第27話 勇者パーティの話

 そうして二人の会話が一段落するとマリアがリズ の方を向いて、


「リズ 、勇者パーティって実際どういうものだったの?私はその時は騎士でエニスや貴方達と一緒に行動することはなくてあくまで流れてくる噂話でしか知らないのよ」


「そうね…」


 としばらく考えてからリズ は勇者パーティの成り立ちから話始めた。


 魔王が誕生すると、それと同じタイミングで人間界には勇者が誕生すると言われてきていて、今回も魔王誕生とほぼ同時にこのアル・アインで冒険者をしていたエニスに勇者の紋章が浮かび上がった。


 勇者が誕生すると大陸中に告知することになっていたので、ここの国王は直ちに大陸のルサイル王国とメデイナ教皇国に対して勇者誕生の発表を行い、それと同時に大陸中で勇者パーティ、勇者に同行するにふさわしい人物の選定に入っていった。

 

 勇者パーティになるための条件はその当時3つあり、

1つは勇者と同じ年代であること

もう1つはランクAの冒険者であること

そして3つ目はその国のギルドがその冒険者の品位を保証すること。

であった。


 腕が良くても素行や性格に問題がありそうな冒険者は推薦されず、各国にて厳しい選考が行われその結果、勇者エニスに同行するのはルサイル王国出身のナイトのクレイン、メディナ教皇国出身の僧侶のリズ 、そしてアル・アリン王国出身の精霊士の

ケリーと決まった。


「ちょっと待って、グレイは? グレイは勇者パーティに入ってなかったの?」


 リズの説明にマリアが疑問を口にすると、


「そう。グレイは最初パーティにいなかったの」


 当初勇者パーティはグレイを除く4人で活動を開始し、大陸の西北に位置する魔王領に出向いては魔王軍と日々戦闘を行なっていた。


 勇者パーティが結成され、活動を開始して3ヶ月程が経ったころ、アル・アイン王国の王都に戻ってきた勇者パーティから国王に対してもう1名メンバーを追加して欲しいと依頼をする。


 その理由は魔王軍との戦闘は毎回激しく、後衛が僧侶と精霊士の2名では魔力が相当厳しいという理由であった。


 アル・アインの国王は勇者の希望を聞き入れ、もう1名を勇者パーティに追加すると発表。


 そうしてルサイル、メディナ、そしてアル・アインで再度選考が始まったが、今回は選考の条件として先ほどの3つの他に

・後衛ジョブであること

・魔力量が豊富な人物であること

という条件が追加された。


 そして1ヶ月後、最終選考に残ったのは賢者のグレイと、もう一人ルサイル王国の

精霊士の2名であった。


 3カ国の国王と勇者パーティのメンバーが見守る前で自身の技を披露した2人。

 

精霊に特化し、強力な魔法を打てるルサイルの人か、賢者という中途半端な

ジョブながら豊富な魔力量を武器に、精霊、回復、神聖魔法を使うアル・アインの

グレイか。


 どちらも甲乙つけ難く3カ国の国王は最終決定権を勇者パーティに委ねることにした。


 そしてグレイを5人目のメンバーにすると勇者パーティから発表されて、グレイが

賢者として勇者パーティに入って魔王討伐に参加することになったのだ。


「そうなんだ。ねぇ貴方、どうしてグレイを選んだの?」


 マリアが隣に座っているエリスに聞く。


「王都で最終選考を見たときに、俺の中ではすぐにグレイをメンバーにしようと決めていたんだ。とにかく魔力量が半端なく多い。それと精霊士、僧侶のどちらのジョブも使えるというのは俺たちからみたら非常に使い勝手が良くて助かるジョブなんだよ。

 

 魔王軍との戦闘を経験して、彼らの戦闘のパターンは毎回変わり、これと言った定石がないことに気づいたんだ。そうなるとある戦闘では精霊メイン、ある戦闘では精霊ではなく武器メインで回復が多めとかこちらも戦法を相手に合わせて変えていく

必要があると感じていたのさ。

 

 そういうときにグレイをみて、もうこいつしかいないって感じでさ、国王から選定を委ねられた時に他のメンバーに相談ををしたら皆同じ意見だったんで満場一致でグレイにメンバーに入ってもらったんだ」


「そうだったの」


 そこからはリズ に代わってエニスが話をしていく。


「グレイが入ってからは俺たちの戦闘はずっと楽になっていった。グレイは極めて優秀な賢者だった。特にケリーとリズ の魔力管理が完璧でね。戦闘の途中ででも二人を交代で休ませてその間は自分が精霊魔法や回復魔法を使って時間を稼ぎ、前衛に対しても負荷がかからない様に常に魔法が切れる前に強化魔法の上書きをしてくれたり。 おかげで俺たちは魔王軍との戦闘がグッと楽になり、また連戦しても問題のない戦力になったんだ」


 そこで一旦言葉を切るとグラスの酒を飲み干すエニス。グレイは黙って話を聞きながらエニスのグラスに酒を注ぐ。


 再びエニスが口を開いて、


「それとは別にグレイが入って格段に戦闘力が上がったのは、彼が極めて優秀な作戦参謀だと言う事なんだよ。策士だよ、グレイは。

 

