オレが受けになるなんてありえない!

 春アニメが終わり、夏アニメが始まり出した頃だが。

 オレは未だに、推しには出会えていない。


「オレはもう、ダメかもしれない……いや、ダメだ。断言しよう、オレの心のチ●コは死んだ!」


「チ●コが死んだなら、受けになればいい」


 翔太の言うことにも一理ある。が。


「オレが受けはないわー。ほら、オレってどう見ても攻めだろ?」


「どう見ても」


「受けでしかない」


 なるほど、受け攻めの解釈違いだ。

 よろしい、ならば戦争だ。


「……受けじゃねーし」


「そういうとこが受けなんだよ。本当の攻めは、お前は受けだと言われても動じずに『じゃあお前ら、俺のこと抱けんの?』ってにやにやするぞ。な、灯夜?」


「そうそう。『……受けじゃねーし』は『オレは受けです!』って言ってるようなものだよ?」


「じゃあお前ら、オレのこと抱けんの?」


「「抱ける」」


 こんなのあんまりだ。

 抗議してやろう。そう思ったとき。


「あ、L●NEきた」


「誰?」


「姉ちゃん」


 どうしたんだろう。

 なんの気無しに、L●NEを開いてみると。


《白雪:妊娠してました!》


「ふぁっ!?」


「どうした?」


「ね、姉ちゃんが……!」


 姉ちゃんが、妊娠してた。

 それはもちろん喜ばしいことで、嬉しくもあるし、お腹の赤ちゃんが男の子なのか女の子なのか気になる気持ちもある。


 だが、それ以上に……。


 妊娠ネタは美味しい。

 人によって好みは分かれるとは思うけれど、世の中のBLには男性が妊娠するというネタもあったりする。


 その妄想には、もってこいなのでは?


《蓮:おめでとう!》


《白雪:ありがとう》


《蓮:これからも妊娠の経過を詳しく頼む》


《白雪:まさか……これもBL妄想のネタになるのか……!?》


《蓮:バレたか。男性妊娠の参考にしようと思ってな》


《白雪:男性がどうやって妊娠するんだ……》


《蓮:んー、ひとえに男性妊娠といってもいろんな種類があるからな。例えば通常のどうやって妊娠したのかわからない男性妊娠、それからオメガバース、あと、変わったのでいうと、》


《白雪:ストップ!蓮ちゃんストップ!》


《蓮:なんだよ、姉ちゃんが聞いたのに》


《白雪:私にはディープすぎる世界だから、やめとく。それじゃ、私は出かけてくる》


 姉ちゃんとのL●NEを終えて、灯夜たちに向き直ると。


「白雪さん妊娠したんだ?おめでとう」


「おめでとう。蓮も、もうすぐ叔父さんだな」


「ありがと。この歳で『おじさん』って響きもちょっと複雑だけどな」


 別に中年という意味の『おじさん』ではないのに、どうしても語感からそっちの『おじさん』を連想してしまう。


「あ、そうだ。おじさんといえばモブおじさんなんだけど『男娼になった皇帝を買いに行くモブおじさんシリーズ』っていう異世界モノのBL漫画があって……」


「男娼になった皇帝を攻める話か……いいな。高貴で高飛車な元皇帝を抱きながらプライドを折る系の話、好きだな」


 皇帝ともあろう位の高い人間が、男娼というえっちなことをされるための男になってしまうというだけでも滾るのに、なんとその元皇帝を攻めるのは何人もの汚いモブおじさんなのだ。

 こんなの、元皇帝のメンタルが保つはずがない。

 元皇帝の壊れていく様子なんてのが見られたら、もう最高である。


「蓮。実はね、このシリーズ……どれだけ読み手が攻め視点で読もうと、いつの間にか皇帝に感情移入しちゃう仕様になってるんだ」


「ふーん。それってどういうこと?」


「受けとして、自分がどんなプレイをされたいか、されたくないか。それが実感としてわかっちゃうってこと」


 それは、気になる。

 知りたくないけれど、気になってしまう。



 学校帰りに、灯夜の家に寄って『男娼になった皇帝を買いに行くモブおじさんシリーズ』を読んでみた。


 オレは何があっても攻めだ。

 それだけは譲れない。だから、受けの気持ちにはなれないだろう。

 そう思って読んだのに、オレはだんだん皇帝に感情移入して……。


「どうだった?」


「……屈辱だった」


 受けになるというのは、こんなにも屈辱的なものなのかということを知ってしまった。

 男に抱かれるなんて、主導権を握られるなんて、本当に屈辱でしかない。


 このシリーズでは、皇帝を優しく抱く攻めもいるし、皇帝自身が望んで抱かれるシーンもあるのに。


 やっぱりオレには受け視点で物事を考えるのはムリなのだ。

 推しを探すにも、攻め視点で誰を抱きたいかに重点を置いた、今まで通りの探し方しかできないだろう。


 オレの心は生粋の攻めなのだと、今回のことで深く深く自覚した。

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