第40話 グレイは検証する その1


「久しぶりだなー」


 エニスがダンジョンの前で大きく伸びをする。


「今日は12層からいくぞ」


 グレイがメンバーに声をかけると、その後を続けてマリアが、


「超精霊士のケリーのお手並拝見といきましょう」


「もう、マリアまで。やめてよね」


 前回から1ヶ月後、グレイ達は西のダンジョンの入り口に立っていた。


 入り口の石板にカードを当てるとメンバー全員が12層に飛ぶ。ここは再び石壁の通路のフロアになっていた。


「ランクAが複数体固まっている」


 気配感知で周囲を探ったグレイが言い、


「この通路の先に3体。まずはケリーの範囲魔法を撃とう。エニスとマリアは撃ち漏らしがあった時のフォローで戦闘準備を」


 グレイが説明している間にリズが全員に強化魔法をかけていく。


 そうして5人が歩きだしていくと、魔獣が3体5人を認識して通路に横並びになってこちらに突撃してくる。


 戦闘に立っていたケリーが3体に向かって雷系の精霊魔法を撃つと、魔獣はあっという間に全て倒れて光の粒になっていった。


「実際見ると凄い威力だ」


消えていく魔獣を見ながらエニスが感心している。


「ケニー、魔力はどんな感じ?」


「2体の時と変わらないかな?全然平気だよ、リズ 」


 やりとりを聞いていたグレイ


「ランクAの3体は問題なし…と。じゃあケリーは元の後衛ポジションに戻って。前はエニスとマリアで頼む」


 その後も通路を進み遭遇するランクAの魔獣を退治するがその戦法はオーソドックスにエニスとマリアの剣を中心にして討伐していった。


 12層、13層とクリアをして14層に降りると、そこは一面荒野のフロアだった。


「こんなフロアもあるのね」


 階段を降りたところから14層を見てマリアが声を上げる。


「仕組みはわからないが、ダンジョンは何でも有りさ。地上にある風景が再現されている。ただ、そこにいる魔獣のレベルは地上よりも高い」


 グレイが同じ様に荒野を見ながら言い、


「身を隠す場所に注意しながら進もう」


 エニスを先頭に荒野に進んでいく5人。ランクAが4体固まっているのを見つけ、ケリーが範囲化した精霊魔法を撃つと4体が同時に倒れた。


「4体くらいまでだな。しかも魔法耐性のない魔獣で4体だな」


「それでも凄い事に変わりはない」


「もちろん。戦闘がずっと楽になる」


 グレイとエニスのやりとりを他の3人は黙って聞いていたが、


「どうして4体くらいまでって分かるの?」


 マリアの質問にはケリーが答える。


「魔獣の倒れ方なの。感覚的なものなのだけれど、魔法で倒した時にオーバーキルだったとか、ちょうどいい感じだったとか分かるのね。経験からかもしれない。それで今の4体の討伐を見て私自身がちょうどいい感じだって思ったの。逆に言うとこれ以上数が増えたら1度の魔法じゃ倒せないって感じ」


「その感じをグレイもエニスも共有してたの?」


「リズもわかってるわよ。2年間ほぼ毎日の様に戦闘をして魔法を撃ってるとそれを見ている周りもその感覚が自然と身に付いちゃったみたい」


「そうなんだ。軍だと魔法部隊と剣の部隊は完全に離れているからそんな感覚はわからなかったわ」


 知らない事ばかりだがそれが新鮮で戦闘をするたびに騎士と冒険者の違いが身に染みてわかるマリア。


「そりゃ戦闘のやり方が全く違うからだよ。どちらがいいとか悪いとかじゃなくてね」


 エニスがマリアに近づいて言う。


「2度目のパーティにしちゃあマリアは十分合格点のレベルだよ。慣れないはずの冒険者のスタイルにうまくフィットしている」


 グレイがマリアに言うと、頷く他のメンバー達。


「ありがとう」


 その後もフロアを進んでいくと、


「ランクSだ」


 グレイの言葉に全員の気が引きしまる。


「単体?」


「ああ、1体だ。ランクSのオークだな。そこの岩場を周ると見える」


 そこまで言ってから


「ちょっと試したいことがあるんだがいいかな?」


 そう言って岩場の影に全員を集めると、グレイが


「俺が飛行魔法でオークを釣ってくるからケリー、弱体から精霊のコンボで頼む。エニスとマリアはケリーの精霊で倒せなかった時のフォローを頼む」


 全員が頷くとその場で浮遊したグレイは岩場を回ってオークに姿を晒すとグレイを見つけたオークが岩場に向かって走ってきた。


「来るぞ!」


 その時には全員岩場から出ていて、オークに向かってケリーが弱体魔法を撃ち、続けて精霊魔法を撃つとオークはその場でもんどりうって倒れた、そこにエニスの剣がオークの首を刎ねる。


「殆ど死んでたな」


 エニスが消えていくオークを見ながら言う。グレイはちょっと考えてから、


「ケリー、どうだった? 弱体と精霊のタイミングは問題なかった?」


「そうね。大体今のタイミングでいいと思う」


「となると2発撃つ間にオークが進んだ距離はこれくらいか。となるとオーククラスでだいたい20メートルくらい。足の早いのだと安全を見て40メートルくらいが2発の魔法詠唱に必要な距離かな」


「そんな感じでいいと思うわ」

 

 グレイの言葉に同意するケリー。


「なるほど。次はと、オークは魔法防御はないが元々のHPが他の同ランクよりも多い。それを弱体と精霊でほぼ倒したから他の魔獣ならケリーだけで倒せるということになるな」


 グレイはその後もいろいろと検証していく。他のメンバーは毎度のことなのでグレイの好きにさせている。


(こうしてデーターを取って整理して、自分の知識にしていくのね)


 検証をしているグレイを見ながらマリアはグレイの探究心に感心していた。


 そうして荒野を進んでいくと、再びオークのランクSを見つけると、


「さっきと同じでよろしく」


 再びグレイが釣ってきたオークにケリーが弱体、精霊を撃ち込む。そしてケリーが精霊を撃ち込んだ直後にグレイの精霊魔法がオークを直撃した。


 粉々になって消えていくオークを見ながら


「やっぱりそうか…」


「何がやっぱりそうか…なの?」


 グレイの独り言にリズが聞き返すと、


「弱体魔法は次の精霊魔法の1発目にしか効果がない」


「そうなの?」

 

 グレイはリズを見て頷き、


「今のケリーの精霊魔法と俺の精霊魔法は同じだ。でも全然威力が違っただろ? ケリーの精霊魔法は弱体効果が効いていてダメージが大きくアップしていた。それに対して俺の精霊魔法はいつもの精霊魔法だった」


「相変わらずね、グレイは」


 グレイの話を聞いていたケリーが言うと、周りも


「グレイだからね」


「そうね、グレイだからね」


「おい、なんでそれで皆納得するんだよ」


 やりとりを聞いていたマリアにエニスが説明する。


「グレイはこうやっていつも手を抜かずに色々と検証していくんだ。それがいざという時に役に立つのを知ってるからね」


「何を検証したら良いのかすら私には思いつかないわ」


「それは俺たちもさ。でも奴は気がつく。そしてそれを検証してパーティ全員に還元してくれるんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る