第37話 マリアの初ダンジョン その3

 その後も森の中を進み、グレイが敵を見つけ、攻撃の指示を出すとそれに応える様にエニス、ケリーが討伐していく。途中からは討伐にマリアも参加してエニスと二人で片手剣で次々と魔獣を倒していった。


 11層におりるとランクAが複数体固まっている。そうなるとさらにチームワークの良さが見えてくる。リズ の強化魔法を受けてエニスとマリアが前線で魔獣を引きつけて戦っている間に背後からケリーとグレイが精霊魔法で倒す。流れ作業の様に次々と現れる魔獣を討伐していった。


 マリアも他のメンバーと呼吸が合ってきて他のメンバーと同じく魔獣を倒していった。



 そうして12層に降りる階段を見つけ、階段下の石板に記録をすると、


「今日はこれくらいにしておこうか」


「もうそんな時間か」


 グレイの言葉に応えるエニス。


「ああ。マリアも疲れてるだろうし、次回は12層から攻略しよう」


「私はまだまだいけるわよ?」

 

 ようやくこのメンバーの連携にも慣れてきて、むしろこれからじゃないかと

思い、マリアが口にしたがグレイは、


「いや止めておこう。自分でも気付いているはずだ。剣筋が甘くなってきてる。初めてのダンジョンで気が張ってるけど体力的には相当疲れている」


 確かに剣筋が最初に比べると少し甘くなっているとは自分では感じていたが周囲から分かる程ではないと思っていたマリア。それをグレイにずばり指摘されて返す言葉がない。


「グレイが言うなら帰ろうか」


「そうだね」


 ケリーとリズ も同意して全員でダンジョンの入り口に飛んだ。そうして外に出ると既に日が大きく傾いていて、


「こんな時間だったんだ」


 マリアが沈んでいく夕陽を見ながら言うと、ケリーが同じ様に顔を夕陽に向けて、


「朝からダンジョンに籠もってると時間の感覚がわからなくなるよね。だからダンジョンは怖いの。疲れているのがわからないまま戦闘を続け、そして気づかないうちに集中力や技量が落ちているの」


「グレイはメンバーの状態もいつも気にしてる。自分では気づかなくても彼にはわかるのね」


 ケリーの言葉にリズ が続けて、そして、


「しっかり休むのも戦闘のうちだってよく言ってた」


「言ってたね」


 ケリーと二人で頷きあっている。


 ダンジョンの入り口の警備兵に11層まで攻略したことを伝えると、グレイの魔法で全員エイラートに戻っていった。




 その夜、領主の館の食堂でテーブルに向かい合って食事をするエニスとマリア。


「初めてのダンジョンはどうだった?疲れてないかい?」


「楽しかったわ。魔獣相手は初めてだったし、ダンジョンでは疲れてないと思ってたけど、ここに帰ってきたらぐったりしちゃったわ」


 マリアの言葉にそうだろうねと頷いて、


「騎士と冒険者は戦闘のやり方が違うからね。最初は戸惑うかもしれないと思ってたけど、思った以上に適応してる様に見えたけど?」


「やるべき事が分かってからはかなり楽になったわ。グレイが毎回後ろから指示を出してくれたからかしら」


 夫のエニスが言う通り、マリアは今日のダンジョン攻略で騎士と冒険者との戦い方の根本的な違いを肌で感じ取っていた。


 騎士は団体戦が中心。相手も同じ騎士で、戦闘の合図があってから戦闘を開始する。もちろん剣術は必要とされるが戦闘においては軍師と呼ばれる人が立てた作戦通りに部隊を進めるチェスの駒の様な動きが重要視される。騎士はその中で対峙する相手を自分の剣で倒していくのが普通だ。


 一方冒険者は街を出れば常に周囲に気を配り、いつどこから襲ってくるかもわからない敵に備える。


 作戦は常に変化し臨機応変な対応が求められる。その中には撤退も含まれており、戦闘しながら自分自身で前に進むのか撤退するのかを判断していかなければならない。判断が遅れるとそれは即、死に繋がる職業だ。


 個人のスキルとパーテイを組んでいる場合にはそのパーティのメンバー同士のコンビネーションが非常に重要になる。それに加えて個人の技量が戦闘において大きな

ウエイトを占めている。


 マリアがグレイの名前を出した事でエニスは一旦フォークとナイフを置き、


「グレイという参謀兼賢者がいるといないとでは大違いだね。彼は常に周囲を見て

僕らに適切な指示を出してくる。僕とマリアに対しては剣の威力が最大限に発揮できる様な指示だ。瞬時に判断して指示をだしてくれるからこちらは彼が指示をした獲物に集中できる。

 僕らのパーティにはグレイという極めて優秀な参謀がいるからダンジョンの攻略も

それほど苦になってないけど、参謀がいないバラバラのパーティも非常に多くてね、

そういうパーティはなかなか効率的に狩りができなくて結果パーティランクもなかなか上がらないんだ」


「グレイの優秀さは今日1日一緒にダンジョンに潜って私もしっかりと認識したわ。リズ はもちろんだけど、貴方やケリーがグレイのことを高く評価しているその理由もわかった」


 エニスはマリアの言葉に頷き、再び食事を口に運び、


「彼の真骨頂はボス戦やNM戦で発揮される。敵が強くなればなるほど彼は的確に敵の強さや弱点を判断して、そして最適な討伐方法を指示してくれるんだ」


「そんな優秀な人と一緒にエイラートに住むことができてよかったわね、エニス」


「全くだ。勇者パーティは解散してるけどまだまだ彼の力は必要だよ」


 その言葉に頷くマリアだった。



 グレイとリズ 、ケリーはエイラートに戻るとギルドに顔をだしてからエニスと

マリアと別れて3人で市内のレストランで夕食をとっていた。


 元勇者パーティ、ランクSの3人が揃ってレストランにいると周囲から視線を送られてくるが、3人ともそういう視線には慣れているので特に気にすることもなく食事をしている。


「グレイから見てマリアはどうだったの?」


 ケリーがメインの魚料理を食べながら視線を向ける。


「最初は戸惑ってたみたいだったけど、途中からどんどん良くなっていった。仮のランクAって話しだけど実際ランクAの実力は十分にあると思うぜ。ケリーもリズもそう思ってるんだろ?」


「ええ。正直あそこまで剣が立つとは思ってなかった。真面目に訓練しているっていうのが良くわかったわ」


 ケリーが同意するとケリーと同じくメインの魚料理を食べているリズ も、


「そうね。最後の方は流石に少し疲れてたみたいだけど、十分に戦力として計算できるわよね」


「となるとだな、また連れて行けって近々エニスから言ってくるぜ」


 グレイはメインの肉を食べ終え、今はフルーツに手を伸ばしている。


「いいんじゃないの?私のスキル上げにもなるし」


 あっさりと言うケリー。


「リズ も大丈夫か?」


「ええ。今日のメンバーは皆上手いから私は余り疲れなかったし。それに雰囲気も

良かった。また行くのは全然問題ないわよ」


「どうせなら今日のダンジョン、最下層まで降りてクリアしたいしな」


「そういうことね」


「ダンジョンとは別に、お二人さんは私のスキル上げにもちゃんと付き合ってよね」


「それは大丈夫だ。ケリーが時間がある時はいつでも付き合うよ」



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