推しがいないなら、自力で作れ
そうだ、推しがいないなら作ればいい。
そう思い立ったオレは、ネトゲでセカンドキャラを作ることにした。
幸いにも今日は休日。
キャラメイクで悩む時間はたっぷりある。
「推し、か。オレの今までの傾向からいくと、ハマるのは断トツで黒髪が多いんだよな。あとは好みでいくと、ハッキリとした顔立ちで、王子様系で……背は高め、やや筋肉質、それから……」
五時間、悩みに悩んでパーツを調整しまくった結果。
画面の中には、オレの好みをこれでもかと注ぎ込んだイケメンがいた。
「よっし!」
あとはこのイケメンが動いてくれれば。
「いや、でも……この子……今気づいたけど、性格とか過去とかBLにできるCPとか、なんもなくね?」
動いてくれれば、それで推しが完成すると思った、けれど。
オレは浅はかだった。
なぜならこのイケメンは、今までにどうやって生きてきたのか、どんな人間関係があるのか、どんな人柄なのかが、全て空っぽなのだ。
「なんか……虚しくなってきた」
だって、これからオレが動かしたって、それはオレの思考から生まれた産物でしかない。
オレの求める推しは、オレの手を加えることなく、他の誰かがオレの萌えポイントのど真ん中を突くよう作り上げた、自立した存在として推しであるべきなのだ。
「絵柄もオレの好みじゃないしなぁ……」
やめた。
これは推しにはならない。
推しになりそうなナニカではあるものの、推しではないのだ。
「もう……オレの理想の推しを作るには……自作のCGモデルしかない……!」
幸いにも今日は休日。
まだまだ時間はある、これから3DCGソフトをダウンロードして、人体を形成して、せめて見た目だけでもPCの中に推しを降臨させてやる。
……はずだったが。
「……操作方法、なんもわかんね……」
ダウンロードした3DCGソフトを開けば、真ん中にポツンと立方体の浮かんだ、わけのわからない操作画面が現れた。
しかもソフトの言語は全て英語だ。
何もわからないまま試しに立方体の端っこを掴んで、引っ張って、ゆがんだ四角形ができたところで、オレの精神力は死んだ。
「……やめた。姉ちゃんたちに癒してもらお」
オレのやる気と根性なんて所詮こんなものなのである。
3DCGソフトを閉じてネトゲにログイン。
幸いにも今日は休日。
姉ちゃんも、その彼氏の裕也さんもログインしているはず。
《【レンティ】がログインしました》
《レンティ:やほー》
PCのキーボードで短い挨拶を打ち込む。
しばらくすると、姉ちゃんと裕也さんのキャラから返事が返ってきた。
《椿:お、レンちゃん》
《マリウス:レンさんこんにちは》
キャラ名は、姉ちゃんが【椿】で裕也さんが【マリウス】である。
姉ちゃんのキャラ名が椿なのは、本名が白雪であるため冬つながりで決まったらしい。
裕也さんのマリウスは、謎である。でもかっこいい。
《レンティ:もう、椿とマリウスさんとオレ、三人で結婚すればいいと思うんだ》
《マリウス:椿さんは渡しませんよ》
突然振った話題にもかかわらずこの即レス。
裕也さんは姉ちゃんのことになると、オレ相手でもこうなる。
姉ちゃんのことを愛しすぎているのだ。
オレにも、オレのことをここまで愛してくれる推しがほしい。
《レンティ:冗談だってば》
《椿:むしろレンちゃんは将来、私たちの子どもと結婚したがる気がする》
《マリウス:もし生まれたのが娘でしたら、例え相手が椿さんの弟だとしても決して渡しませんよ》
《レンティ:男の子なら……》
《マリウス:ダメです》
《レンティ:まぁまぁ、将来生まれる子が男の子でも女の子でも、年の差がありすぎるから貰わないって》
《マリウス:レンさん。私と椿さんの子を、貰えないと言うのですか?》
《レンティ:どうしろと!?》
わかるよ。貰われるのもイヤだけど、貰われないのも癪ってやつだよね。
《椿:もし娘が生まれたら、一生お嫁に行けないかもしれない……!》
《マリウス:もちろん行かせませんよ。彼氏など連れてこようものなら、その彼氏を完全論破してメンタルを叩き折ります。もちろん彼女だとしても容赦はしませんよ?》
ヤンデレパパかな?
まあ気持ちはわからんでもない。
オレだって、きっと将来子供ができたらそうするし。
《レンティ:裕也さんにメンタル折られるってわかってて挨拶に来るやつ、相当な勇者だよな》
《マリウス:勇者ですか。潰しがいがありますね》
魔王か。
でも、彼氏からしたらまさに彼女の父親はラスボスになるわけで。
おそらく各家庭によって、そのラスボスは強かったり大したことなかったりするのだろうけど。
裕也さんの場合、これ負けイベなんじゃね?と思うレベルで倒せないラスボスとして娘の彼氏もしくは彼女を追い返しまくるのだろう。
そう考えてみると、オレが裕也さんに立ち向かうというシチュエーションがずっと来ないだろうことに、大いに喜ぶべきだ。
《椿:あんまり潰すと娘が行き遅れちゃうよー》
《マリウス:行き遅れてもいいのです。嫁に行くよりマシです》
そういえば、先ほどまで推しを作ろうとしていたので気づいたことがある。
あのセカンドキャラ、何気に裕也さんの見た目にそっくりだった。
王子様系の顔立ちに、さらに言うなら長身で筋肉質。
あのセカンドキャラに丁寧な話し方をさせたら、まんま裕也さんになる。
となると、オレの推しってもしかして裕也さん?
いや、だが残念ながらオレは三次元の男性には興味がないのだ。
裕也さんが二次元のキャラだったら、推しになっていただろうに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます