第12話 人攫い その1
オロチ討伐のあとしばらくはグレイとリズ には傭兵としての仕事の依頼はなく、二人は昼間は自己鍛錬のスキル上げ、夜は酒場と普段通りの日々を過ごしていた。
「最近子供が消えているって話、知ってます?」
今日も満席のグレイの酒場で一人の冒険者が話かけてくる。
「なんだそれ?人攫いか?リズ は知ってた?」
「ううん、今初めて聞いた。多いの?」
リズ に聞かれた冒険者は、一緒に来ている隣の男と顔を見合わせ、
「貧民窟の方の子供ばかりらしいんですけど、あそこって身寄りのいない子供が多いでしょ?それと衛兵も貧民窟での出来事ってことで本気で捜査してないみたいで詳しいことはわからないんですけど」
「貧民窟だろうがどこだろうか人攫いは立派な犯罪だぜ?」
「もちろん。それで街の4カ所の城門にいる警備兵も街から出る馬車は1台1台調べているらしいんですが見つかってないんですよね。だからまだこの街のどこかに監禁されているんじゃないかって噂です」
「…黒社会の奴らが奴隷目的でやってると?」
グレイの言葉に頷く冒険者
「でも、奴隷はもう何年も前に大陸中で禁止されたはず」
「何かあるんだろう」
リズ の疑問にグレイが答え、冒険者を見て
「ギルマスは知ってるのか?」
「ええ。ギルドとしてどうするか…なんて話してるのを聞いたことがありますから」
「そうか」
そこでこの話は打ち切りとなった。
その後店を閉めて家に帰ったあとのリズ との話で、ギルドが動いているのであれば今はこちらが勝手に動かない方がいいだろうということにした。
翌日、リズ は何か情報があるかもしれないと教会に出向き、グレイはギルドを訪れていた。ギルドに入ると、グレイを見つけた受付嬢が
「グレイさん、ちょうどよかった。ギルマスからグレイさんを呼んできてくれと
言われたばかりだったんです」
そう言ってグレイをギルドの奥のギルマスの執務室に案内する。
「ちょうど今お前さんを呼びに誰か使いに出そうかと思ってたところなんだよ」
ソファに座るなり話しかけるリチャード
「人攫いの件か?」
「聞いてるのか?」
ギルマスのリチャードが警戒した様な顔つきでグレイに聞いてくる。
「ちょうど昨日、俺の酒場にきていた冒険者が話してたところだ」
「そういうことか。実はその件だ」
リチャードの説明によると、ここ1ヶ月ほどの間に貧民窟の子供を中心に
10名以上の子供が行方不明になっている。
孤児院の院長から話を受けたエイラートの警備隊が調査を開始したがなかなか調査が捗っていない。
警備隊は城門の警備を強化して、エイラートから出ていく馬車は全て荷台を調べているが子供の姿は見つからず、恐らくまだこのエイラートのどこかに監禁されているのではないかと見ている。
そしてエイラートの街は広く、警備隊では広いエリアを探索できないので、非公式にギルドに協力要請が来た。
「なるほど、事情は分かった。それでギルドとしてはどうするんだ?」
「実は数名の冒険者を指名して内密で調査を開始させた」
「ほう。で、どんな具合なんだい?」
グレイの問いに難しい顔をするリチャード。しばらく黙ってからおもむろに口を開いて
「調査の中間結果は俺の手元に来ているが、どうやらこの人攫い、ただの暗黒街の黒社会の奴らだけの仕業じゃないみたいでな。裏に黒幕がいる様なんだよ」
「なら、その黒幕ごととっ捕まえたら済む話じゃないのか?」
「それがな…」
といつもと違って歯切れの悪いギルマス。じっとグレイを見つめて、
「ここから先はあくまで調査をした冒険者と俺との話し合いの中での推測だが、
その黒幕ってのが領主がらみなんだよ」
「なんだって?」
思わず身を乗り出したグレイを手で制し、
「領主がらみって言っても領主じゃない、領主の次男坊が絡んでいる様なんだ」
「なるほど。それであんたの歯切れが悪いんだな」
グレイは納得してギルマスの顔を見る。
「そうだ。次男坊とは言え相手は貴族だ。恐らく領主は次男坊がこんなことをしてるというのは知らないと思うが、知ったらどう出るか、読めないんだよ」
「徹底的に口封じに出る可能性もあるってことか」
「その通りだ。証拠をもみ消すくらい、領主になったら難しいことではなからな。だから調査を依頼した冒険者にはこれ以上の調査不要と仕事を終わらせた」
グレイはギルマスの言葉に頷き、
「いい判断だな。彼らにとばっちりがいったら可哀想だ」
「そっちはそれでいいとして、問題は攫われている子供達をどうやって探し出して救出するかなんだよ」
「場所の見当はついてるのか?」
「次男坊が街の中に持っている倉庫の1つ。普段は滅多に人がいない倉庫なんだが、そこが最近人の出入りが多いってことまで突き止めた。もっとも、その倉庫が怪しいと調べていくと倉庫の持ち主が次男坊だってのが分かったんだがな」
「一時的にその倉庫の中に閉じ込められている可能性が高いと見てるんだな」
「そのとおり。ただ、倉庫は昼も夜も複数の見張りが立っていて中を確認することができないんだよ」
そこまで聞くとグレイは腹を括って、
「分かった。まず俺がその倉庫に行って子供たちを救い出してくる。暗黒街の奴らと領主の次男坊への対応はその次に考えよう」
グレイの言葉を聞いてギルマスはホッとした表情で
「正直お前しか頼れるのがいなくてな」
「隠蔽・消音の魔法、浮遊・飛行の魔法があるからな。何人警備してても関係ないさ」
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