていった。
そうしてグレイやケリーの場所に戻ると、
「すぐに出来なくても毎日練習しましょう」
「じゃあ続いては賢者のグレイ、お願いします」
ケリーに言われてグレイが1歩前に出る。
「賢者のグレイだ。まず皆んなに聞きたいが、賢者ってどんなイメージだ?」
グレイの質問に学生から次々と声がでる。
「ハイブリッドジョブ」「中途半端」「極めると凄い」等
それらを聞いてうんうんと頷き、
「だいたいそれで合っている」
そして少し離れた場所に立っている2体のミスリルの人形を見て
「ケリー、あれに普通の精霊士としての精霊魔法を撃ってくれ」
言われたケリーが魔法を撃つとミスリルの人形が激しく揺れる。続いてグレイが賢者としての精霊魔法を隣の人形に撃つ。やはり人形は揺れるが魔法の威力は精霊士に比べると一目で落ちているのがわかる。
「今度はリズ 、あの人形に回復魔法を」
リズ が回復魔法をかけ、その後にグレイが回復魔法をかける。そうして生徒を向くと、
「今見てもらった通り、個々の魔法の威力は専門家である精霊士や僧侶に劣っている。そうだな、せいぜい専門家の70%ちょっとくらいのイメージだ」
そこで一旦言葉を切ると、
「ただし、一人で二役できている。そう言うことから賢者はパーティに於けるバランサーの位置づけになる」
そうしてグレイはパーティで自分が立ち回ってきた経験を学生に話ししてく。グレイとリズ の魔力やMP、そして2人の敵対心を管理しながら適度に彼らを休ませて、その間に自分が一人二役で戦闘を続けることや、戦闘終了後にも僧侶の負担を軽くして回復、治癒をしていたことなど。
「パーティに於いては黒子に近い存在、それが賢者だ。目立つのが好きな人には向かないジョブだな。常に他のメンバーの状態を確認して適切な魔法を撃つ事が求められる」
そこまで言い、
「ただし、そうやって黒子を極めると」
そうして鍛錬場で上に浮遊すると、グレイの動きに合わせて生徒の視線が上を向き、
「こんな事もできる様になり」
その場で姿を消して人形に精霊魔法を撃つ。さっきとは全く威力の違う強い魔法がミスリルの人形を直撃する。
「こうやって姿を消して、浮いたまま精霊魔法を撃てる様になれる」
「すげー」「さっきと全然威力が違う」「消えたまま撃てるのか」
学生はもちろん、グレイとリズ 以外の教職員も聞いてはいたが目の前で大賢者の魔法を初めて見せられて唖然としていた。
ゆっくりと地上に戻ってきたグレイ、
「ここまでになるには相当の訓練が必要になるが、逆に言うと、ここに到達するチャンスは皆にもあるってことだ」
その後、ケリーとリズも超精霊士の魔法、聖僧侶の魔法を学生の前で披露する。それからグレイが学生を前に賢者としてのパーティでの経験を話していった。
リズ の時も、グレイの時も、パーティの時の話をすると学生達は真剣な目で話しを聞いている。
そうして授業の最後にケリーが集まっている学生に、
「これからも月に1度は二人に来てもらいます。その時に進歩していないと、この二人に何を言われるかわかりませんよ?しっかり勉強すること」
そうやって魔法学院での教師の仕事を終えた二人は鍛錬場を出て職員棟に戻り、学院の応接室に入るとソファに座ってぐったりして、
「疲れたぜえ、魔物相手の方がずっと楽だわ」
「本当ね。気を使うわ」
グレイとリズ がソファに座って脱力しているのを向かいに座ったケリーとこの学院の校長のセシリアが見ていて、
「今日はありがとうございました。うちの生徒達ももちろん私も大賢者様と聖僧侶様の魔法を見ることができて感激しております」
「まぁ学生達のやる気がそれで上がるのならこっちはいいんだけどな」
「上がるに決まってるでしょ?普段見たことがない程皆真剣な目であんた達を見てたもの」
ケリーが校長の後に続けて言い、
「二人とも教師の素質が十分にあるわよ。今からでもこの学院で働かない?」
グレイは顔の前で大きく手を左右に振り、
「よしてくれよ。俺もリズもスローライフがしたくてこのエイラートに住んでるんだからさ。のんびりさせてくれよ」
グレイの言葉に隣に座っているリズ も頷いて、
「教師はケリーに任せるからさ。約束したから月に1度はこれからも二人で来るけど」
「残念ね」 「本当に残念ですわ」
ケリーとセシリア校長が同時に言い、
「でもこれでまた来年度の受験生が増えることは間違いないわ」
「月に1度大賢者様と聖僧侶様の授業を受けられるなんてアル・アイン国内にある魔法学院でもこのエイラートだけですもの」
二人の話を聞いているグレイとリズはどうしてそこまで盛り上がれるのかわからずに黙って二人のやりとりを聞いていた。
そうしてしばらく雑談をしてからグレイとリズがソファから立ち上がり、校長に礼を言って部屋を出ようとすると、なぜかケリーも一緒についてくる。
「あれ?ケリー、授業は?」
「今日はあれで終わりなの。だからこれからスキル上げに行こう!」
「滅茶苦茶元気だな!」
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