第17話 新しい領主 その1

「そういう訳で今このエイラートの街じゃあ誰が次の領主様としてこの街にやってくるのかという話しで持ちきりなのさ」


 珍しく夜にグレイの酒場に顔を出したギルマスのリチャードがカウンター越しに

グレイとリズに話かける。


「なるほど。まぁ俺たちは誰が領主になろうとも関係の無い話だけどな」


「そうね。税金が高くなったりしなければ誰が来ても何も変わらないわね」


 ギルマスのリチャードに酒を継ぎ足しながらリズが言う。


 グレイもリズ も次の領主が誰かというのは全く興味が無い話題だった。


 願わくば前の領主とは違って領民のことを考えてくれる領主であればいいと。そう思っている2人。


 ギルマスには言っていないが、今回の騒動が終わった際、二人は再度アル・アイン王国の国王と、メディナ教皇国の教王を訪ね、きちんとお礼を伝えていた。国王、そして教王からも


「これくらいお安い御用だ。気にするな」


 と暖かい声をかけていただき、またどちらの国王からも自分の国の王都、皇都に住んでくれんかと頼まれたが、それは丁重にお断りしてエイラートに戻ってきている。


 グレイとリズはここエイラートでスローライフが送れればそれで充分であり、以前の領主にもそうであったが、今度来る新しい領主にも自分達から積極的に関与していく気は全くなかった。


 もう勇者パーティの役目は終わった。これからはのんびり過ごしていきたいと思っている。


 実際は2人がそう思っていても、周囲の人達はそうは思っていないのだが… 

 


 ギルマスが酒場で話をしてから2ヶ月ほど経った頃、ここエイラートの街に新しい辺境領の領主となった貴族とその家族がやってきた。


 グレイとリズ はその時には日課になっている森の奥でのランクAの魔獣相手のスキル上げで街から出ていたので領主の歓迎パレードも見ず、その夜に酒場に来ていた冒険者達から今日新しい領主が来たことを聞いた。


「見た感じ随分と若い領主様に見えたよな」


「そうそう。お隣に座っている奥様も若くて綺麗だったわ」


 カウンターに座ってその時の様子を話す冒険者達の話を聞くともなく聞いていた二人の家に数日後、訪問客がやってきた。


 庭の門の外に馬車が止まり、エイラートの騎士団の制服を着た兵士が2名馬車から降りて家の門の外で案内を乞う。


 リズ が出て対応すると、


「新しい領主様が元勇者パーティのメンバーであったグレイ殿とリズ 殿にお会いしたいと申されておる。今から領主様の館に出向いては頂けないだろうか?」


「新しい領主様が。今から? ねぇグレイ、どうする?」


 後ろを振り返り、グレイに聞いてくるリズに、


「わざわざ呼びに来られたんだ。断る訳にはいかないだろう」


 そうして二人とも着替えるとそのまま騎士達が乗ってきた馬車に乗り込む。

元勇者と会いたいというのでグレイはもちろん賢者の装備だが、リズも神官ではなく僧侶のローブを身につけている。


 エイラートの通りを進み、馬車が貴族街の一番奥にある領主の屋敷につくと、開けられた扉から降りて騎士に続いて屋敷にはいり、前の領主と会った時と同じ廊下の突き当たりの大きな部屋の前に連れていかれた。


「グレイ殿とリズ 殿が来られました」

 

 扉の前で騎士が部屋に向かって言うと中から


「入って貰ってください」

 

 と直ぐに中から返事がする。


「中にどうぞ」


 開けられた扉の中に入った二人はそこに立っていた新しい領主を見て目を見開いてびっくりしてしまった。


 そして同時に声を出す。


「「エニス!!」」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る