第43話 再びのダンジョン
リズが重傷の冒険者を助けてから2週間後の週末の朝早く、西のダンジョンの前には5人の冒険者が立っていた。
「18層からだよね?」
エニスが屈伸運動をしながらグレイに話かける。同じ様に身体を動かしているグレイ。
「そうだ。ランクSが中心だろうから注意しながら攻略していこう」
そうして全員が18層に飛んで目の前の風景を見ると目の前には宮殿の内部の様な景色が…ただし、その宮殿の内部は荒れ果てていて倒れた柱やひび割れている壁、床も所々盛り上がっていて歩き難そうな造りになってた。
そうして視界に見える範囲でも魔獣が2体徘徊している。
リズが全員に強化魔法をかけるとまずケリーが目に見える魔獣に精霊魔法を撃った。範囲化された精霊魔法が魔獣に着弾するとランクSの2体の魔獣は大きくのけ反り、こちらに敵意を向けるがその時には1体にはグレイの精霊魔法が、そしてもう1体にはケリーの2度目の精霊魔法が直撃し2体のランクSの魔獣はその場で光の粒になって消えていった。
そうしてエニスを先頭にして18層の攻略を開始するメンバー。
「左の柱の影にランクSが1体。右にも同じくランクS1体。左はエニスと俺。右をマリアとケリーで頼む」
グレイが声を出すと返事をせずにすぐに左右に分かれる。この連携は元勇者パーティでは当たり前だったがマリアもうまく適応している様だ。
ランクSの魔人のオークに対峙し、相手の攻撃を見切り自分の剣で攻撃してしっかりとタゲをキープするエニスとマリア。そのマリアの背後からケリーが弱体、精霊のコンボを撃つとマリアの目の前のオークが光の粒になって消えていった。
エニスの方はグレイが精霊魔法を連続で発動する。そうして魔法のヘイトでタゲがグレイに移るとすぐにその場で浮遊。そうしてグレイを見上げたオークに背後からエニスが剣を振って絶命させた。
「浮いちゃうとタゲ取っても関係ないね」
エニスが剣を鞘にしまって言うと、地上に降りてきたグレイが
「ケリーと違って敵対心の大幅減少は俺にはないからな。上に逃げるしかない」
「でもそれ、反則級だよ」
エニス。
「そうだよね、届かないならヘイト関係ないし」
ケリーもエニスの言葉に同意する。
「弱者の知恵とでも言ってくれ」
グレイはそう言い、再びフロアを進んでいく。
進んでいくと、宮殿の奥に入っていく様になっていて薄暗くて大きな部屋に入るなりグレイが、
「アンデッドゾーンだ」
ランクAのスケルトンが数体ずつ固まっていて5人を見ると骨の擦れる音をさせながら近づいてきた。
「リズ」
今まで背後にいたリズ が前に出ると近づいてくるスケルトンにホーリーを唱える。
するとあっという間にスケルトンの身体が消えた。そうして固まっていたスケルトンを全てホーリーで倒したリズ 。
「初めてみたけど、凄い威力ね」
ケリーやエニス、マリアが感心して言うと、
「神聖魔法の中の攻撃魔法だから、アンデッド相手には効果増大になってるみたい」
「それにしても凄いよ。しかも敵対心減少でしょ?これからアンデッドは全部リズ に任せちゃおうかしら」
ケリーとリズ のやりとりを聞いていたグレイは
「リズの神聖魔法はアンデッド以外でも効果はある。とは言え魔力は温存したいから今まで通り削りはケリーと俺で。リズは強化魔法、回復魔法メインで余裕があれば神聖魔法を頼む」
「うん。わかった」
その後もアンデッドゾーンをケリーとグレイの火系の精霊魔法メインで削り、リズが時折神聖魔法で倒していく。
そうして18層をクリアして19層に降りると皆目の前の風景を見て言葉に詰まってしまった。
「これは…」
グレイが思わず声を出して階段から19層を見るとそこは天井の代わりに一面青空だった。そして草原の様に芝生が生えていてその中を1本の石畳の道が先に伸びている。心地よい風が5人の頬をくすぐる。
「綺麗…」
思わずマリアが呟くと、
「綺麗だな。あれさえいなければまるで天国だ」
そう言ってグレイが指差した先、空にはワイバーンが何匹も空を飛んでいた。
「ワイバーンか、これはまた厄介な魔獣だ」
エニスがしかめっ面で空を飛んでいるワーバーンを見ている。
「言うまでもないが、奴ら火を吹くぞ。しかも見る限り身を隠す場所がない」
グレイの言葉にケリーが顔をグレイに向けると
「グレイ?どうするつもり?」
「1列で進もう。エニス、リズ 、ケリー 、マリアの順で。ワイバーンが来たらケリーとリズ は列から離れてブレスを同時に食らわない様にして。2体以上がやってきたらエニスとリズ 、マリアとケリーのペアになって対処する」
「グレイは?」
「俺は空から援護する」
