第42話 お姫様抱っこ
夏になるとエイラートは1年で最も賑やかな季節になる。
多くの人が避暑を目的にこの街にやってきて数日から長くなると1ヶ月以上ここに滞在する人もいる。
以前なら人が多くなるとトラブルも増えていたが、グレイとリズ というランクSの冒険者が毎日の様に街の中を歩いている姿を見ているせいか今年は軽犯罪の発生が抑えられていた。
また領主のエニスの指示でエイラートの周辺は冒険者によって魔獣が討伐され、
街の外(と言っても街の周辺だけだが)に出て散策することもできる様になっていた。
これは旅行者のみならず住民にも好評で息抜きに街を出ては城壁の周囲を散策する人が増えた。
もちろん、街の外は常時冒険者が巡回して安全を確保している。冒険者、特に低ランク冒険者にとっては巡回は割りのいいクエストであり、巡回クエストは冒険者側にも人気があった。
当の二人はいつも通りの生活をして、昼過ぎから夕方にかけて買い物で街を歩いている。エイラートの住民達にとってはこの二人の行動は日常の一コマだが、他所からこの街にやってきた人、特に冒険者達にとっては間近でランクSの冒険者を見ると大抵足を止めて二人に視線を送る。
「あれって大賢者様と聖僧侶様だよね」
「本当だ。普通に街中を歩いているんだね、びっくり」
「お似合いのカップルね」
そんな二人が露店で勧められる食べ物を食べたり露店の人と普通の会話をしている姿を見てびっくりする。
「全然偉そぶってない」
「俺たちと全然変わらないよな」
そんな声を聞いていた街の住民が、
「あの二人かい?いつもあんな感じだよ。二人とも強いんだろうけど全然そんな素振りを見せなくて私たちにも普通に話かけてくるしさ。エイラートじゃあの二人ともう一人、超精霊士さんも入れた3人は街の人気者さ」
また他所から来ている、ある程度冒険者ランクが高い者達は二人を見ると、
「オーラがあるな」
「あれがランクS…二人とも雰囲気あるわ」
「あの二人と超精霊士、3人とも外見に似合わず桁違いに強いらしいぜ」
「そりゃそうでしょう。魔王を倒しているんだからな」
とこちらは二人を尊敬、羨望そして畏怖の眼差しで見ている。
そんな色んな視線を浴びながらもグレイとリズの二人はいつもと変わらないスローライフをエンジョイしていた。
街をのんびりと散策していると、通りの向こうから二人も知っているギルドの職員が走ってくるのが見えた。職員は二人を見つけるとはぁはぁと息を乱しながら、
「すみません。緊急事態です。すぐにギルドに来て頂けますか?」
職員の様子を見てただ事ではないと感じた二人は、すぐにわかったと職員と一緒にギルドに向かう。
ギルドに入るとそこにはギルマスも立っていて、二人を見るや否や
「悪いな。すぐにここのダンジョンに飛んでくれ。そこにダンジョンで怪我をした重傷の冒険者がいる」
そう言って地図の上でダンジョンの場所を見ると、そこは以前にグレイが行ったことがある場所だった。
「ここは行ったことがある。すぐに飛べる」
「頼むぞ」
グレイとリズ はすぐにその場から移動魔法でダンジョンに飛ぶ。ダンジョン近くに着いて入り口に向かうと二人を見つけた冒険者が、
「聖僧侶リズとグレイが来てくれたぞ」
「頑張れ」
という声が聞こえ、人垣を分けてその中に入ると簡単な木のテーブルの上に腹を大きく切られ、そこから血を流して呻いている冒険者が二人、虫の息で横たわっていた。
その横では同じパーティのメンバーと思える二人の女性が泣きじゃくっていて、その横には男が心配そうに立って傷を負っている仲間を見ている。どうやらこの男がこのパーティのリーダーの様だ。
「リズ!」
グレイが声をかける前にアイテムボックスから治癒効果の高い杖を取り出していたリズ は二人を見て、状態の酷い方に杖の先を向けると、治癒魔法をかけていく。
すると白くて優しい光が男を包み、見る見るうちに傷口が綺麗に塞がれていった。
リズ はすぐにもう一人の冒険者にも同じ様に治癒魔法をかけていくと、その男の傷口も同じ様に塞がっていく。
二人に治癒魔法をかけて傷を直し、そうして回復魔法をかけると二人の冒険者は「ううっ…」と言いながら目を開いた。
すぐに駆け寄るパーティの仲間達。仲間が無事なのを確認すると、グレイとリズに向かって深々と頭を下げ、
「本当にありがとうございました」
すると男に続いて女性二人も涙を流しながら
「「ありがとうございました」」
「治ってよかったわ」
