第13話 人攫い その2
その後ギルマスのリチャードと細かい打ち合わせをしてグレイが家に戻るとリズ は既に戻っていた。リズ にギルドでの話し合いの内容を説明し、
「そういう訳だから俺がちょっと行ってくる」
「グレイしか適任者はいないわね。気をつけてね」
グレイは頷くと、
「それで、教会の方はどうだった?」
「人攫いの話は噂として聞いていたみたいだけどそれ以上の情報はなかったわ」
大した情報がなくてごめんなさいと謝るリズの肩を大丈夫、大丈夫とポンポンと叩き、
「リズ は当日はギルマスと一緒に行動してくれ。万が一体調が優れない子供がいたら治療が必要になるかもしれないから」
「そうね。わかった」
「それと…子供を助けた後だけど、万が一領主が口封じで知らぬ存ぜぬで逃げようとした場合にどうするかなんだけどさ」
「黒社会の誘拐団のボスはグレイが捕まえるつもりなんでしょ?」
当然とグレイも頷き、
「そうだけど、黒社会の連中が自白したとしても、それを次男坊が認めないって事も考えられるだろう?」
「相手は貴族だしね。こんなのバレたらお家取り壊しになるから必死で抵抗するかもね」
「そこでだ」
そう言ってグレイは自分のアイデアをリズ に説明していく。黙って説明を聴き終えたリズ は
「いい案だと思う。相変わらず考え方が豪快よね」
「そうか。リズ に褒められたら自信が出たよ」
「いつもグレイの立てる作戦は間違いが無いって分かっているもの」
グレイを信用しているリズの言葉を聞いてこの作戦で行こうと決断する。
そうして翌日、リズ と二人でギルドを訪問し最終的な打ち合わせを行ったのち酒場の扉に
ー当分の間休業しますー
と紙を貼り付けると、二人の姿はエイラートの街から消えた。
そうして4日後、二人がエイラートに戻ってきた次の日の午後、グレイの姿は町外れにある倉庫群の中の1つの倉庫の近くにあった。
グレイが隠れている場所からそう遠く無い場所にはギルドが仕立てた馬車、警備兵、そしてギルマスとリズ が控えている。
グレイは自分に隠蔽魔法をかけると、そのまま浮遊し、空中から目指す倉庫に向かう。倉庫の周囲を一回りし、入り口の門のところにだけ見張りが2名手持ち無沙汰で立っているのを確認すると姿を消したまま近づいてスリプルの魔法で二人を眠らせた。
グレイが合図を出すと、すぐに警備兵が近寄ってきてその2名を連れ去っていく。
そうして再び浮遊すると今度は倉庫の屋根に音もなく着地すると屋根の近くにある窓ガラスを外してそこから倉庫の中に侵入して中を見てみる。
(いたいた。子供たちは無事みたいだ)
広い倉庫の奥に十数名の子供たちが押し込められておりその周りには柄の悪そうな男が4名、椅子に座って雑談をしている。
グレイはゆっくり降下すると、その4名に次々とスリプルの魔法をかけて眠らせる
一人が倒れる様に眠り、他の3人がびっくりして椅子から立ち上がった時にはその3人も同じ様に床の上に倒れ込んでしまう。
見張りを全員眠らせるとグレイは姿を現し、
「よし、もう大丈夫だ。みんなこっちにおいで」
倉庫の扉を開けると、それが合図だったように倉庫群の間から馬車が2台近寄ってきた。
「中の4人も眠らせてる。子供たちは見た限りだと傷もない様だが一応治療を頼む」
「わかった。よくやってくれた」
グレイの言葉に警備兵やギルマスが倉庫の中に入ってきて子供たちを連れ出し、見張りの男には縄をかけて拘束していく。
それを見ながら
「さすがに警備兵だ。手際がいいな」
「グレイが寝かせてくれてるからな、こっちも楽だよ」
リズ は馬車に乗せた子供たちの状態を見ながら必要な子供に治癒魔法をかけている。今日は神官の格好でいるので、子供たちも教会の神官だと外見から分かって安心するだろうという配慮からだ。
ギルマスと警備兵が拘束した6名の犯罪者の目を覚めさせると個別に尋問していく様子を離れた場所から見ていたグレイ。
すぐに警備兵がグレイに近づいてきて、
「アジトが分かった」
とスラムの地図をグレイに渡す。
地図を受け取ると、移動魔法であっという間にエイラートのギルドに着くと、そこに控えていた別働隊のメンバーにアジトの地図を渡し、
「すぐに出かけよう。一気にカタをつける。俺は先に出向いてくる」
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