第14話 人攫い その3


 ギルドを出ると隠蔽・浮遊魔法を同時に掛けてエイラートの街の上を飛びスラムに向かっていく。空から場所を探し、目的の場所を見つけると音もなくその建物の前に着地して姿を現すと、建物の前に立っている見張りの男たちがギョッとして


「な、何だよ、お前」


 グレイは答える代わりにそいつらにもスリプルの魔法をかけてその場で眠らせる。


 そうして自身に強化魔法をかけると無造作に扉を開けて建物の中に入っていく。


 扉が開く音に気付いてこちらに向かって来る連中を次々と眠らせて奥に進んでいくと廊下の突き当たりの奥から殺気が飛んでくるのがわかったが、グレイはその奥の扉を蹴破った。


 扉を蹴破ると同時に複数のボウガンの矢がグレイに飛んできたが、その全ての矢は強化魔法で弾かれ、部屋の床に落ちる。


 その部屋には大きなソファにふんぞりかえって座っているいる大男とその護衛の男が4人。大男がおそらくボスだろう。


 ボウガンの矢が全て弾かれ、床に落ちたのを信じられない目で見ている護衛を無視して、正面に座っている大男をじっと見るグレイ。


「大賢者、グレイ」


「ほう。俺の名前はここらでも有名なのか」


 グレイの名前を聞いて護衛の4人がその場で固まる。ボスの大男はソファに座ったままグレイを見ながら、


「あんたと奥さんには絶対に手を出すなと普段からきつく言っていたんだが、どっかで行き違いがあった様だな。うちの馬鹿があんたの店のみかじめ料でも集りに行ったのか?」


 その言葉にグレイは首を左右に振り、


「それならその場でそいつをのして終わりだ。今日は別件だよ」


 流石に暗黒街の黒社会の顔役の一人だ。内心はともかく、表面上は全く緊張していない様に見える。


「別件?」


「ああ。人攫いをとっ捕まえてくれと義理のある人に頼まれてな」


 人攫いと聞いてボスの表情が一変する。

 その顔をじっと見ながら、


「俺は自分でも聖人君子だなんて思ってないし、こういう黒社会も必要悪だってのも分かってる。ただな、何も知らない子供たちを攫うってのはいくらなんでもやりすぎだ」


 話ながらグレイから殺気が出てきたのを感じたボスは今までとは違って汗をかき、ソファに座っている身体をソワソワと動かし始めた。護衛の4人はグレイの殺気でその場で荒い息を吐き続けているが、グレイは涼しい顔でボスを見ながら話を続ける。


「そういう訳であんたには聞きたいことが沢山あるんだよ。あんたとあんたの後ろにいる奴についてもな」


「そこまで掴んでいるのか…」


 そう言うボスの言葉を最後まで聞かず、グレイはボスと4人にもスリプルをかけてその場で眠らせた。


 しばらくするとアジトの前に人が来た気配があり、すぐに警備兵が雪崩れ込んできた。


「全員寝かせてある。ボスはこいつの背後にいる奴の存在を認めたぞ」


 屋敷の中の連中に縄をかけていく警備兵の責任者に説明すると、


「わかった。一旦警備詰所に連れて行ってそこで尋問するよ」


「ボスが吐いたら教えてくれ」


 グレイは一旦ギルドに戻ると、そこにはギルマス、リズと騎士の格好をしている2人の男性がグレイを待っていた。

 

 その騎士の服装はエイラートの騎士のそれではないが、見る人が見たら、それがどこの所属の騎士かはすぐにわかるだろう。


「ボスは捕まえた。今警備兵が尋問しているだろう」


「わかった。こちらはいつでも行ける」


 騎士の一人がグレイに答える。


「わざわざ悪いな」


「いや、気にするな。本来有ってはいけない事案だ。今回の件は”あのお方”も相当お怒りだ。ここできつくやると他の貴族にもいい牽制、見せしめになるだろう」


「なるほど」


「グレイ、私も一緒に行ってもいい?」


 リズ がグレイに近づいてきて言うと、


「ああ。一緒に頼む」


「それにしても凄い手を考えたよな、グレイ」


 グレイと騎士のやりとりを聞いていたギルマスが呆れた口調で言う。


「持ってるコネは最大限使わないとな。”あの人”は勇者パーティでの俺の立ち位置をちゃんと理解してくれていたし。公平でいいお方だよ」


「そうだとしてもよ、いきなり行くってのはな」


 ギルマスが呆れた口調で言うと、騎士の一人がギルマスに、


「グレイ殿とリズ 殿には大陸に多大な貢献をして頂いている。”あのお方”は今でも時々、「彼らは元気にしているのだろうか?」

と仰っていたから、今回お二人が来たことを大層喜んでおられて我々に全面的に協力する様にと直接指示を与えられた。もちろん我々にも何の不満もない。先ほど申した通り、これが契機となって貴族の規律が律せられるのなら”あのお方”にとっても良い話だしな」


「そりゃそうだけどよ、こんな大技、グレイとリズくらいしか出来ないぜ」


 そんな話をしているとギルドの扉が開いてボスを尋問していた警備兵の責任者が入ってきた。


「奴が全て吐いた。もっと抵抗するかと思ったがペラペラとしゃべりだしたよ。相当グレイにビビってたぜ」


 そう言ってボスから聞き出した内容をその場にいるグレイら関係者に説明していく。


 黙って聞いていた騎士、ギルマス、そしてグレイとリズ 。説明を終えると、騎士が


「その闇鉱山については王都に戻り次第すぐにこちらから調査団を派遣しよう。ひょっとしたらもう何名か人が連れ込まれてるかもしれん」


「そうだな。王都から出してもらった方が迫力が違うしな」


 ギルマスのリチャードが騎士の言葉に続けて言うと


「じゃあ、行くか」


 というグレイの言葉をきっかけに、グレイ、リズ 、そして騎士2名の4人がギルドから馬車に乗ってエイラートの街中を貴族街に向かって進んでいった。

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