第15話 人攫い その4


 貴族街の入り口には常時警備兵が常駐しているが事前に話しが通じていたのですぐにゲートを開けて一行は貴族街の中を進んでいった一番奥にある一番大きな屋敷の前で馬車を止めた。


 辺境領の領主の館は城の形こそしていないものの広大な土地に2階建ての建物が緩いV字の形に立っていて、向かって左側は辺境領での執務を行う棟になっていて、右側は辺境領主の住居になっている。


 馬車を降りると騎士2名が先に歩き、グレイとリズ は彼らの後ろを歩いて屋敷に入っていく。


「アル・アイン王国の王都から来た王家騎士団の副団長のロザリオだ。至急領主であるヒューロン=ウィルマー氏と面談したい」


 いきなり王家騎士団のナンバー2が辺境の都市にやってきたと聞いて屋敷の玄関で対応した執事は奥にすっ飛んでいくと、すぐに戻ってきて4人を屋敷の中の執務棟に案内していく。


 その廊下の一番奥、領主の執務室の扉を執事が開けると、そこには辺境領主のヒューロン=ウィルマーが立って一行を出迎えた。


「ようこそいらっしゃいました。突然で何のご準備もしておりませんが、どうぞ」


 広い執務室には会議ができる様に大きなテーブルと椅子があり、4人はその椅子に座る。


 4人に向かい合う形で領主のヒューロンが座り執事がお茶を置いて部屋から出ていくと、早速


「わざわざ王家騎士団の方が事前の連絡もなしにこのエイラートに来られた目的をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 ヒューロンの口調は丁寧だ。立場的には貴族の方が上になるが、目の前に座っている騎士2名は王家直属の騎士団、つまり王家の代表として来ていることになる。それを知っているので口調も自然と丁寧になる。


 そして騎士に並んで座っている元勇者のグレイとリズ がなぜ同席しているのか不明だ。


 理由がわからない不安な気持ちでヒューロンが騎士にお伺いを立てる。


 ヒューロンの問いに、一拍の間を置いてから騎士のロザリオが口を開き、


「急に面談を申し込んで申し訳ない。ただ、急がねばならない理由があったのでな。それを今から説明させてもらう」


 そういうとロザリオが一連の顛末を説明していく。


 エイラートの街で最近子供の人攫いが横行し、スラムを中心に十数名の子供がいなくなったこと。これを調査している中で子供たちがウィルマー家の次男が所有、管理している倉庫に匿われていることがわかり、そこを急襲し無事子供達を解放したこと。


 人攫いの行っていた組織がエイラートの裏社会のグループの1つで、その組織のトップを捕まえて尋問したところウィルマー家の次男から持ち込まれた話だということ。


 捕まえた裏社会のボスの話では辺境領の西のルサイル王国との国境近くで次男の知り合いが偶然ミスリル鉱山を発見し、それを闇開発するための人夫として身寄りのない子供を集めて欲しいと依頼を受けたこと。

 

 ロザリオが淡々と説明していくとヒューロンの顔色が真っ青になっていく。


「ま、まさか…」


 そういうと執事を呼び出して


「すぐにバンスを呼んできてくれ」


 しばらくすると執事と一緒にウィルマー家の次男のバンスが部屋に入ってきた。


 中にいる騎士やグレイ、リズ を見て一瞬目を開くが、直ぐに無表情になって領主の隣に座ると


「一体何事でしょうか? 仕事が溜まっていて私は非常に忙しいのですが」


 そう嘘ぶくバンスを4人がじっと見ると、


「父上、どうしたんです?」


 4人の視線から顔を逸らせて父親のヒューロンに向ける。


「お前、ミスリルの闇鉱山の開発目的でこの街のスラム街の子供達を攫っているのか?」

 

 強い口調で問いかけるヒューロンに


「藪から棒に何をおっしゃるのです?」


「ここに来ておられるのは王家直属の騎士団の方々とお前も知っている元勇者パーティのグレイとリズ だ。この方々とエイラートのギルド、警備隊が協力してお前が管理している倉庫から行方不明になっている子供達を助け出し、その倉庫を見張っていた裏社会のグループのボスを逮捕、尋問した結果お前が一枚噛んでいるのではないかと疑いを持たれて来られている」


 緊張で早口になっている父親の説明を黙って聞いていた次男のバンスは話を聞き終えると、


「馬鹿馬鹿しい。確かに私は街外れに倉庫を持ってはいますが最近全然出向いていませんし、暗黒街の連中との付き合いなんて全くありませんよ」


 それを聞いて騎士のロザリオが


「我々は暗黒街で今回の人攫いの実働部隊である連中を全て拘束した。そのグループのボスが今回の一連の動きは領主の次男の指示で行って、報酬ももらっていると

申しているのだが、違うというのだな?」


 そういうと父親のヒューロンが


「後でやってましたというと更に罪が重くなるんだぞ」


「もちろん知っていますよ。でもやっていないものはやっていないとしか言えませんな」


 平然と答える次男のバンス。


「それが最後の回答ということでよろしいか?」


 ロザリオの言葉に、バンスは即答で、


「結構です。神に誓ってそんなことはやってません」


 神に誓ってという言葉を聞いて騎士達そしてグレイとリズ も内心でニヤリとする。


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