第45話 魔法学院
一旦エニスとマリアを領主の館まで飛ばしてから自宅に戻ったグレイとリズ 。
そうして市内にある噴水の前でケリーと待ち合わせして3人で通りを歩きながら領主の館に向かう。
ランクSの3人は街でも有名で行き交う人が声をかけてきたり挨拶してくるのに答えながら夕暮れの街をのんびりと歩いている。
「そういえばさ」
ケリーが前を見て通りを歩きながら、
「この前大通りでいきなり女性をお姫様抱っこしてそのまま空に飛んで消えていったバカップルがいたって話を聞いたんだけど」
「バカップルって誰のことかしら?」
「さぁな。そいつ夢でも見てたんじゃないの?」
リズとグレイが軽く流そうとするが、
「あんた達ね、そうでなくても有名なんだからさ。自分たちの言動に気をつけた方が良いわよ」
立ち止まって二人を睨みつけながら言う
「有名なのはケリーも同じだろう?」
「あたしゃ空は全く飛べないのよ!」
そう言うとリズ を見て
「それにしてもあのリズ がねぇ、大胆になったものだわ」
「えへへ、でしょ?」
「えへへ、でしょ? じゃないでしょうが、もう」
馬鹿話をしながら館の前につくと、話しは通っていたらしく衛兵がすんなに門を開けてくれて、そのまま館に入って案内された部屋は豪華なダイニングルームだった。なんでも他の貴族との会食用の部屋らしい。
あまりの豪華さに皆びっくりしていると、すぐにエニスとマリアが部屋にはいってきた。全員が椅子に座ると、グレイ達が入ってきて扉とは別の扉が開いて沢山の料理が運び込まれてきた。
「いつもこんな凄い料理を食べてるの?」
料理を目の前にしてケリーの目の色が変わる。
「ちがうよ。今日は3人が来るから特別だよ。さぁ食べよう」
食事をしながら今日のダンジョンクリアの話しで盛り上がる5人。ある程度食事が進んできたところで、
「最後のボス戦だけど、勇者パーティから見てあのボスの強さはどうだったの?」
食事の手を止めてマリアがグレイの顔を見て聞いてくる。グレイは目の前にある料理にかぶりついていたが、その手を止めると、
「そうだな。3人のスキルがアップする前だったとしたら倒すのに苦労したと思うよ。倒せないことはないけどもっと時間が掛かってた。おそらくあの雷撃も3、4回は発動されてたと思う」
「ということはもし勇者パーティ以外のパーティがあのボスに挑戦したら?」
「相当きつい戦いになるだろうね」
思ったことをそのまま伝えるグレイ。口に入っていた食べ物を胃に送り込んだケリーが、
「グレイが言う様にかなりきつい戦いになるわね。ひょっとしたら全滅するかも。私たちだから、レベルとスキルが高い私たちだから倒せることができたとも言えるのよ。生意気な言い方かもしれないけどそれが事実なの。
格上の魔物を相手にする時の魔法はね、相手とのレベル差というかスキル差というか、自分より上の相手だとフルで入らないことが多いのよ。弾かれるかハーフレジストされるのね。おそらく武器も同じ。なかなか傷をつけられない。そうなると討伐に時間がかかるしその間は相手の攻撃を凌がなければならない。戦闘時間が長くなればなるほど此方がダメージを受けるリスクが高くなる。となると、どうなるかはわかるでしょ?」
魔法学院の教師をしているだけあってケリーは冷静に第三者の目で説明していく。
ケリーの説明に頷く他のメンバー。グレイがケリーのあとを続けて話をする。
「最後倒れる前に精霊魔法が当たってベヒーモスが後ろ足だけで立って腹を見せた時にエニスが剣で腹を切り裂いていただろ?普通はあれほど剣でベヒーモスを傷つけることなんてできないんだよ。勇者のエニスだからあれができるのさ。普通の戦士じゃあれはできない。あの短時間で何度も腹を切り裂くなんて事はね」
聞いていてなるほどとマリアは感心していた。今までの戦闘から分かってはいたがボス戦を目の前にして感じたのは。当たり前だが彼らがランクSで、かつ魔物との戦闘のプロフェッショナルだということだ。
自分達の実力をしっかりと認識し、各自が自分の仕事をきっちりこなしながら仲間が次にどう動くかを理解している。一見バラバラに見える動きが全て連動するととてつもないパワーを生み出している。自分たちの力量のみならず仲間の力量も完全に
理解しているからあれ程のボスでも慌てる事なく冷静に対処できるのだと。
