第41話 グレイは検証する その2
そうして14層をクリアして15層に降りていった。
「ランクAとSが混ざってるわね」
「ああ。しかもランクSの比率が増えてきてる」
15層は14層と同じく荒野のフィールドだ。気配感知で感じられる範囲内にランクAとSが混在している。
「よし、もう1つだけ検証させてくれ。さっきと同じ戦法で」
グレイは浮遊すると近くにいたランクSのオークを1体だけ釣ってくる。近づいてくるオークにケリーが弱体と精霊魔法を撃つそのケリーの精霊魔法と全く同じタイミングでグレイの精霊魔法がオークに着弾した。
爆発を起こした様に粉々に飛び散るオークを見てグレイ以外のメンバーが唖然とした表情になる。
「グレイ、今何をしたの?」
ようやくケリーが口を開くと、してやったりの表情のグレイ。
「今はケリーの精霊魔法が着弾する全く同じタイミングで俺の精霊魔法を着弾させた。すると結果はこの通りだ。2発とも弱体魔法の効果がついている」
「…ということは」
ケリー。
「そう。同じタイミングで着弾した精霊魔法は1つの魔法と認識されるということだ。どちらにも弱体魔法の効果が付く」
「全く同じタイミングで着弾、お互い無詠唱なのに」
マリアが訳がわからないという口調で言うと、
「上の層でケリーは弱体と精霊のコンボを何度か使ってた。それでケリーの弱体を打ってから精霊を撃つタイミングがわかっていたのでそれに合わせたのさ」
あっさりと言うグレイだが、
「そんな事ができるの?」
「マリア。深く考えちゃダメ。グレイはちょっとおかしい人だから」
「そうそう。常人とは違うんだよ」
「こら、ケリー、エニス。おかしいとか人とは違うとか、人を化物みたいに言わないでくれよ」
「ある意味化物みたいな人よね」
ケニーが言うと、
「そうそう」
「はぁ、リズまで」
「でもさ、グレイ。これでかなりわかってきたよな」
エニスが言うとそちらを見て頷いて、
「わかってきた。いずれにしてもこれは相当のダメージソースになる。しかもケリーの魔法は敵対心大幅減少のおまけ付きだ。エニスとマリアががっちり魔獣のタゲを取っている間にケリーの精霊で削っていける。格上との戦闘のやり方が根底から変わってくるぞ」
そう言って説明するグレイの顔は楽しそうだ。
「本当に作戦を考えるのが好きね」
リズは熱い口調でエニスに説明しているグレイを見て半分呆れた表情で言う。
「ねぇ、リズ。グレイって家でもあんな感じなの?」
ケリーが聞き、マリアも顔をリズに向けている。
「ううん、全然。家では全く考える仕草なんてしないわよ。グレイはオンとオフをうまく使い分けてるみたい」
「そうなんだ」
リズは感心する二人からグレイに視線を移して、
(オフの時のグレイも好きだし、オンの時のグレイも好き)
その後は15層を危なげなく進んでいく一行。15層、16層とクリアをし、17層になるとランクAが減り、ランクSがメインで現れる様になったが単体のランクSは5人の敵ではなく、荒野を進んで18層に降りたところでこの日の探索は終了となった。
地上に戻ると夕方の時間帯で、5人はその場から移動魔法でエイラートに戻っていった。
そうしてその夜、グレイとリズ のBARは貸し切りとなりカウンターには昼のダンジョンのメンバーが座っている。
ダンジョンに篭る日は仕事を完全に忘れる日なので夜も自由なんだよというエニスの言葉でリズが作った夕食を出してそのまま飲みながら食べることにした。
流石に5人で市内のレストランなんかに行った日には周囲から何を言われるかわかったもんじゃない。
「有り合わせの食事でごめんなさいね」
「そうだ。急にここで食べようと言い出したエニスとマリアのせいだ」
リズの言葉にグレイが続けて言うが、
「いやいや、俺はレストランでもよかったんだよ。グレイがそれは良くないって言うからさ」
「当たり前だろ?お前さん領主だぜ?領主」
エニスにくってかかるグレイを無視する様にエニスの隣から、
「リズのお料理、凄く美味しい」
マリアが感心して言うと、ケリーも
「美味しいね。グレイはこんな美味しいのを毎日食べてるの?」
「そうだ。どうだ、羨ましいだろう」
というグレイの言葉を皆はいはいと華麗にスルー。がっくりとするグレイを横目にリズはケリーに、
「ケリーは毎日自炊してるの?」
「週末だけね。平日は学院の教職員の食堂が空いてるの」
「それは便利ね」
「うん。助かる。味は普通だけど値段が安いのよ」
領主のエニスはもちろんだが、ケリーもグレイやリズと同様に魔王討伐で一生使いきれない程の報酬を得ているが彼女もまた派手な生活をせずに普通の生活を送っている。
以前マリアがお金があるのにどうして?とリズとケリーに聞いたことがあるが、二人からの回答はどちらも
「お金持ちの生活なんてしたことがないから。今のこの生活でも魔王討伐で野営が続いて何日もお風呂に入らずに山の中を歩いていた時と比べたら天国だよ」
そう言っていた。
「なぁ、グレイ。あのダンジョンそろそろ最下層だろ?」
食事を終えて今はお酒を飲み始めたエニスが聞いてくると
「たぶんな。あの感じだと20層がボスフロアになるんじゃないかと思ってる」
「そんな感じだよな」
「ボスは何かしら?」
「それはわからない。ダンジョン内で出る魔獣とボスの種類は全く別物なんだ」
マリアの質問にグレイが答える。そして続けて、
「どの種類のボスでも、図体がでかいってのは共通してるかな」
「そうなの?」
マリア。
「大抵ボスは大きいよ。慣れないと最初はその姿に圧倒されちゃうの」
ジュースを飲みながらケリーが補足していく。そしてグレイが再び続けて、
「でも言えることはいくらボスがデカくても魔王ほど強くないって事さ。討伐に時間はかかるかもしれないけど、このメンバーなら普通に勝てるよ」
確かにそうだ。魔族や魔獣の頂点に君臨している魔王をこのメンバーは倒している。マリアは正直初めてのダンジョンボスとの戦いが近いということで柄にもなく緊張していたが、今の話しを聞いて気分が急に楽になってきた。
(それにしても皆本当にリラックスしてる。オンとオフの使い分けが皆見事だわ。見習わないとね)
酒場の中を見てみると、リズは座っているケリーの前に立って二人で笑いながら話をしているし、隣のエニスはグレイとこれまた馬鹿話で盛り上がっている。
マリアは気づいていた。彼らはマリアから聞かれない限り自分たちからは勇者パーティの時の話をしないということを。
自分の知らない時の話で盛り上がることはせずにいつもマリアを含めた共通の話題で盛り上がっている。
(人としても一流の人たちね)
「マリア、次何飲む?」
空になったグラスを見てグレイが声をかけてくる。
「じゃあ薄めのお酒があれば」
「果実酒にしようか? きつくないし飲みやすいよ」
「じゃあそれで」
こんな感じでゆっくりと貸し切りのBARの中の時間は過ぎていった。
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