リズ は簡単に答える。グレイがリーダー格の男に事情を聞くと、彼らは皆ランクCのパーティらしい。
順調にダンジョンを攻略できたので欲を出して下に進んでいったところ、ランクBの魔獣3体と遭遇して一方的に蹂躙され、なんとか階段の石板の場所まで引き返して地上に帰ってきたらしい。
黙って聞いていたグレイとリズ。
「無茶をしたらダメよ。今回は何とか治癒できたけど、もう少し遅かったら間に合わなかったわよ」
男の話が終わるとリズ が諭す様にパーティメンバーに話をする。リズの言葉を聞いてうなだれているメンバー達。リズがグレイを見ると彼は悲しい目でパーティメンバーを見ていた。そしておもむろに口を開くと、
「冒険者は自己責任とはいえ、今回はギルドを始め周りに迷惑をかけている。それにパーティの仲間が死んだらもっと大変なことになっていた。勇気と無謀とは別だ。今回の件でわかっただろう?」
グレイの言葉に黙って頷くパーティメンバー。
「リズの治癒魔法で治ってるとはいえ大量の出血で体力は落ちている。しばらくは街で回復するといい」
「わかりました。ご迷惑をおかけしました」
再び頭を下げて謝るリーダーの肩をポンポンと叩きながら、
「とにかく仲間が無事でよかったな」
グレイはそう言うとリズ と二人で移動魔法でエイラートに戻っていった。
リズ の治癒魔法を周囲から見ていた冒険者達は二人が消えると、
「移動魔法か。あっと言う間にエイラートから来られてよかったな。でないと間に合わなかった」
グレイの移動魔法に感心し、リズについては、
「それにしても凄い治癒魔法だったな」
「ああ。聖僧侶じゃないとできないレベルだろう。瀕死の状態から完全復活させたぜ」
皆リズの魔法を目の当たりにして驚愕し、その後しばらくはその話で盛り上がっていた。
グレイとリズはエイラートに戻り、ギルドに顔を出してギルマスに事情を説明すると、
「バカが、ランクCの分際でランクBのフロアになんか行くからだ。ちょっと強くなったら自分たちの力を過信しやがる」
憤懣やるかたないと言った表情で捲し立てるギルマス 。
「まぁその辺は俺がきつく言っといたから」
ギルマスをなだめるグレイ。しばらくしてようやく落ち着いてきたのか、
「いつもお前達がいるとは限らない。帰ってきたら俺からも説教してやる。それにしてもお前達が居てくれて本当によかった。改めて礼を言う」
ギルマス が常日頃から冒険者の事を心配していることは良く知っているグレイとリズはそれ以上何もいわずにギルドを後にした。
「ランクCなら背伸びしたくなるのかなぁ」
ギルドを出て並んで大通りを歩きながらリズ 。
「慣れてきて一端の冒険者気分になった時が危ないんだよな」
「そうね」
自分がランクCの時はどうだったかなと思い出すグレイ。田舎の街で毎日の様に森に入ってはランクCやランクBを必死で倒していたな。よくまぁあんな無茶をして無事でいれたものだと思い出していると、
「どうしたの?黙って」
「ん? ああ、俺がランクCの時はどうだったかなと想い出してた」
「グレイなら、きっと無茶してたんでしょうね」
「むむむ。何でわかるんだよ」
「だって。賢者ソロでランクAまで行ったんでしょ?無茶しなかったら絶対に無理じゃない」
「ま、まぁな。この話はさっきの奴らにはするなよ。勇気と無謀は別だ…なんて格好いいこと言ったんだからさ」
焦ったグレイを見てリズは笑い出し、
「仕方ないから黙っていてあげるけど、黙ってるなら何か見返りを貰わないとね」
「出たな、強欲冒険者め。それで何を御所望なのだ?」
大通りを歩いている二人に周囲から視線が注がれているが二人はそれを気にすることもなく話していて、
「じゃあね。ここでお姫様抱っこしてそのまま家に連れてって」
「マ、マジか!?…いやマジですね」
リズの真剣な目を見たグレイ。
そうして大通りで僧侶のローブ姿のリズ をお姫様抱っこすると、周囲の人が一斉に何だ?!という目で二人を見る。お姫様抱っこされてグレイの首に両手を回すリズ に
「じゃあ帰りますか」
「うん」
そしてグレイはその場で浮遊する。それを見た周囲の冒険者は住民は、
「格好いい」
「素敵。私もあんなのされてみたい」
下から見上げる街の人や冒険者達。そうしてリズ を抱えたグレイが自宅の方に飛んでいくと期せずしてその場で拍手がわきおこった。
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