オレはついに、推しを見つけた!

 姉ちゃんのお腹の子に感じたあの気持ちは、間違いなくいつもオレが推しに対して感じている気持ちで。


 でも、いつもは二次元のイケメンにしか感じない気持ちで。


 わけがわからなくなったオレは、この日は夕飯も食べずにそのまま寝た。





 真夜中、オレの部屋に誰かが入ってきた。


「蓮、寝てる……?」


 雪也だ。


 彼の低めの澄んだ声を聞いた途端、オレの身体が、ぶわっと熱くなる。

 心臓のあたりがきゅんきゅん、どきどきして、このまま抱きしめてくれたらいいなって。


 ……ん?


 雪也って、誰だ……?


「雪也……もう寝ろよ」


「蓮といっしょに寝るよ」


「もう高校生なのに、いっしょに寝るのか?」


「もう高校生だから、いっしょに寝たいんだよ」


 雪也はBL漫画にありそうなセリフを言うと、部屋の電気をつけて、オレの布団の上にのしかかって……。


 なにこれ、オレ、雪也にキスされんの?


 このまま襲われるの……?


 オレの目の前には、裕也さんによく似た、姉ちゃんの面影もある整った顔。


 オレの好みドストライクの顔だ。


「雪也、近い……」


「ねぇ、蓮。ちゅーしていい?」


 ちゅー、されたいです。


 されたいけど。


「……ちゅーはさすがに、恥ずかしい……」


「恥ずかしいの?いつもあんなにえっちな漫画、読んでるのに?」


 雪也の指で唇をふにふにされて、あらぬところに血液が集まってくる。


 どうしよう、このまま雪也に抱かれたい。


 めちゃくちゃにされたい。


 ……オレは攻めのはずなのに。


 雪也を抱こうと思うどころか、内股をもじもじさせるしかできないなんて。

 灯夜と翔太の言うとおり、オレは受けだったのか……?


「で、電気を!電気を消してくれ!」


「やだよ?蓮の顔、見れなくなるし」


「オレの顔なんてそう大したものじゃないよ!?フツーの顔だよ!?平凡だよ!?」


「俺にとっては特別だよ」


 そう言って雪也はオレの上着を脱がせると、その下に着ていた裏起毛のジャージのファスナーを下ろしていく。


 こんなシチュエーションで、ジャージだよ。


 色気の欠片もない。恥ずかしすぎる。


 これ、きっと女子の言う【ブラとパンツの色がバラバラ】とか【こんな日に限ってベージュの下着】とかと同じ恥ずかしさだよ。


「ゆ、雪也……オレ……」


「どうしたの?ぎゅーする?」


「……する」


 雪也はそっとオレをベッドに横たわらせ、優しく抱きしめて、髪を撫でた。

 そうやってオレの気を散らしながら、今度は下に履いているジャージも脱がせて……。





 朝起きたら、オレのパンツはお察しの通り。


 隠れて洗ってから、洗濯機にぶち込んで、部屋に戻ってベッドに飛び込む。


 すごい夢を見てしまった。


「……雪也」


 雪也は、裕也さんと姉ちゃんの顔のいいとこ取りをした完璧なイケメンだった。

 ということは、言うまでもなく雪也は……。


「オレの、甥っ子……」


 あのときの情動は、紛れもなく本物だったのだ。


「オレはついに……推しを、見つけたんだ……!」


 ベッドの上でじたばた、ごろごろ悶えながら、爆発しそうなほど萌え滾る感情をどうにか逃がそうとするも、溢れ返る感情は逃げるどころかどんどん身体の中に溜まっていく。


 ダメ押しに、姉ちゃんにもL●NEで甥っ子の名前を確認してみると。


《蓮:姉ちゃん、雪也、どう?》


《白雪:あれ?なんで蓮ちゃん、赤ちゃんの名付け候補知ってるの?まだ教えてないのに》


《蓮:夢に出てきた》


《白雪:正夢かな》


 あの夢が、本当に正夢なのだと真実味を帯びてくる。


 けれど、雪也がオレの推しだったとして。


「まだ産まれてないから、会えないんだよな……」


 オレの推しがまだ産まれてない。


 これは由々しき事態である。


「しかも夢に出てきた雪也くらい大きくなるのに15年くらいだろ……?となると、実際にオレが雪也に抱かれるのも……」


 オレが30歳になった頃か。


 気が遠くなる。


「それに、雪也に抱かれるためには……裕也さんを攻略しないと……!」


 難攻不落の裕也さんを攻略するには、どうすればいいのか。


 全く勝ち筋が見えない。


 どんな切り口で攻めようと、オレのメンタルがバッキバキに折られる未来しか想像がつかないのだ。


「姉ちゃんは、なんて言うかな……」


 姉ちゃんは、最初からオレが姉ちゃんたちの子どもと結婚したがる気がすると言っていたくらいだ。

 そこまで驚きはしない、だろうか。


「……今は考えても仕方ないな。推しは推せるときに推せ、だ」


 とにかく、今は萌えよう。


 そして悶えよう。


 まずは、甥っ子に出会えるその日を楽しみに。

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