第36話 マリアの初ダンジョン その2

 そうしてダンジョンを攻略する日、グレイとリズ は街中でケリーと合流するとそのまま領主の館を訪れる。


「準備は良さそうだな」


 エニスとマリアを見たグレイの第一声。


「ばっちりだよ」


 二人とも戦闘服だが顔が見られない様に戦闘服の上にフード付きのローブを身につけていた。


「一旦、ギルドに寄ってから行くから」


 グレイの左手をリズ が握り、右手をエニスが握るマリアとケリーは自分の手をグレイの肩に置くと移動魔法でその場からギルドの前に瞬時に移動した。


「本当に便利よね」


 マリアが感心して、ケリーやエニスも頷いている。グレイを先頭にしてギルドに入るとギルマス を呼び出してもらい部屋に入ると、


「今から行ってくるよ」


「すぐじゃなくても良いが、攻略の情報は教えてくれ。気をつけてなってお前らに言う必要はないか」


 ギルマスには事前にこの部屋から飛んで、この部屋に帰ってくるということで部屋を終日押さえてもらっていた。


 この5人の中に領主とその妻がいるのは知ってるがギルマスはグレイとだけ目を合わせて話をしている。


「門から出入りすると領主の記録が残るからって部屋から直接現地に飛ぶとは思わなかったぜ」


 呆れた口調で言うギルマスには、


「便利な魔法があるなら、有効に使わないと。じゃあ」


 そう言って片手をあげるとその場から移動魔法を発動して西のダンジョンに飛んでいった。


 今までその場にいた5人があっという間に消え、一人残されたギルマス は、


「あいつらと付き合ってたらこっちまでおかしくなりそうだ」


 ブツブツと言いながら自分の執務室に戻っていった。



「ここが…ダンジョンの入り口?」


 飛んだ先の目の前100メートル程のところに小屋が1つ建っていて、その周囲は草原だ。


 マリアの言葉に、


「あの小屋の近くにダンジョンの入り口がある」


 答えながら小屋に向かって歩き出す5人。


「グレイ、この場所はエイラートからどれくらい離れてるんだい?」


「地図を見ていた感じだとエイラートから徒歩で2日ほどの場所だな」


 聞いてきたエニスの方を向いて答える。


「移動魔法って本当に便利よね。一度行っておけばすぐにその場所に移動できるなんて」


「もっと早く知っておけばって今でも思うよ」


 小屋のそばにダンジョンの入り口が見えてきた。こちらを見つけて詰め所から警備兵が出てくる。エニスとマリアはフードを深く被って、後ろで立っているので警備兵も気付いていない様だ。


「よぅグレイ、これから攻略かい?」


「そうだ。今誰か潜ってるのかな?」


「いや誰もいない。お前さん達の貸し切りだよ」


「ありがとう」


 そう言うと各自ダンジョンの入り口の石板にカードを当ててから順に中に入っていく。


「ダンジョンの中ってこうなってるんだ」


 中に入るとエニスもマリアもフードを脱いで戦闘服になってダンジョンを見る。


「こんな風に洞窟の通路風になっているところもあれば、草原や森があったり、砂漠があったりとフロアによって造りがバラバラなのよ」


 ケリーの説明を目を輝かせながら聞いているマリア。


「とりあえず5層でランクBが出たらしい。貸し切りだしとっとと進もうぜ」


 グレイの言葉で5人がダンジョンの攻略を開始した。とは言っても1層はランクDで全く相手にならないレベルで時間を稼ぐためにケリーとグレイの精霊魔法で敵を一掃して進んでいく。


