中学三年生 春 2
五月に入り、蒸し暑くなってきた教室には、クーラーが効いていた。僕らの学校は今どきでは珍しくエアコンが常設してあった。夏の気配が、早くも訪れていた。校則で、五月から九月は生徒全員体操服登校が認められていた。
そして、僕らには二週間後にテストが控えていた。そのおかげか、夏が近づくことによってみんなの気が緩むことはなかった。
そんなある日、国語の授業で書かされた、感想文が先生によって発表された。発表されると言っても、先生がいいと思った数人の感想文が先生によって読み上げられるというだけのことで、そこに大した意味はなく、おもしろくない感想文でも、無理やり拍手をさせられるようなものだ。先生が感想文を読み上げていく。その中には僕の感想文があったのだが、別に嬉しいこともなかった。なぜなら毎度のことだからだ。石垣瑠璃に勝手に張り合って国語の勉強に力を入れていたからか、毎回の如く発表され、先生には褒められていた。けれど少し驚いたことに、楽しみにしていた、石垣瑠璃の感想文はいつまで経っても読み上げられることはなかった。
国語授業が終わり、荷物をまとめて、担任の先生の話を聞き、「さようなら」とあいさつをする。
手慣れた一連の動作を終え、席を立つ。すると、声をかけられた。
「君の文章すごい綺麗だね」凛と澄んだ声。彼女だ。
「ありがとう、じゃあね。石垣さん」早々に立ち去ろうとする僕の肩は彼女の手に捕まった。
「本は、好き?」
「…嫌いかな...」と言って黙り込んだ僕に呆れたように、
「そう」と吐き捨てて去っていった。
帰り道、自転車を漕ぎながら、鍋屋が大声で言った。
「お前さっき石垣さんと話してただろー?!」
「いや、話してだけど」冷めた声で答えた僕に、
「なんの話してたんだぁ?!告ったのか?!名前似てるからって親近感が湧いたのか?!」呆れた。こいつこんなにバカだったっけ。
「そんなわけないだろ。別に対した話してないよ」
「そうかよ!じゃあな!」ガッハッハっといつぞやのガキ大将みたいな笑い方をしながら、鍋屋は去っていった。正確には、僕らの家は違う方向なので、鍋屋が曲がっていっただけだ。
家々の窓に映る夕焼けがやけに綺麗に見えた。
青春の始まりは目覚めから @tig_12cm
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