第25話 聖僧侶リズ


 グレイとリズ は冬を間近にしたエイラートの街でいつもの生活を送っていた。


 今日も朝の鍛錬の後、二人で森の奥でランクAの魔物を討伐してスキルを上げていると、


『僧侶の全スキルが上限に達しましたので新たに新しいスキルを取得しました。スキルの上限を開放しました』


 リズ の脳内でアナウンスが響いた。リズ は魔物から魔石を取り出しているグレイに、


「グレイ!私も新しいスキルを取得できたみたい!」


 そう叫びながら駆け寄ってくるリズ をぎゅっと抱きしめると、


「本当か? やったじゃないか、リズ 。それでどう言うスキルなんだい?」


「うん、ちょっと待ってね」


 そう言うと自分のステータスを確認しながら口に出して説明していく。


『神聖・回復・治癒魔法』

 と出て、その下に

・聖なる力を通じて魔物を討伐することができる。ホーリーと呼ぶ神聖攻撃魔法で普通の魔物にも有効であるが、相手がアンデッドの場合には特にその効果を発揮する。

・回復、治癒魔法についてその能力がアップし魔法を使用した際の効果が大きくなる。その一方魔法使用時の敵対心が大きく減少する。魔力量については従来と同じである。



その下には


『???』


 とある



 黙って聞いていたグレイは強くリズ を強く抱きしめて


「凄いじゃないの、リズ 」


「うん。グレイと一緒に頑張ってきてよかった」


 グレイの胸の中で涙を流して喜ぶリズ 。そうしてしばらく抱き合ってから、


「早速見せてくれよ、そのホーリーって魔法」


「わかった」


 そうして森を歩くとすぐにランクAの魔物を見つけ手に持った杖を魔物に向けて脳内で『ホーリー』と唱えると、杖の先から光が一直線に魔物に飛んでいき、光が当たるとランクAの魔物が光に包まれ、そのまま絶命して地面に倒れ込んだ。


 それを見ていたグレイは


「凄い威力だ。ランクAを一撃だ」


「本当ね、想像以上だわ」


「普通の魔物でこの威力だろ?アンデッドならもっと凄いってことだよな」


「そうなるわね。でもそれよりも回復と治癒魔法の効果が上がったことの方が嬉しい」


 優しいリズ らしく、攻撃よりも回復、治癒の能力がアップしたことに喜んでいる。


「リズ らしいな。でもこれでまた助けられる人が多くなるな。それに敵対心大幅減少はすごくでかい。これで戦闘中に大回復魔法を使ってもタゲが来ないくなる」


「そうね。魔法効果アップも嬉しいし、敵対心マイナスも便利」


 魔法は敵のヘイトを取りやすく、威力が大きい魔法ほどヘイトをとってターゲットが魔法使いにくるのが普通だ。


 従い、魔法使いはヘイトバランスを考えて魔法を使用するので、攻撃、回復魔法共に中途半端になりがちだ。


 リズ の新しいスキルの敵対心大幅減少は戦闘中にヘイトを気にせずに大回復、治癒魔法が使えるので戦闘のやり方が大きく変わってくることになるだろう。


 その後二人で森の中で神聖魔法、回復、治癒魔法の効果と自分の魔力量を確認して

夕方にエイラートに戻ってきた。

 

 新しい神聖魔法のホーリの威力はさておいて、回復魔法も治癒魔法も上位になったことでその効果と威力は以前とは比べものにならないほど強力になっていて、また魔法の有効範囲も大幅に伸びている。そして消費される魔力はほとんど以前と変わらない。


 そうしてそのままギルドに顔を出し、ギルドマスターのリチャードにリズの新しいスキルの話をすると、


「リズまで大僧侶になっちまったのかよ」


 とびっくりしながらも


「これも大ニュースだ。グレイの時と同じ様にギルドから発表する」


 そうして数日後、大陸中のギルドから僧侶のスキルアップについて正式に発表があった。


 今まではアンデッドには火系の魔法というのが戦闘での常識だった中、アンデッドに有効な神聖魔法が存在したこと。そして回復、治癒魔法に更に上位のクラスが存在していたというのが判明したことは大陸中の冒険者に驚きをもって迎えられ、同時にその魔法を取得したのが元勇者でランクSの僧侶のリズ だというのも同時に大陸中に広まっていった。


 そして大賢者のグレイに続いて誰からともなくリズ のことを敬意を込めて聖僧侶と呼ぶ様になっていった。



「ちょうど冬場でエイラートに人が来ない季節でよかったな、リズ 。これ春になると教皇国はもちろん、大陸中の教会や貴族から使いが来るんじゃないの」


 暖房の効いた自宅のリビングでソファに座り隣に座っているリズ に話しかける。


「どうかしらね。でもこの街を出る気はないから。もしそういう話が来たとしても全部お断りするつもりよ」


 あっさりと言うリズ に


「いいのかよ?」


 そう言うと隣のグレイに寄りかかり、


「もしもの時はグレイの移動魔法でちょちょっと手伝いに行けばいいでしょ?

私はグレイと一緒にいられるこのエイラートの街が大好きだし、ここを動く気はないの」


 そしてグレイを見て


「だって私たち、傭兵でしょ?」


 と悪戯っぽく笑う。


「そうだ。俺たちは傭兵だ。どうしてもって時は俺がリズ を連れていけばいい話か」


「そう言うこと」



 アル・アイン王国はバンガール大陸の東から北にかけて国土をもっており、王国の北は高い山脈が東西に走っている。その向こうは未開の地だが噂では夏でも雪や氷が溶けない地と言われている。


 エイラートはこの王国の北部、北の山脈から遠くない場所にあり、街からは一年中、万年雪をかぶっている山脈が見えるが、冬にはその山脈から冷たい風が雪を運んでくるので降雪もあり、かなり冷える土地柄だ。


 一方夏でもそれほど暑くないので多くの人が避暑にやってくる。


 この厳しい冬の3ヶ月程は冒険者もほとんど街の外に出ず、蓄えのある者はのんびりと過ごし、金が足りない冒険者は市内の雪かきや警備をしてお金を稼いで冬を過ごすのが一般的だ。


 グレイとリズ は既に一生使い切れないほどのお金をそれぞれもっていたので冬場は庭での鍛錬を中心に身体を鍛えて、あとは雪の積もっていない南の森の中でランクAを相手にスキル上げをしている。


 庭に結界を張り、雪が積もらない様にして、その結界の中で毎日魔力の鍛錬、

素振りなどをし、体力の維持に努め、夜は酒場を開いていた。


 冬の間は酒場も休業しようかと思っていたのだが酒場に来る客達(ほとんどが冒険者だが)からは


「ここが閉まると行くところがなくなる」


「ここが俺たちのオアシスなんですよ、なんとかお願いします」


 と懇願され、まぁお客がいるならいいかという程度の気持ちで夜の酒場は続けていた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る