第46話 グレイとリズ、講師をする その1

 グレイ達が辺境領領主のエニスの家で食事をしてから1週間が経った頃、辺境領主の名前で領内に魔法師団の設立の告知がされた。


 領内の殆どの貴族はこの魔法師団の設立を歓迎し、領主のエニスに一人でも多く派遣してもらう様に一斉に働きかけだした。


 一方、エイラート魔法学院の生徒もこの決定に湧き立っていた。今まで卒業しても就職先が殆どないという理由で授業に対するモチベーションが低かったが、自分達の代から急に就職先が増えたからだ。

 

 これにより今までの、とりあえず魔法学院にでも入るかと将来を深く考えずに入学してくる生徒はいなくなり、翌年以降、魔法で生計を立てたいという受験生がエイラート魔法学院に殺到することになる。


 ただ、教師のケニーは湧き立っている学生に対して


「成績の悪い生徒や素行に問題のある生徒はこの魔法学院として推薦しませんから。

卒業後王都魔法騎士団、そして今回新設されるエイラート魔法師団で働きたいのならしっかりと勉強して立派な人になりなさい」


 と釘を刺すのを忘れなかった。

 

 ケニーの言葉とエリスの告知のせいでエイラート魔法学院の生徒の質は日に日に向上していった。



「エニスの提案した魔法師団の件、好評みたいね。辺境領内各地にある教会の関係者の方も喜んでいるという話よ」


 そう言ってリズが話しだした。


 魔法師団はエイラート以外の街でも活動する予定だが街には大抵教会がある。街の教会から、魔法師団の特に僧侶を治癒や回復魔法の使い手として使わせて欲しいという話を聞いたエニスは2つ返事でOKしたという。


 したがって教会も今回のエニスの提案には両手を上げて歓迎しているらしい。


「なるほど。確かに僧侶なら教会としても貴重な人材になるな」


「最近教会に行ったときにね、そんな話を聞いたの。それからここから先は噂だけど、教皇国の教王様も特使をこの街に派遣してエニスにお礼をしたって話だよ」


「教会にとっても治癒や回復ができる人が増えるのはいい話だ。困っている人を助ける機会が増えるからな」


「そうやって上手く廻っていくといいね」


「そうだな」


 その時はそんな風にどちらかと言えば今回の一連の流れを第三者的な目で見ていた二人だったが、




「なんだって!俺たちが魔法学院の教師!?」


 素っ頓狂な声を出してグレイがケリーを見るが、ケリーは涼しい顔でうなずくと、


「せっかくこのエイラートに大賢者と聖僧侶が住んでるのよ?使わない手はないじゃない」


 ちょうど朝の鍛錬が終わった頃に自宅にやってきたケリー。話があるって言うので部屋にあげると開口一番グレイとリズ に魔法学院の非常勤教師をして欲しいと言ってきた。


「それに教師と言っても非常勤。毎日学院に出ろなんて言わないからさ」


「いや、それにしてもさ、それって無茶振りって言うんだぜ。大体俺が人に物を教えられると思うか?ケリーだって俺の性格を知っているだろ?」


 ブツブツと文句を言うグレイ。


「ねぇ、ケリー。非常勤講師って具体的に何をするの?」


 グレイと並んでソファに座っているリズが正面のケリーに聞く。


「具体的には実践の時の教師、私は精霊魔法についてはわかるんだけどさ、僧侶系の魔法はプロじゃないからリズ にお願いしようかと思って」


「じゃあリズ だけ行けばいいじゃないかよ、ケリーが精霊、リズ が回復、治癒でばっちりじゃないの」


 グレイは自分が行きたくないから必死だ。


「それがさ、生徒に将来何の魔法士になりたいかっていうアンケートを取ったら、賢者希望も多いのよ。ちょうど3分の1ずつになってるの。だから公平を期すために、精霊士、僧侶、賢者のプロがそれぞれ実地で教えて、そうして彼らの進路を決めさせたいのよ。グレイもさ、賢者になりたいっていう生徒がすぐ近くにいるのに知らん顔はしないでしょうね?」


「ぐぬぬ」


 痛いところを突かれて黙っていると


「せいぜい月に1度くらいだから、それくらいならいいでしょ?」


 と追い討ちをかけてくるケリー。


「ねぇ、グレイ。ケリーもああ言ってるしお手伝いしよ?」


 そう言うと隣に座っているリズ がグレイの手に自分の手を重ねて言ってくる。


(リズ に頼まれたら断れないじゃないかよ)

 

 リズ のダメ押しの言葉に負けてしまったグレイ。


「わかった。月に1度だけだぜ」


 そうしてグレイとリズ はエイラート魔法学院の非常勤講師として月に1回生徒に魔法を教えることになった。


 大賢者と聖僧侶が講師として学院に来ると言う話はあっという間に学院、そしてエイラートの街中に広まっていき、街を歩いていると、


「今度学院の先生をやるんだって?」


「うちの子供が行ってるんだけどさ、遠慮なくビシビシ鍛えてくれよ」


 普通の市民からも声をかけられたり応援されたりする始末。そうしてギルドに顔を出せばギルマスからは、


「グレイよ。お前さんが大賢者、リズ が聖僧侶って言われてる時点でもう逃げられなかったんだよ。諦めな。それに魔法師団はここでも地方の都市でも活動の拠点はギルドにするって話しだ。ギルドにとってもいい話なんだよ。立派な魔法士を育ててくれよ」


 ギルマスのリチャードからも背中を押されてしまうグレイ。


 エニスは魔法学院の卒業生を地方の街に魔法師団として派遣する条件として現地での活動拠点をその街の冒険者ギルドにすると発表していた。これは魔法師団に対する貴族、教会の必要以上の関与を避けるためであり、独立した機関であるギルドの冒険者として普段は活動し、必要に応じて教会や、街の護衛、警備に当たることにさせたのだ。


 毎日仕事があるわけでもないので、教会も貴族もエニスの提案については受けざるを得なかった。元々費用は全て領主持ちので街に派遣してもらうのでそれ以上の要求なんて領主にできなかったというのもあるが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る