魔王軍との戦闘において取るべき作戦の骨子を考えるのがもう天才的にうまくてね、俺たちはいつもグレイの考えた作戦を基にそれに肉付けしていって最終的な作戦を考えていた。そしてその作戦は常に100%正解の作戦だった」

 

 黙って聞いていたマリアはエニスの話が終わると、


「じゃあグレイが大賢者になったのも当然と言えば当然なのよね」

 

 エニスは頷き、


「俺たちはいつも一緒にいたからグレイの能力が半端ないって知ってたし、皆彼を信用してた。だけど世間的に賢者の評価は決して高くなかった。グレイもそれを自覚してたから、彼は毎日自己鍛錬をし続けていたんだ。宿に泊まった時も、野営した時も、その日の戦闘でどれだけ疲れていても毎日欠かさず自分の魔力を高める訓練を続けていたのさ。だから大賢者にはなるべくしてなったんだよ」


 長い話を聞き終えたマリアはグレイを見て


「大変だったんでしょうね。私は幸い貴族の娘に生まれて、周囲は私に気を遣う人ばかりの中、騎士という職業まで経験させてもらってる。不自由がなかったと言えば嘘になるけど、それでも今のグレイの話を聞くと私の不自由なんて不自由にもならないくらい些細なことだったんだと。世間の人達が、なんで彼が勇者パーティにいるんだ?と言われながらも自分を貫き通してきたグレイは素直に凄い人だと思えるの」


「一言で言えば俺はツイてた」


 マリアの言葉に続けてグレイがゆっくりと話だした。


「賢者というジョブを選んだ時点で茨の道だってのは知ってた。身寄りもなく、アル・アインの田舎町の孤児院で育った俺には冒険者位しかできる職業がなかった。

で、冒険者になるときはソロで活動できるジョブってことで賢者を選んだんだよ。


 周りには誰も知り合いもいない、身寄りのない、しかも賢者というジョブの俺を受け入れるパーティも無いだろうと分かってたからとにかく必死でソロの冒険者として活動してた。そしてどうにかランクAまで昇格できた。本当はそこで満足してたんだよ。自分でも良くここまでやってきたってね。


 そういうときに勇者パーティの補充メンバーの話が来てね、当時の街のギルマスがいい人で俺を強力に推薦してくれた。


 今から考えると俺の周りは皆いい人ばかりで相当助けられてきたと思う。

 

 パーティに入ると3カ国の国王や教王と会うことも多かったけど、どの国のトップも俺が賢者だからという理由で無下にすることはなくて、むしろ賢者でよくやってくれているって褒めてもらってね。すごく嬉しかった。


 でもやっぱり賢者は中途半端なんだよ。精霊魔法ではケリーに勝てない、回復、

神聖魔法ではここにいるリズに勝てない。勝てないのは仕方がない。そう言うジョブだからな。でも中途半端なら中途半端なりのやり方があるんじゃないかっていつも考えていた。


 勇者パーティのメンバーもいい奴ばかりだったから俺も動きやすかったし。人に恵まれてここまで来れたんだなと思ってる」


 グレイが話終わると隣に立ってたリズ がグレイの腕にしがみついてきた。今のグレイの話、パーティに入る前の時の話はリズ も初めて聞いたのだ。


「でもグレイはいつも格好よかったよ」

 

 グレイを見つめながら言う。


「ありがと」


「確かに格好よかったよな。戦闘中も背後から俺とクレインに指示を出したかと思うとリズ とケリーにも指示を出して。そして戦闘が終わるとリズ を休ませて毎回グレイが俺たちに回復、治癒魔法をかけてくれてた」


 エニスがそう言ったあと、しばらく酒場の中は沈黙に包まれたがそれは暖かい空気に包まれた静かな時間だった。


 しばらくして


「貴方、今日はこのお店に来てよかったわね」


 マリアがエリスに言うと、大きく頷いて、


「ああ。本当だ。そう言うことでグレイ、これからもちょくちょくお邪魔しにくるのでよろしく」


「まじかよ?お前達が来たら他の客がビビって帰ってしまうぜ?」


「まぁ領主の顔を知ってる奴ってそうはいない筈、うん、きっと大丈夫だよ」


 その後しばらく雑談をして二人が屋敷に帰ると言うので、転移魔法でエニスと

マリアを領主の屋敷の前に運ぶと、


「今日はありがとう。またここにも来てね。グレイとリズ はいつでも歓迎だから」


「そうそう。グレイ、この屋敷にも遊びに来てくれよ」


「いや、そう簡単に来られないだろう?」


 そう言って二人が屋敷に消えるのを見てグレイも自宅に戻っていった。


 自宅に戻ると酒場を片付けたリズ がグレイを待っていて、グレイの姿を見ると

抱きついてきた。


(うん、今日はリズと一緒に風呂に入ろう)


 そうしてグレイは抱きついてきたリズ の背中を優しく撫でていた。


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