第7話 リズ

「満員は嬉しいがここまでとはな」


 この日も遅くまで冒険者達が来て、酒を飲み、大賢者グレイと話をし、ようやく帰って行ったのは日付が変わる直前だった。


 グレイはいつも通りに客が帰ったテーブルの上のグラスを片付け、店じまいをしていると、扉が開く音が聞こえたので、扉に背を向けたまま


「もう閉めるんですが…」

 

 そう言って振り返って扉を見ると、そこにいたのは…


「リズ 」


「えへへ。来ちゃった」


 勇者パーティで僧侶としてパーティに貢献し、解散後はメディナ教皇国の神官として仕えている筈のリズが扉を閉めてそこに立っている。


 以前と変わらないヘアスタイル。グレイと同じ金色の髪、肩下までの長さの金髪を頭の後ろで結んで1つにして垂らせている。誰が見ても美人と言える美貌。スタイルも以前と同じで外見上は全く変わっていない。


「いや。えへへじゃないだろう? どうしたんだよ。まぁ座れよ」


「いい?」


「いいって最初からその気だろ? ちょっと待ってろ、店を閉めてくる」


 札を「CLOSED」にして扉を閉めるとカウンター中央の椅子に座ったリズ の前に立ち、


「で、どうしたんだよ? メディナで神官してるんじゃなかったのかい?」


 リズ は神官の正装ではなく、パーティの時に着ていた僧侶の姿で、座った席の後ろの壁にいつも使っていた杖を立てかけると、


「神官はしていたんだけど、辞めてきちゃった」

 

 グレイはアングリと口を開けて、


「辞めて来ちゃったって。それありなのか?」


「うん。グレイが大賢者になったってニュースを聞いていても立ってもいられなくなって、私たち神官の上の位にいる大神官の神女さんに今からグレイのところに行くって言ったら、行ってらっしゃい、幸せになるのよ。って言われたの」


 涼しい顔で言うリズ 。


「ちょっと待て」


グレイが言いかけるのを手で制し、


「ううん。待たない。私だって幸せになりたいの。グレイは私じゃ嫌なの?」


 突然の女性からのプロポーズに戸惑うグレイだがパーティ中で一緒に活動していた時からリズの様な女性と結婚したいと思っていたのは事実で、


…まさかこういう形でリズからやって来るとは思ってもみなかったが…


「嫌じゃない。そりゃ全然嫌じゃないよ」


 グレイがそう言うと微笑んだリズ 。


「じゃあ決まりね。今日から一緒に住むから」


 にこりと微笑んだリズはそう言うと自分から荷物を持ち、グレイと一緒に奥の

自宅に入っていって、


「綺麗なお家、お風呂もキッチンもあるしリビングも庭も広いわね。2人なら十分じゃない」


 そうやって押し切られる形でリズが家に来てそのままなし崩しに2人で寝室のベッドで並んで寝ているときに、


「リズってそんなに積極的な女性だったっけ?」


 グレイが仰向けに寝て天井を見ながら言うとそのグレイに寄り添って、


「本当は違うの。でもこのチャンスを逃したらずっと後悔すると思って。王都でパーティ解散したときも、私もグレイと一緒にどこかに行きたいと思ってたんだけど、メディナ教皇国から神官に誘われて、それで誰にも言わなかったんだけど、神官はするけど2年勤めたら後は自由にさせてくれっていう条件にしてもらったの」


「そうだったのか」


「で、神官になって既に2年以上経ってたから大手を振って辞めてきたって訳」


 リズ からそこまで思われていたと知り、寄り添ってきたリズ を抱き寄せ、


「わかった。この街は辺境でいろいろ大変だけどこれからもよろしくな」


「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


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