第1話 葬式
気がつくと、自分がもうひとり目の前にいた。
自分の顔には白い布が被せられており、必然的に私の脳裏に一つの単語が浮かぶ。
「…死んだ?」
答えてくれる人はいない。すすり泣く声が聞こえてあたりを見渡すと、一番優しくしてくれた親戚のお姉さんが私の写真を抱いていた。黒いリボンが写真が入った額にぶら下がり、心なしか写真の中の私も不気味に見えてくる。あ、友達も来た。号泣してくれてる。
それで、葬式だった。
予想はしていた。もう息苦しさがいつもの比じゃないことが最近多くなってきていたし、いつかの朝から記憶がぷっつり途絶えている。だが実際死んでみると幽霊はいないし葬式もほぼないに等しかった。
「…死ねば葬式費用ぐらいは出して貰えると思ってたけど…」
あの両親は、今どこで何をしているのだろうか。もしかしたら片方は、知らないところで知らないうちに恨まれて死んでいるかもしれない。あるいは天罰が下ってどこかで物乞いをしているか。…まあ実際は、今も神のように酒を呑んでいるのだろうけど。
俯いてしばらく眠るようにしていると、かつ、という音とともに私の葬式にもう一人何者かが現れた。何者か、というぐらい見覚えがない彼の瞳は、赤みがかっているように見えた。
彼は違和感だった。目の色と馴染みすぎている面立ち、こんなイケメンが知り合いなはずない。
「…選択肢がある」
もう死んだのだからと顔をじっと見ていると、彼は突然そう言い、私と目を合わせた。思わずえっ、とたじろぐが、すぐ冷静になると違和感の正体に気が付いた。
「…私が見えてる…?」
それに、お姉さんも友人も彼という存在にちっとも反応していない。…人間じゃない?まさか、さっき幽霊がいないって言ったから出てきたとか。
彼は私から目を離さない。遠くからは赤みがかって見えた瞳は、天鵞絨だとはっきりわかる距離で、私を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます