第35話 マリアの初ダンジョン その1

 エニスからオーブの連絡で今週末に時間が取れそうだと連絡が来た。ケリーに聞くと彼女も大丈夫とのことでとりあえず人数は揃った。あとはどこのダンジョンに行くかと言うことだ。



「それで俺のところに来たってわけか?」


「ああ。ギルマスなら何でも知ってるだろうと思ってさ」


 グレイはエイラートのギルマスのリチャードの部屋で、ソファに向かい合ってジュースを飲みながら話しをしている。


「いつだったかな。領主のエニスと奥方がお忍びでここにやってきて奥方を冒険者登録してくれと言ってきた」


「知っている」


「だろうよ。それでいくら領主の奥方であってもギルドのランク付けは公平にせにゃならんってことで鍛錬場を閉鎖して貸し切り状態にしてから俺が奥方のお相手をしたのさ」


 そうなるだろうとグレイは思っていたのでギルマスの言葉にも驚かずに続きを待つ。


「あの奥方が元騎士だってのは俺も知っていた。で、いざ剣を持って模擬戦をしてみたら想像以上に強い。正直名前だけの騎士だろうと思ってた俺の認識が甘かった。あの奥方相当やるぜ」


「エニスも言っていた。マリアは冒険者だとランクAのレベルは間違いなくあるってな」


 グレイはギルマスの言葉に頷いてからそう言うと、


「おいおい、知ってたのなら先に教えてくれよ、まったく恥かいたぜ」


「それで?結局どうしたんだ?」


 睨みつけてくるギルマスの視線をかわして涼しい顔で話を促すグレイ。


 ギルマスのリチャードはグレイを睨みつけてから再びソファに深く座りなおして、


「奥方はお前ら元勇者パーティの連中以外とはパーティを組む気もないし冒険者として活動する気もない。あくまで元勇者パーティと一緒にダンジョンに潜ったり、強い獲物退治をしたいだけだと言うことなんで、元勇者以外とは組まない、単独行動はしないという条件付きでランクAにしたよ」


「よくランクAにしたな」


「仕方ないだろう?実際のところ実力は間違いなくランクAクラスだ。これは俺が認める。ただ、規定だといきなりランクAにはできないから王都のギルドのフレッドに

話を通して奴の了解も取り付けてランクAにしたんだ」


 王都ギルドのギルマスをしているフレッドはグレイ始め元勇者パーティにとっては馴染みの顔だ。正義感は強く腕も立つ。それでいて人情味の溢れた王都ギルドにとっては必要不可欠なギルドマスターだ。いや王都だけじゃなくて、このアル・アインの冒険者ギルドを仕切っていると言ってもいい程の人物だ。


「フレッドならその条件付きなら認めるだろうな」


「あいつ、エニスに貸しを作ったって喜んでたぜ」


「わかった。それで俺たちに向いてるダンジョンってあるのか?」


 マリアがランクAのカードを取得できたと聞き、ならば潜れないダンジョンは無い訳で、


「ああ、もう見つけてある。お前さんらが行くならここだ」


 そう言ってテーブルの上にエイラート周辺の地図を広げるとリチャードの指先が一点を指し示す。


 その場所はエイラートからは徒歩で2日ほど西に歩く距離にある場所だ。その点を指差しながら、


「ここはまだ踏破されてない。比較的新しいのと移動が不便でな、冒険者の連中もほとんど行ってない。ここなら領主が行ってもまずバレないだろう」


 確かにエイラート周辺のダンジョンは比較的ここから距離が近い場所に複数あり、徒歩で2日もかかる不便な場所にわざわざ出向く物好きもいないだろう。


「それで、このダンジョンの難易度は?」


 グレイが地図から目を上げてギルマスを見ながらそう言うと、ギルマスはニヤリとして


「まだ5層までしかクリアされてない。理由はこのダンジョンを攻めたのがランクBのパーティだったこと。そいつらによると5層で既にランクBの魔物が出てきたらしい。単体での出現だったので何とか倒せたが複数体になるとランクBじゃ無理だって

ことで引き返してきている」


「なるほど、5層でランクBが出てくるのなら難易度は高そうだ」


「だろ? ランクSのお前さん達が攻略するのにぴったりと思わないか」


「わかった。じゃあそこにしよう。行く前にはギルドに顔を出す」


「そうしてくれ」


 グレイは一旦家に戻るとギルマスとの会話の内容をリズに話し、先に一人でこのダンジョンに行って地点を覚えて、後日移動魔法ですぐに行ける様にしてくると言うと


「わかった。飛んでいくんでしょ?」


「その方がずっと早いからな」


「じゃあ夕ご飯作って待ってるね」


「頼む」


 グレイは街の外にでると隠蔽魔法と飛行魔法で一路西を目指していく。街道に沿って空を飛び疲れたら地上に降りて休んで。


 そうしてエイラートから5時間程飛ぶと目的のダンジョンが見えてきた。


 冒険者の数が少ないせいかダンジョン周辺には簡易宿泊施設や武器屋、防具屋などの店もなく衛兵の詰所が入り口の近くにポツンと立っているだけだ。


 地上に降りて詰所に近づくと中から人が出てきて


「大賢者グレイ。あんた、ここのダンジョンに挑戦するのかい?」


 どこに行ってもグレイの面は割れている。有名だ。


「ああ。ただ今じゃない。とりあえず場所を見にきただけさ」


「なるほど。あんた達が来たらこのダンジョンも少しは活気付くかもしれないな」


「だといいな。じゃあ近々来るんでその時はよろしく」

 

 そう言うと移動魔法でその場から瞬時にエイラートに戻っていった。


「早かったのね。それで上手くいった?」


 家に帰るとちょうどリズ が夕食を作り終えたところで、向かい合って夕食を取りながら


「ばっちり、これでパーティ全員を移動魔法でダンジョンまで運べる」


「よかったね」


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