第10話 大賢者の実力
その日の夕方、オロチが出たと報告があった村に到着した一行はそのまま村長から説明を受けた。
「腐った土地はここから東に1時間程行った場所です。土地が腐ってからわしらは行っていないので詳しい事はわかりませんが、今日はもう遅いのでこの村に泊まってってください」
村人の好意に甘え、村に泊まった翌日、馬車で東に移動していくと
「腐敗臭がしてきてる」
「近いな」
間も無く馬車が止まり、皆降りて前を見る。そこには土地が真っ黒になって草木一本生えてない場所が広がっていた。
「想像以上だな」
「しかもこの腐敗、ゆっくりとだが広がってるぞ」
近くを見ると確かにゆっくりとだが、腐敗の範囲が広がって来ているのがわかる。オロチがこの近くで活動している証拠だ。
「早速やろう。リズ 。頼む」
「じゃあマリー、やりましょう」
そう言って腐敗している土地に向かって二人で神聖魔法を唱えると、杖の先から光が飛び出して腐敗している土地に降りかかっていく。
マリーの神聖魔法でも一部浄化されて少しずつ綺麗になっていくが浄化範囲と威力はリズの方が圧倒的に広くて強い。
マリーはリズ の神聖魔法を見て心底驚いていた。
(これがランクSの僧侶の神聖魔法なの?私と浄化範囲が全然違うし浄化効果も凄い)
二人が浄化魔法をかけたのを見て、
「リズ とマリーはそのまま頼む。二人とも無理するなよ。魔力が欠乏する前にきちんと休憩を取るか、MPポーションを飲んでしっかりと回復するんだ。他は俺と行くぞ」
グレイが先頭に立って腐敗した土地を迂回しながら森に向かって歩き出した。
森に入ると一同を止めて、
「ちょっと見てくる」
そう言うと浮遊・飛行魔法でその場から真上に上昇していく。
「すげぇ、あれが賢者の魔法か」
「詠唱してない。無詠唱だ」
他の冒険者はその場から真上に上がっていくグレイを感嘆の眼差しで見ている。
グレイは垂直に上がると高所から森を探り、そのままゆっくり飛行して探索する。
(いるな。全部で3体か。バラバラにいる今がチャンスだ)
体長が7、8メートルはあろう白い大蛇を3体見つけると他の冒険者が待つ場所に戻り、
「見つけた。3体いる。ちょうどバラバラにいるから今がチャンスだ。俺が魔法をぶつけてここまで引っ張ってくる。シモンズ、オロチが見えたら挑発スキルでタゲを取ってくれ。近づいてきたら盾で全身を隠すんだ。吐息を浴びない様に注意してくれ」
「わかった」
「ホセとシオンはシモンズが挑発して、俺が最初に精霊魔法を撃つから、すぐに二人も氷系の精霊魔法を顔の後ろにぶつける。トムとブレインはこの2本の太い木の後ろに隠れて俺が合図したら首を切り落としてくれ。それまでは待機で。いいか?」
「「おっけー」」
作戦が決まり、戦士のトムとブレインはオロチを呼び出す通り道の左右の大きな木に隠れホセとシオンも戦士と同じ木の陰にそれぞれ身を隠した。シモンズが通り道に通せんぼする格好で立つと、
「よし。じゃあ1体づつおびき寄せてくる」
グレイは再び空に上がると一番近い場所にいるオロチに空から近づいていき、空中で浮遊しながら氷系の精霊魔法を威力を落としてオロチの頭に打ち込む。
オロチが雄叫びを上げ、首を上げてグレイを見つけると胴体を地面に擦り付けながらグレイに近づいていく。
グレイはオロチと距離を取り、仲間が待つ方にオロチを誘導していき、時折精霊魔法をぶつけて少しでもHPを削る。
そうして視界にシモンズが見えると、
「今だ、シモンズ」
その声でシモンズがナイト特有の挑発スキルを始動させると、オロチのタゲがグレイからシモンズに移り、シモンズに向かって首を突き出して地面を這うオロチ。
その動きをじっと見ていたグレイは浮遊したまま氷系の精霊魔法を今度は手加減なしでオロチの頭に撃つ!
強烈な精霊魔法が着弾し、首を上げたまま凍りついてしまったオロチにホセとシオンの精霊魔法が着弾する。そのタイミングで
「トム、ブレイン!」
その声で木陰から戦士が飛び出して氷で固まっている頭の後ろに斧を振り下ろした
その時既にグレイは火系の精霊魔法を撃っていて、斧が氷ごと切り裂き、裂けた首の後ろに強力な火系の魔法が着弾し、オロチはその場で激しく暴れたかと思うと頭を地面に落として絶命した。
「すげぇ、滅茶苦茶な威力だ」
「ああ。氷、火と連続であの威力の魔法を無詠唱なんて凄すぎる」
ホセとシオンが感心してると
「ほらっ、次呼んでくるから、今の手順で倒すぞ」
そう言うと再び高く浮遊して2体目のオロチをおびき出してくるグレイ。
そうやって2体目、3体目も同じ戦法でオロチを倒すと、
「俺は他にいないか見てくる」
再び高く浮遊して森をぐるっと探索するがオロチはもうおらず、見えるのはランクCやランクB程度の小物ばかりだった。
「いなかった。3体だけの様だ」
「これ、どうします?」
シモンズが倒れている3体を指差して聞いてくるが
「とりあえず持って帰るか」
そう言って無造作に3体のオロチをアイテムボックスの中に放り込んだグレイ
「なんかもう凄すぎて言葉が出ない」
「全くだ。ランクSの高位冒険者って桁違いに強いんだな」
グレイの仕事を見ていた周囲のランクAの冒険者達は、大賢者の能力を見せつけられて呆然とするしかなかった。
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