第29話 幻の生き物 その1

「呼び出して悪いな。傭兵の仕事だ」


 ギルド職員に呼び出されてギルドに顔を出すと、ギルマスのリチャードが席に着くや否やグレイとリズ を見て話しだした。


「何があった?」


「このエイラートの北で見たことがない魔獣が出たらしい。この街とこの北にある

辺境領最北の村とを結んでいる街道の除雪に向かった連中が見つけて逃げ帰ってきている。


「見たことがない魔獣って一体何なのかしら?」


 リズ が思ったことを口にすると、


「出くわした奴らの話だと、でかい猿の様な魔物に見えたって話だ」


 それを聞いてリズ がグレイを見て、


「グレイ、心当たりのある魔物はいる?」


「全く思い浮かばない。ひょっとしたらNMかもな」


 グレイの言葉を聞いてギルマスリチャードは露骨に嫌な顔をして、


「やめてくれよ。NMなんて。お前ら以外は倒すのが無理じゃないかよ」


「いや。まだそうだと決まった訳じゃないし。とにかくこの話、受けるよ。ケリーにも声をかけてみる」


 そうしてギルドを出た二人はそのままケリーの家に出向くと、ちょうど家にいた

ケリーが二人を家に上げる。


「小綺麗なお家ね」


「やっと片付いたのよ」

 

 ケリーの家はグレイの店からも遠くない静な住宅街の一角にあるこじんまりとした

綺麗な一軒家だ。


 出されたお茶を飲み、ひとしきり雑談をしてからグレイが要件を切り出す。


「そう言うことで俺とリズ はギルドの依頼を受けて北に向かうんだが、ケリー、どうする?」


 ケリーにそう言うと、即答で、


「もちろん行くわよ。学校はまだ始まらないし、家の片付けも終わったし。それにしても大きな猿の魔物? 見たことも聞いたこともないわね」


 顔を上げて天井を見て何か思い出そうとしたケリーだが、彼女も知らない様だ。


「遠目に見てるし、普通の人なら魔物をよく見る間も無く逃げるだろうし、実際見てみないとわからないな」


 グレイが言うとリズ が補足して、


「グレイはNMじゃないかって思ってるのよ」


「どうして?」


「単に見たことがない魔物だからさ。ひょっとしたら北の山脈に住んでる魔物が何らかの事情で南に降りてきたのかもしれないけど。まあ、どっちにしても見たことがない魔物の討伐の可能性が高いから気を引き締めていかないと」


 そうして翌日、グレイとリズ 、ケリーの3人はエイラートを出て北に向かった。

 

 グレイ、リズ は賢者と僧侶の格好で、ケリーも今日は精霊士の装備で出かけており、この格好も久しぶりねとかいいながら3人で並んで街道を歩いていく。


 魔物を見たのはエイラートから2日程北に上がったところで、そこまで行く途中には村が無いので野営の用意をしている3人だった。 


 北の村に続いている街道は途中までは綺麗に除雪されていて、その道を北に歩き、

夕方になると街道に沿っている林の中の雪の比較的少ない場所にテントを貼った。


「リズ 、結界を」


 グレイの言葉にリズが2つのテントを囲む様に結界を張る。


「以前より結界が強力になってるわ」


 張られた結界を見てケリーが感想を述べる。


「でしょ?スキル上げの成果ね」


「本当ね。私も頑張らないと」


 2つのテントを結界で守るとその中で夕食となった。食事をしながらグレイとリズ が自分たちの得た新しいスキルや魔法についてケリーに説明する。


 聞いていたケリーは2人の話が終わると、


「実際に聞いてみるとやっぱりグレイのその新しい魔法は反則級だよね」


「自分でもそう思う」


「リズ のはやっぱり敵対心大幅減少というのがすごく魅力的。ヘイト管理がいらないって精霊士にとったら夢の様な事だもの」


 ケリーは過去の勇者パーティの時の自分の苦労を思い出しながら言うと、リズ が頷き、


「パーティの時に隣で見てたけど、ケリーが魔法撃ちたいけど我慢してたって事って結構あったよね」


「あったあった。まぁそん時はこのグレイがすぐに魔法を撃ってくれてたけどね」


「魔法の威力は別にしてな」


 その後も当時のパーティの話題で遅くまで話をして盛り上がった3人。


 翌日起きてテントを畳むと街道に戻って北に進んでいく。


 街道を歩いていると、目の前の道が除雪がされてない状態のままになっているのが見えた。除雪された場所と、除雪されていない場所が綺麗に分かれている。


 その境界線を見ながら、


「この辺りで魔獣を見かけて、工事を中断して戻ったってことか。そろそろだぞ」


 グレイの言葉に2人も頷き、周囲を警戒し、街道を火の魔法で溶かして除雪しながらゆっくりと進んでいく。ケリーの除雪のやり方を見て、


「相変わらず魔法の威力のコントロールが上手いな、街道が痛まないギリギリで雪を溶かしてる」


 グレイが感心していう。


「これくらいは出来ないとランクSって言えないでしょ?」


 ぶっきらぼうな口調だが、ケリーの表情は満更でもない。そうしてケリーとグレイで交代で除雪しながら進んでいくと、


「前方、道路の左側の林ところに気配があるが、魔物じゃないみたいだ」


 グレイの言葉にリズ とケリーもそちらの方向に気を向けると、


「確かに何かいるけど、私も敵対心を感じない」


 ケリーが言うと、リズ も


「うん、私も同じだよ。何だろう」


 ランクSの連中は皆それなりに気配感知の能力を持っている。これは職業やスキルに関係なく長い間同格や格上との戦闘を繰り返してきた経験から身につけた後天的な

能力だ。


 ちなみにパーティ当時から気配感知が一番優れていたのはグレイで、最も悪かったのが勇者のエニスだ。


 エニス曰く「出会った敵は片っ端から倒せばいいんだよ」と気配感知能力が低いことを全く気にしなかったが、実際エニスには気配感知がいらない程の戦闘能力があったから周りも何も言わなかった。いや言っても無駄だと理解していた。


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