第4話 スローライフ開始


 リチャードがそう言った2日後、再びギルドを訪れたグレイに、リチャードは2件の場所を紹介した。


 1軒目の場所は大通りから少し入ったところにある場所で、元々は小さなレストランをしていたらしい。キッチンもあるが、グレイには大きすぎて断ると、2軒目に連れていくギルマス。


 大通りから路地を入った突き当たりにある一軒家風の建物。


 元々家主が道楽でバーを始めたが場所柄か全く客が来ず、そのうちに年をとって維持できなくなり売りに出ていた物件だ。


 グレイは2軒目を見るなり


「ここにしよう」


「ここか?まぁ酒場に隣接している家はそこそこ広いし庭もある、風呂も水もあるし、地下室もある。住むには悪くないが、酒場としてやってけるのかよ? 場所が悪すぎないか?」


「いいんだよ、客が来なくても。元々道楽でやろうとしてるんだから。それに10人も入れば満席になるっていうこじんまりとしたところが希望だったんだ」


「まぁ、お前さんがそう言うのならそれでいいんだが」


 家の代金を払うためにギルドに戻ったグレイとリチャードは執務室で家の代金を支払い、契約書にサインをし、


「これであの家はグレイのものだ。酒場をする登録はギルドで代行してやっておいてやるよ」


「悪いな」


「お前さん達には世話になったからこれくらい平気さ」


 そう言うとギルマスのリチャードはソファの向かいに座っているグレイを見て


「そこで一つ俺から相談があるんだがいいか?」


 頷くグレイ


「まずお前さんの冒険者登録はそのままにしておくぞ。ランクSの賢者のままだ。冒険者を辞める気はないだろう?」


「そうだな。スキル上げをするつもりだし。所属だけこのエイラートに変更しておいてくれ」


「わかった。その手続きもこっちでしておく」


 そう言ってからグレイを見て、


「お前さん傭兵をやらないか?」


「傭兵?」


「そうだ。魔王は退治されたとはいえこの辺境領にはまだまだそれなりに強い魔物がうじゃうじゃいる。基本はこの街の冒険者達で魔獣討伐やら商人の護衛をしているが、彼らだけでは立ち行かない事が起きたり、突発的な事態が発生した時には傭兵として元勇者パーティのお前の手を借りよういう訳さ。正直ランクSの冒険者なんてお前達勇者パーティくらいだしなそのメンバーがこの街にいるなら利用しない手はないだろ?傭兵扱いだからギルドのクエストを定期的に処理する必要もないぜ」


 そこまで言うと一旦言葉を切ってテーブルの上にあるジュースを飲むと、続けて、


「それにお前さんも訓練だけじゃなくてある程度実践をした方がスキル上げになるんじゃないの?」


 ニヤリとしてグレイを見るギルマス。


「痛いところを突いてくるな」


「それだけグレイを買ってるって思ってくれよ」


「ギルマスにそこまで言われるのなら断れないな」


「助かる。普段は酒場の親父でもスキル上げでも好きにしてくれ。お前さんの力が必要になった時にギルドを手伝ってくれりゃあいい。もちろん傭兵としての報酬もギルドから出す」


 そう言ってから


「グレイが金に困ってるとは思わないがな」


 ボソッと言うが、


「いやいやそん時は傭兵代はがっつり請求させてもらうぜ」


 そうしてグレイはエイラートで酒場をやりながらギルドの傭兵として辺境領でスローライフな生活を始めた。



 グレイの住んでいる一軒家は1階が酒場で、奥のドアを開けると住居に続いており、広めのリビングとキッチン、そして浴室がある。リビングの前に広がる庭も十分な広さだ。


 リビングに隣接して酒場の入り口とは別に自宅の玄関があり、庭を通じて外に出られる様になっている。


 2階は2部屋あってそれぞれ寝室になっている


 キッチンの横には地下に降りる階段があり地下室は1階とほぼ同じ大きさで、倉庫として十分使える広さがある。

 

 グレイはこの家に引っ越すと、アイテムボックスに収納していて今はもう使わなくなった大量の杖や防具をきれいに片付けた地下室の中に並べていった。

 

 朝起きると顔を洗い、そして庭で身体をしっかり動かし、魔力を全身に行き渡せる鍛錬を時間をかけてたっぷりと行う。


 それから賢者の装備になると家を出て城門から外に出てエイラート周辺の森の奥に入っていき、そこにいる魔獣に対して精霊魔法を撃って魔獣を討伐しながらスキル上げを行っていた。


 街の周辺の魔獣はランクC、D程度だが森の奥に入っていくとランクB,時にはランクAも現れてきてグレイはもっぱらランクAを対象にスキル上げをしている。


 夕方に戻ると、倒した魔石をギルドに持ち込み換金し、自宅に戻って酒場の準備をして夕方6時から真夜中まで酒場の営業をするというのがエイラートでのグレイのルーティンになっていった。


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