 そのままスピード重視でダンジョンを進み5層に到達。ここは石の壁の通路のダンジョンの造りになっていて通路の幅は広くて高い。


 ランクBのフロアになるとマリアが私も討伐してみたいと言い出したのでマリアとエニスの前衛を前に、グレイ、リズ 、ケリーの3人は背後に移動して通路を進んでいく。


 ランクBの狼の魔獣が1体登場したが、マリアは見事な剣筋で魔獣を一閃。


「動きの早い狼を剣で一閃か。確かにランクAの実力はあるな」


 マリアの剣筋を見てグレイが感心していう。


「グレイに褒められると自信になるわね」


「いやいや本当さ。見事なもんだ」


 ランクBが単体でしか出てこない5層、6層をさっくりとクリア。7層を降りたところにある石板に記録すると、


「ここからはランクBが複数体いるな。エニスはマリアのフォローを。俺たち後衛は強化魔法掛けたら観戦しよう」


 複数体出てきてもランクBは彼ら5人にとっては雑魚扱いで、マリアの剣とエニスの剣で面白い様に魔獣が倒れていく。


「全く出番がないわね」


 ケリーが暇そうに後ろを歩きながら言うと、


「そのうちに忙しくなるから今のうちに休んでおけよ」


 ちょうど4体の魔獣を倒したエニスが背後を振り返って言う。


 そうして10層に降り立つと、そこは森だった。


「こんなフロアもあるんだ」


 マリアがその景色を見て感心していると後ろからグレイが、


「川もあればどう言うわけか太陽も出ている。地上と変わらない風景だが、魔獣はランクAに上がってる」


 その言葉を聞いてリズ がパーティ全員に強化魔法をかける。隣のエニスはもちろん、後ろを見るとリズ 、ケリー、そしてグレイが今までのフロアとは違う目つきになっていて


(これが元勇者パーティの本当の姿なのね。私にでも戦闘モードに入った彼らのオーラがビシビシと伝わってくるわ)


「グレイ、空から偵察する?」


「それじゃあ面白くないだろう?」


 エニスとグレイのやりとりにケリーが


「ようやくスキル上げが出来そうね」


「遠慮なく精霊魔法撃ってくれ。俺とリズはフォローに回る」


 そうしてケリーが前に出てエニス、ケリー、マリアの順で並んで森の中にある道を歩き出す。


 歩いてすぐに突然ケリーが森の中に向けて雷系の精霊魔法をぶちかました。すると、森の奥から叫び声と魔獣の倒れる音が。


「…気がつかなかったわ」


「周囲の気配を感知してるからね」


 あっさりと言うケリーの言葉にマリアが


「そうなの?」


「気配感知の範囲が一番広いのはグレイよ。今も当然気付いていて私に華を持たせてくれただけ」


「そうなの?」


 マリアが後ろを向くと頷くグレイ。そして


「相変わらず、いい威力してるな、ケリー」


「同じ威力を出す大賢者様に言われても嬉しくないわね」


 そう言ってはいるが顔は笑っている。


 その後も森の中を進みながら左右の森の中に潜んでいる魔獣を次々と精霊魔法で倒していくケリー。


「俺の仕事がなくなっちゃうよ」


 エニスがぼやくと、


「じゃあ左正面にいるトレントは任せるぞ。ケリーは木の上から俺たちを狙っている

ワイルドモンキーを頼む」


 マリアには全く見えていなかったが言われた2人はグレイの声を聞くと直ちに戦闘状態に入る。エニスは剣を抜くと、正面の樹木にしか見えない木に突撃していく。するとエニスが近づくと木が動き出し多数の蔓がエニスに襲いかかってきた。


 背中側からリズ の強化魔法をもらったエニスは蔓をいとも簡単に切り、交わして本体の幹に片手剣を一閃すると大きな叫び声を上げてランクAのトレントが倒れ光の粒になって消えていった。


 その少し前、ケリーは木の上で動き回るワイルドモンキーの動きをじっと見ていたかと思うと杖を差し出すとそこから精霊魔法が飛び出して命中したワイルドモンキーが木から落ち、これも光の粒になって消えていった。


「あれがグレイよ。ふざけた話をしながらも常に周りを見て気配を感じ、そしてメンバーに指示を出す。グレイが言うと皆一斉に動き出すの」


 マリアの隣に立ったリズ が、前方でトレントを倒したエニスと笑いながら話をしているグレイを見て言う。


「あれがグレイの本当の姿。普段と全然違うのね」


「彼は普段は軽い調子で話するけど、本当は思慮深くてそして極めて優秀な冒険者。魔王討伐の時もどれだけ彼に助けられたか」


 リズ が言うとその後をケリーが続けて、


「彼は本当に間違えないの。いつもわずかな時間で最適の方法を見つけてくるの。

パーティの司令塔ってこの前話した意味がマリアもわかったんじゃないの?」


「ええ」


 マリアは疑っていたわけではないが、実際に目で見てみるとグレイの優秀さに

感心すると同時に元勇者パーティのまとまりの良さにも同時に感心していた。


「チームワークがすごくいいのね」


「皆がそれぞれのメンバーを認めあってるからかもね」


 リズ が言うとケリーも


「グレイがパーティに入ってから今まで以上にまとまりが出来たわね。パーティに不可欠な人物だったわ」


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