正面に座ってニコニコしながら食事をしているリズにしてもいつの間にか強化魔法が上書きされていたり、少しでも攻撃を受けるとすぐに回復魔法が飛んできて。常に100%の力で戦うことが出来ていた。
「となると3人がスキルアップしたのはとてつもなく大きな戦力アップになっていたのね」
「そう言うこと。それにしても流石に領主の館だ。料理がどれも旨いわ」
「グレイ、あんまり褒めるとリズが臍を曲げるわよ」
「いや、そんなつもりで言ったんじゃないんだよ。もちろん家のリズの食事もめちゃくちゃ旨いよ」
ケリーの突っ込みにしどろもどろになるグレイ。
「大丈夫。私もここの食事は美味しいって思って食べてるもの。それに家でもグレイはいつも美味しいって言っていっぱい食べてくれるわよ。なんと言っても私の料理にはたっぷりと愛情がこもっているから」
リズが助け舟を出すと、
「はぁ、やっぱりあんた達二人はバカップルよね」
「何だい?そのバカップルって?」
エニスが聞いてきて、ケリーがグレイとリズ の大通りでの事を話しするとエニスとマリアが声を出して笑う。エニスが笑いながら、
「リズも大胆になったねぇ」
「うん。自分でもそう思う」
「そりゃそうなるわよ。だって好きな人と一緒になったら周りなんてどうでも良くなるもの」
マリアの言葉に頷くリズ 。
「ところでケリー、エイラートの魔法学院の方はどうだい?」
話題を変えたエニスの問いかけにケリーは、飲んでいたスープのスプーンを置くと口元を拭ってから、
「そうね。正直に言うともっと質が悪いと思ってたの。でも実際授業をやってみると結構素質のある生徒が多くてびっくりしているところ」
「ほう。やっぱり教授の教え方に問題があったのかな?」
エニス。
「それも無いとは言えないけど、一番の理由は学院を出ても就職先が限られてるってこと。これがモチベが上がらなかった最大の原因だと思うわ」
ケリーの言葉に頷くエニス。ケリーはエニスを見ながら話を続ける。
「卒業生の内、王都の魔法騎士団に入れるのはわすか数人だけ。残りは冒険者になるのがほとんど。中には卒業して魔法と全く関係のない仕事をしている人もいるって聞いてる。この領地だってエニスの前の領主の時はこの魔法学院の卒業生は殆ど採用していない。就職先がないとモチベは上がらないわね。素質がある子は多いのに残念だわ」
ケリーの話を黙って聞いていたエニス。おもむろに口を開くと、
「それだけど、俺はここ辺境領に新たに魔法師団を作ろうと思っている。今までなかったのが不思議なんだけどね。来年から魔法学院の卒業生を中心にして作ろうと考えているんだ」
ケリーはエニスの言葉を聞いて目を輝かせる。
「それ、エニス絶対にやってよ。そしたら生徒のモチベも上がるし私を含めた教師側ももっとやる気がでるわ」
身を乗り出してくるケリーの方を向いて、
「剣術の方は昔から騎士団があってそれなりの実力者が多い。マリアも言ってるけど
辺境領の騎士団のレベルは高い。なのに魔法師団がないのは片手落ちだとここに来て考えていたんだ」
「それって全員エイラートのエニスの所で働くってことかい?」
グレイが横から質問すると、
「いや違う。魔法師団はエイラートの辺境領領主、つまり俺の直轄部隊とするけど、勤務地についてはエイラートを含めた辺境領内の主たる街を考えている」
そこまで聞いたグレイはピンときて、
「なるほど。そうしたら辺境領にいる他の貴族の動向も掴みやすくなるな。どの街にも魔法師団はないし、辺境領主の所属で自分たちが全く金を払わなくてもいいとなると地方の貴族連中は魔法師団に街に常駐して貰いたくなるだろう。そうして恩を売りながらエニスは現地の情報をしっかり入手できると」
その言葉にリズ とケリーが、あっ!と口に出す。
「その通り」
そして再びケリーを見ると、
「近々魔法学院に対して通知をして、それから領内に告知する。ゼロから作る部隊だから辺境領の僕の下で働きたい卒業生は基本全員採用するつもり。もちろん、最初から冒険者になりたい人もいるだろうし、王都の魔法騎士団に入りたい人もいるだろう。強制はしないつもりだ」
「そうなると、来年以降についても継続的に採用していくってことね」
「もちろんだ」
「エニスにしてはいい手を考えたじゃないの」
グレイがエニスのアイデアを称賛する。
「たまには仕事してる所も見せないとさ」
「「普段はしてないのかよ!」」
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