第26話 大雪が降った日

 この日は年に数度あるドカ雪が降った日となり、エイラートの街は朝から

シンと静まりかえり、雪が静かに降る音だけが街中に響いていた。


 午後になってもやまない雪をリビングから二人で窓の外を眺めながら、


「結構積もってるな。流石に今日は店を開けても誰もこないだろうな」


「そうね。どうする?お休みにする?」


 窓の外に降る雪を一緒に見ているリズがグレイに聞いてくる。


「そうだな。とりあえずいつも通り開けてみて、人が来なかったら早めに閉めるか」


「そうね。わかった」


 そうして夜になり酒場を開けるも、しばらく経っても誰もお客さんが来なくて、


「やっぱり今日は無理か」


 そう言って片付けようとした時に酒場の扉が開いて、


「よかった。やってたか」


 そう言う声がして、グレイとリズがドアを見ると、


「エニス!」


「それにマリアも?」


 扉を開けて店に入ってきたのは辺境領の領主のエニスとその妻のマリアだった。


「どうしたんだよ?領主の屋敷から抜け出してきたのか?」


 雪を払い、防寒コートを脱いで後ろの壁にかけてからカウンターに座る二人にグレイが聞く。


「抜け出してきたんじゃないよ。ちゃんと来る時はそこの通りまで護衛の騎士と

一緒に来たんだ。彼らはもう帰したけどね」


「本当か?」


「本当だよ。帰りはグレイの移動魔法で帰るからって言ったら納得してくれたし」


「エニスがね、こういう雪が多い日はきっとグレイのお店はお客さんが少ないから、

顔を見に行こうって言ってね。気分転換に屋敷から出てきたの」


 エニスの隣に腰掛けるとしれっと言うマリア


「気分転換ってたって、こんな大雪の日に普通来るか?」


「そうよ。それにちゃんと事前に連絡してくれたらその日は貸し切りにしたのに」


 グレイとリズ がカウンターの中から二人に言うが、


「それじゃあ面白くないじゃないか。こうやって突然来た方がインパクトがあるだろう?」


 グレイは店のドアの看板を「CLOSED」にしてくる。


 その間にリズ がエニスの前にお酒を、マリアには暖かい飲み物を渡し、


「本当にエニスって領主になっても何にも変わってないのね。安心したわ」


 リズ はもう呆れを通り越して達観した表情でエニスに話かける。

 

「そう言えばリズ 、新しいスキルを会得したんだって?すごいじゃないの。グレイと一緒で真面目に精進した賜物だね」


 エニスはリズ の言葉を聞き流したかの様に違う話題を振ってくる。


「街では聖僧侶って言われてるらしいじゃない。すごいわ」


 エニスの言葉にマリアが続けるが、


「その呼び方、大袈裟過ぎだよね。普通の僧侶でいいのに」


 リズが言うとエニスがすぐに否定する。


「そうはいかないだろ? 僧侶のスキル上限を開放したんだし、やっぱり聖僧侶だよ。これでまた皆んなのモチベーションがあがるよ。うん、いいことだ」


 差し出された酒をグイッと飲んで美味いと言うと隣から


「あまり飲まないでね」


 マリアが窘める。


「わかってるって。それで新しいスキルって具体的にはどういうものなの?」


 エリスに聞かれるままにリズ が新しい僧侶のスキルを丁寧に説明していく。その間はエリスも真剣な目でリズ の話を聞き、聞き終えると、


「敵対心大幅減少ってすごいな」


 と感心し、


「回復、治癒の上位魔法となったら教会はもちろん、貴族や王家らが大挙してこの街にリズ を引き抜きにくるんじゃないのかな」


「間違いなくそうなるだろうな。ただ、リズはその手の話は全部断ると言っている。エイラートでこうやって生活するのが良いらしい」


 リズ に代わってグレイが言う。


「そりゃね、女性からしたら好きな男性のそばにいて好きなことができるのならそれが一番いいものね」


 マリアはリズ の考えに100%同意すると言いそのマリアの言葉にうんうんと頷くリズ 。


「それにリズ がエイラートにいた方がエリスにとっても都合がいいだろう?」


 とグレイ


「もちろんだよ。グレイにリズ 、この二人がエイラートにいてくれるだけでこっちはずっと安心できる」


「じゃあ、春になって外から有象無象がこの街にやってきたときの対応、よろしく」


「ええっ!?」


「今言ったじゃないかよ、俺とリズ がいた方が良いって。領主のエニスが防波堤になってくれりゃあこっちは楽だしな」


「そうね。お願いね、エニス」


 最後にリズ にもダメ押しのお願いをされて仕方ないかとか言いながらも承諾したエニス。


「そうそう。それでこそいい領主様だって領民から言われるんだぜ」


 ひとしきり笑ってから


「なぁ、グレイ」


「何だい?」


「俺たちが勇者パーティを解散してそしてグレイは大賢者になり、リズ は聖僧侶になった。…と言うことはだ」


 そこまでエニスが言うと後をグレイが続ける。


「ああ。ナイトのクレイン、精霊士のケリー、そしてエニス、お前もまだ成長できるってことだろうな」


「俺はちょっと特殊だから置いておいて、クレインとケリーは十分可能性があるな」


「ああ。というかあいつらの事だ。リズ が上位になったというのを聞いた時点で自分にも、と思ってるだろう」


「そうだよな。じゃあそのうちにナイトと精霊士の上位スキル開放のニュースが出るかもしれないな」


 グレイとエニスのやりとりを黙って聞いているリズ とマリア。


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