第44話 ダンジョンボス攻略
そうして全員で目の前にある階段を下に降りていくと、
「予想通りだ」
「うん。やっぱりだったわね」
「これが…ボス部屋?」
「そう。大抵ボス部屋の前にはこういう大きな扉があるの。中に入ると扉は勝手に閉まって、勝つか死なないと開かない仕組み」
グレイ以外の4人が口々に話すのを聞きながらグレイは扉の向こうに気配感知をかけてみたが、結界が張ってあるのか扉の向こうの気配は何も感じられない。
「グレイでもダメ?」
グレイの仕草を見ていたリズ が声をかける。
「ああ。結界が張ってあって扉の向こう側の気配が読めない。まぁ大抵は結界が張ってあるんだけどさ、ひょっとして…なんて甘い期待を持ってやってみたけどやっぱりダメだった。ただ、19層の難易度から見るとそれなりの強さのボスだろう」
そうして全員を見ると、
「と言う訳でこの扉の向こうにこのダンジョンのボスがいる。ボスが何かはわからないが、やることは一緒だ」
グレイの言葉に頷く4人。
「エニスとマリアは出来るだけ剣を当てる回数を増やしてくれ。一撃のダメージよりも回数を意識して。そうやってボスのタゲを常に二人でとる感じで。ケリーは二人が戦闘を開始したら好きなタイミングで精霊を撃ってくれていい」
「敵対心を気にしなくてもいいからね」
「そう言うこと。ただ、弱体から精霊を撃つときは俺に声をかけてくれるかい。精霊を合わせて乗せるから」
「了解」
「リズ は強化魔法と回復を頼む。前衛二人優先で」
「わかった」
「俺は状況を見ながら精霊、回復をするから」
「いつものグレイなのね」
「俺はこれしか出来ないからさ、いつも通りだよ」
グレイに話かけてきたリズの肩を叩いて
「装備と薬品の確認をしたら行こうか」
各自MPポーションやHPポーションを確認してOKの合図が揃ったところで、
「エニス頼む」
エニスが先頭に立って大きな石の扉を奥に向かって開けていった。
その部屋は闘技場の様に円形になっていて、高い天井から柱そして床まで一面が白い色に包まれている。
中心部の円形状の床の上に10メートルはあろうかとう魔獣が1体横たわっていて、エニスらを見るとゆっくりと立ち上がる。
「ベヒーモス」
エニスの呟きにかぶせる様にグレイが
「こいつは雷撃がある、自分の周囲に雷を落とすんだ。身体が震え出したら雷撃が来るからすぐに離れて。5メートルも離れると雷撃は届かない。あとは図体がでかくてHPが多いだけのNMだ」
グレイの言葉に全員頷くと、エニスが駆け出し、その後にマリアが続いてベヒーモスに向かっていく。
エニスとマリアがベヒーモスの右前脚のところに立ち剣で攻撃を始めると、ケリーが土系の精霊魔法を撃ち始める。敵対心を考えないので最初から手加減無しの精霊魔法だ。ベヒーモスは前脚を振り回してエニスとマリアに攻撃をしてくるが、二人とも上手くそれをかわして足に剣を振るう。そして少しでもダメージを受けると即リズから回復魔法が飛んでくる。
戦闘が始まるとグレイは浮遊して天井近くから下に向けて精霊魔法を撃つ。敵対心減少はないが、ベヒーモスはここまで届く攻撃の術を持っていないので彼も最初から威力の大きい魔法を撃っている。
「グレイ、1回目行くよ!」
ケリーが叫ぶと同時に弱体魔法を撃ち、すぐに精霊魔法を撃つ。それと同じタイミングで空からグレイの精霊魔法がベヒーモスに着弾すると大きな叫び声を上げるベヒーモス、その身体が震えたのを見ると、
「離れろ!」
その一言でエニスとマリアがベヒーモスから離れると同時に魔獣の周辺に落雷の様に次々と雷撃が落ちてきた。
それが止むと再び近づいて剣で足を切り裂いていく二人。
「グレイ、2回目!」
ケリーが再び弱体から精霊のコンボを撃つ。グレイとケリーの精霊魔法がベヒーモスに着弾すると大きな叫び声をあげて後ろ足立ちになった魔獣。
そのタイミングを逃すはずもなく、エニスがベヒーモスの腹の下に入ると目にも止まらぬ速さで腹を切り裂いていった。
そうしてエニスが腹から離れたタイミングで前脚を地面に下ろしたベヒーモスだが、誰がみても瀕死の状態になっているのがわかり、そこにケリーとグレイの弱体、精霊の3回目のコンボが当たるとベヒーモスは雄叫びと共その身体が光に包まれて