「その手があったか」
納得するエニス。
「ブレスには注意してね。まともに食らうとリズの魔法でも治すのが厳しいくらいに強い炎だから」
ケリーが皆に注意を与え、グレイはマリアを見て
「マリア。ワイバーンは空を飛んで火を吹くのでランクSだが、身体は硬くない、剣で切り裂くとすぐに地上に落ちるから、炎を避けながらあいつの体に傷をつけて地上に落としてから倒してくれ」
「わかったわ」
そしてエニス、ケリー、リズ 、マリアの順で草原の中にある道を歩き出していく。
グレイは浮遊魔法で空から4人の後ろを飛んで周囲を警戒しながら進んでいくと1匹のワイバーンが地上のエニス一行に気付いて高度を下げて襲ってきた。
グレイが空から精霊魔法を撃ってワイバーンを地上に落とすとそこにエニスの剣が振り下ろされてワイバーンを光の粒に変えていく。
「空から来るとは思ってなかっただろう」
グレイがドヤ顔をしているとケリーが
「何そこで威張ってんのよ、また来てるわよ」
「うぉっと」
今度は2体のワイバーンが襲ってきた。地上の4人は2人づつに分かれ、ブレスを躱して剣と魔法で討伐していく。
グレイも空でワイバーンを相手にして精霊魔法でワイバーンを地上に落としそれをマリアとエニスの剣で倒していく。
だんだんと慣れてきて、討伐のスピードが上がっていくパーティ。
グレイが空から精霊魔法でワイバーンを攻撃して地上に落としてそれを剣と魔法で倒す方法が最も効率が良いことがわかってきた。
そうして草原の中を進んでいくと、道沿いに大きな岩が見えてきて、その陰で休息をとることにする。
「だいぶ慣れてきたな」
「このまま行けるかしら」
水を飲んだエニスがいい、同じ様に水を飲んだマリアが誰にともなく言うと、
「ここでフロアの半分位の位置だろう。今まではワイバーンだけで地上に魔獣はいなかったけれどここから先は空と地上の両方にいそうな気がするんだよな」
「そういうグレイの感ってさ、いいのも悪いのも大抵当たってるのよね」
「ということはここから先は地上にもランクSがいるってこと?」
ケリーの言葉を確認する様に言うマリア。
「そう思っていた方が良いと思う。私も19層がワイバーンだけだって思えないもの」
「リズ までそう言うなら覚悟しておいた方が良いわね」
「グレイ、それでここから先はどうするつもりなんだ?」
「エニスとケリーが組んでくれ、そして地上の魔獣の討伐を二人で頼む。マリアはリズ と俺とでワイバーンの処理だ」
「「わかった」」
ここで組み合わせを変更すると十分に休憩をしてから再び石畳の道を歩き始める。
しばらく行くと、草原にランクSの魔人が現れ、空には再びワイバーンが姿を見せてきた。
「グレイの言った通りだ。やるぞ!」
エニスが声を出すと、ケリーがエニスに続いて魔人に向かう。グレイは空から精霊魔法を撃ち、ワイバーンを地上に落とすとすぐにマリアが剣で切り裂いていく。
1戦終わる度にリズ がマリア、ケリー、エニスに強化魔法を掛け直しそうして道路を進んで目にする魔獣を倒しては進んでいく。
「いい感じだ」
「グレイが先に攻撃してくれるので、ワイバーンがブレスを吹く前に地上に落ちてくるから楽だわ」
マリアの言葉にリズ は頷き、
「この調子で行きましょう」
エニスとケリーは地上の魔人を討伐しているがケリーの範囲化の精霊魔法の威力が強力で、ケリーの精霊からエニスの剣というコンボで全く危なげなく複数体の魔人を倒していく。
(流石に勇者エニスだ。ランクS相手でも全然剣のキレが変わらない)
ランクSの魔人の身体をまるで豆腐でも切る様にサクサクと切っては倒していくのを空から見ているグレイ。
そうして空から前方を見ると、石壁に包まれた下層に降りる階段を見つけた。
「前に階段があるぞ、もう少しだ」
その言葉でメンバー全員、一段ギアが上がり、遭遇した魔獣やワイバーンをサクサク倒して下に降りる階段にたどり着いた。
そうして今までいたフロアを振り返り、ケリーが
「私達が言うのも何だけど、他の冒険者だったら攻略に相当苦労しそうなフロアね」
「空から精霊撃てる奴なんていないからね。ここには反則級の大賢者様がいたから楽だったよ」
「本当ね」
エニスの言葉にマリアも頷いていた。
もし騎士団だけでこのフロアを攻略しろと言われたら相当苦労するだろう。大人数ならともかく5,6名の騎士だけだととても攻略できる未来図が見えない。
(皆が強すぎて簡単に見えるけど、実際はかなり難易度の高いダンジョンね)
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