第31話 脱税貴族 その1

 その頃領主の屋敷では領主のエニスが難しい顔をして側近の官僚たちと打ち合わせをしていた。


「なるほど。やっぱり少ないか」


 税担当の役人、彼もエニスと一緒にエイラートにやってきたのだが、その彼が、


「ええ。かなり誤魔化していると思われます。あの領地であの農作物を作っていて

ここ(領主)に納める税金の額がこの程度ということは絶対にあり得ません」


「他の領地からの税収はどうなってる?」


 その質問には、別の税担当者が


「少し少ないとは感じておりますが、この貴族程ではありません」


「皆少しずつ誤魔化してるってわけか。となるとこっちが舐められる前に先に手を打とうか」


「それがよろしいかと。税のごまかしが一番酷いテムズ家をどうにかできれば他の周辺の貴族はすぐにでも改善するでしょう。前の領主の時代からもう長年にわたって税を誤魔化してきている様ですし」


 辺境領には領内に幾つかの貴族が辺境領主から分けてもらった領地を持っており、その領地はその貴族が管理する代わりに毎年税金を領主に納める仕組みになっている。


 その貴族達が辺境領主に対して納めている税金が異常に少ないということを発見したのは王都からエニスと一緒にこのエイラートにやってきたエニスをサポートする官僚達。


 彼らはエイラートでの仕事が始まるとエニスの指示の下、すぐに辺境領内のそれぞれの貴族領に行き隠密調査を開始した。そうして調査が終わるとエイラートに戻ってきてその調査結果をまとめて領主のエニスに提出したのだ。


「お父様の力を借りる?」


 妻のマリアが提案するが、


「いや、それは最後の手段にしよう。その前にやれることがある。」


 マリアとのやりとりを黙って聞いている官僚たちは最初は冒険者上がりのエニスを

懐疑の目で見ていたが、実際に領主として仕事を始めると、事務処理能力も高く、また決断力もあり、公平でえこひいきをしないエニスの仕事ぶりを高く評価し、今ではエニスのブレーンとしてその優秀な能力を更に開花させていた。


「このテムズ家が管理している領地の領民の暮らしぶりや領主に対する不平不満は?」


 現地を隠密調査した一人の官僚が答える。


「領民から取る税は高く、皆ギリギリの生活をしております。領主の意を受けた士官が厳しく税の取立てを行っている様です。従い領民は領主にはなびいておりませんが、かと言って抵抗することもできず皆諦めており活気がありません」


 そこで一旦言葉を切ると、


「あと、これはあくまで噂ですが税を治められない民に対しては、士官の意を受けた領主の騎士達が暴力を働いていると言う話もあります。この騎士達は普段から素行が悪く、貴族の領内を我が物顔で歩いているそうです」


 官僚の報告を黙って聞いていたエニス。


「つまりだ。住民には高い税率をかけて多くの税を徴収しておきながら俺たちには不作で納める税金が少ないと言ってるってことだな。ダブルで不正をしているのか。しかも不平不満は暴力で押さえつける。ひどい話だ。もう末期的だな」

 

 そう言うと、立ち上がり、


「わかった。ここエイラートから正式に査察団を送り込む。もちろん事前通知無しだ。いきなり乗り込むぞ。そしてその場で証拠を掴んでテムズ家を追い詰める」


 そう言うと査察団のメンバーを選ぶ作業に入っていった。



「領主様の考えはわかった。それで俺の酒場にやってきた理由は何なんだい?」


 グレイの酒場は今日は貸し切りになっている。エニスから今日酒場に行くと言う連絡が入り、リズと相談して貸し切りにしたのだ。


 酒場にはグレイとリズ の他にはエニス、マリア、ケリーそして実際にテムズ家の

領地を視察してきた王都から連れてきた官僚のリンツという男、全部で6名がいる。


 リンツから改めてその報告を聞いたグレイとリズ 。そしてエニスからはエイラート正式に査察団を送り込むことにしたとグレイに説明があった。


「グレイとリズ に査察団の護衛を頼もうと思って」


 エニスの言葉に


「その地方の領主お抱えの騎士対策か?」


「それもある。それ以外の不測の事態に備えて…かな」


 なるほど。相手も不正をしている貴族だ。文官だけで臨めば最後は相手が力技で

来ることも予想される。エニスにしてはまともな判断だと感心していると、


「ちょっと待ってよ、何で私の名前がないのよ?」


「えっ、ケリー、魔法学院は?」


「新学年はまだ1ヶ月ちょっと先よ。当然私も行くわよ」


 エニスに食ってかかるケリー。


「わかった。じゃあケリーもグレイ、リズ と同行を頼む。元ランクSが3人いれば何の問題もないだろう」


 エニスの話にマリアも頷いている。ケリーは納得すると、


「テムズ家が住んでいる街といえばノリッジか。あそこにはギルドがあったわね」


「ノリッジのギルドか。ここのギルマスから紹介状をもらっておくか。現地の状況次第だがギルドの協力が得られるかもしれないしな」


 査察はリンツを中心に文官で構成され、エニスの書状を持ってノリッジのテムズ家に乗り込む。


 グレイとリズ 、ケリーは道中の護衛とノリッジの街での文官たちの保護及び現地の騎士対策だ。


 その後も酒場にいたメンバーで詳細な打ち合わせを行った3日後、グレイは一人で

エイラートの街を出てノリッジに続く街道を歩いていた。

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