そして消えていった。
「やったな」
エニスが地上に降りてきたグレイとハイタッチする。他の3人もお互いに抱き合って悦んでいて、
「やっぱり戦闘のスタイルが変わったよな」
とグレイ。
「この方がいいな。早く倒せる」
エニスも納得している様だ。
ここにいるメンバーは全員各自の役割を理解しているので誰が討伐に貢献したとかは全く気にしていない。自分たちのやり方が成功して短時間でうまく倒せたことを素直に悦んでいる。
「アイテムはグレイが持って帰ってくれる?」
フロアの中央に現れた宝箱をケリーが開けると、その中にはベヒーモスの毛皮、ベヒーモスの立髪、そして金貨が100枚入っていた。
「全部ギルド売りでいいよな。後で精算して皆に分けるよ」
そう言うと全てアイテムボックスに収納していく。
私はいらない…そう言おうとしたマリアの肩をエニスが押さえてマリアに向かって何も言わずに首を左右に振るとマリアもそれ以上言わず、グレイとケリー、リズ に向かって
「初めてのダンジョン討伐に付き合ってくれてありがとう。すごく楽しかったわ」
「よかった」
「また行きましょう」
リズ とケニーが声をかけ、グレイも
「これで終わりじゃないしさ、時間があったら別のダンジョンにも挑戦してみようぜ」
「いいの?」
マリア。
「「全然問題無し」」
地上に戻って警備兵にダンジョンをクリアしたことを報告すると、
「あんた達ならやると思ってたよ」
そうしてエイラートに戻り、ギルドの応接室でギルマスのリチャードを前にダンジョンクリアの報告と戦利品の買取をお願いする。
「あっという間に攻略しちまったか。まぁ、勇者パーティならそうなるわな」
「このアイテムは全部ギルド買取で査定を頼む」
ギルドでの話は基本グレイが窓口になってリチャードと進めていく。
「わかった。滅多に手に入らない物だから高く買い取れるだろう」
職員が買取価格の査定をしている間、
「ところで、他にいいダンジョンはあるかい?」
「グレイの移動魔法があるなら距離は関係ないとなればまだまだそこそこのがあるぞ。もちろん未クリアばかりだ」
そう言って2、3箇所の場所を紹介してくるギルマス 。
「これらのダンジョンはここエイラートからから遠いせいか殆ど攻略しているパーティもいないはずだ。お前さん達向きだろう」
ダンジョンの場所が描かれている地図を見てケリーが
「私はどこでもいいわよ。グレイが決めて」
そう言うと他のメンバーも場所の選定をグレイに一任する。
「決めるったって俺も行ったことがないからな」
「じゃあ、一番遠いダンジョンにしましょ」
リズの一言で次に攻略するダンジョンが決まった。ギルマスは一番遠いダンジョンの場所を指差してここだな?と確認してから、
「ここは全く情報がないダンジョンだ。いずれギルドから誰かを調査に送り込もうと考えていたので、お前さん達が行ってくれるのなら助かる」
「調査代は請求するぜ、ギルマス」
「ああ。それは大丈夫だ。ただ働きさせようとはこっちも思ってない」
話をしている内にギルド職員が金貨の入った袋を持ってきて
「ベヒーモスの皮が金貨200枚、立髪は金貨500枚となりました」
「いい値段ね」
ケリーの声に、職員は
「立髪は特に高級錬金術で使用するので高く売れるんです。皮の方も防具で需要がありますからね」
「じゃあさっきの100枚と合わせて全部で800枚一人金貨160枚だ」
そうしてその場で一人一人に金を渡し終えると
「またダンジョンに行く時は連絡するよ」
そう言うとギルマスが先にギルドの応接室から出ていった。部屋に残ったのが5人になると、
「この前はグレイの店でご馳走になったから今日は俺の家で食事をしてくれよ」
「そうそう。色々とお世話になったから3人を招待するわ」
グレイとマリアが領主の家で一緒に食事をしようと提案をし、他の3人にも特に異存はなかったのでこの日は領主のエニスの家にお邪魔してそこで夕食をとることとなった。
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