第41話 盗撮

「やられた……」


 俺とゆず姉がキスしている場面を収めたスマホ画像を見せられ、俺は頭を抱えた。


「な、なあ、この綺麗な人誰なんだよ?」

「お前、その、北条さんと付き合ってなかったっけ?」


 クラスの友達が話し掛けてくる。


 好奇心で聞いてくる奴、心配してくれる奴、色々だった。

 そして女子達は、遠巻きに俺を眺めながらヒソヒソと話している。


「(ねえねえ、これって浮気してるってこと?)」

「(うーん……でもでも、北条さんと今日も一緒に登校してたよ?)」

「(本人知らないだけじゃないの?)」


 聞こえてるっつーの。


 まあとにかく。


「この画像の女の人は、遼の姉の柚希さん……俺や皐月はゆず姉って呼んでるんだけど、その人だよ。で、俺は浮気はしてねえ。俺は桜さん一筋だ」

「んなこと言ってもよお……その、なあ?」

「ああ……目の前にこれがあるとなあ……」


 そう言って、クラスメイトはもう一度スマホ画像を見せる。


「そもそも聞きたいんだけど、この画像、一体どうしたんだ?」

「ん? ああ、ほらクラスのRINEグループに流れてきてたんだけど」


 俺はスマホを取り出し、すぐにRINEを確認するが……俺のところには来てない。

 そりゃそうか、俺をあて先から外すに決まってる。


「で、一体誰が最初にRINEに流したんだ?」


 すると、友達は一斉に友達の一人を指差した。

 指を差された奴は、バツの悪そうな顔でおそるおそる手を挙げた。


「え、ええと……一応俺なんだけど……」

「お前、この画像どうしたんだよ!?」

「そ、それが……いきなりメールで送られてきて……ほ、ほら」


 そういって、ソイツは受信メールを見せた。


「このアドレスの奴、知り合いか?」

「い、いや、知らないアドレスだった」


 もう一度その受信メールを見ると……捨てアドかよ……。


「お前な……そんな知らない奴のメール開いて、ウイルス感染したらどうすんだよ。お前のスマホ、操られちまうぞ?」

「え、マ、マジ!?」


 ダメだ、コイツの頭が悪すぎて頭痛い。

 だが、明らかに俺に対して悪意のある奴の仕業だろうな。


 などと考えていると。


「凛太郎……残念だよ。凛太郎がそんなことする奴だったなんて……」


 遼が神妙な顔をしながらこちらに近づいてきた。


「昨日、姉さんから泣きながら相談されたよ。『既に凛ちゃんには彼女がいるのに、凛ちゃんにキスされた。どうすればいい?』って。凛太郎、ちゃんと説明してよ」


 遼は冷たい視線をこちらに向け、低い声で俺に詰問した。


 はあ……そういうことかよ。


「ゆず姉が何言ったか知らねえけど、俺には桜さんがいるのに、そんなクソみたいな真似する訳ないだろ」

「そんなの分からないだろ! 現に皐月にも浮気されてるんだ! お前だって浮気したっておかしくないだろ!」


 いつも物静かな遼が怒鳴りながら詰め寄るもんだから、クラス中が騒然となった。

 当然、席についていた皐月の耳にも届いていて、皐月の肩が震えているのが分かる。


「はあ? 何言ってんだ! 今は俺の話であって、皐月は関係ないだろ!」


 チッ、コイツと同じ土俵に上がるつもりはなかったのに、皐月を引き合いに出された所為でついこっちも怒鳴っちまった。


「フン! 一体僕の幼馴染達はどうなってるんだ! なんで僕達姉弟が、同じような屈辱を味合わないといけないんだよ……!」


 遼は悔しそうに唇を噛みしめ、今にも俺につかみ掛かろうとしたその時。


 ——キーンコーン。


 予鈴がなったので、遼は忌々し気に自分の席に戻った。

 他の奴等も、居心地が悪そうに戻って行く。


 とりあえず……次の休み時間に桜さんに相談、だな。


 ◇


 授業が終わり、俺は早速、皐月と一緒に桜さんの教室に行く。


 教室に入ると、桜さんのクラスメイト達から冷ややかな視線を送られた。

 はあ……噂ってのは早いもんだな。まあ、画像もあるし仕方ないか。


「桜さん」

「凛くん……やられたね」

「うん……まさか、あんなの撮ってる奴がいたなんて、な」

「ちょっと! 立花さん、これはどういうことですか!」


 ああ……今度は花崎さんか。


「今、ボクが凛くんと話してるんだから、奏音は割り込んでこないでよ」

「ですがっ! 桜、あなたはそれでいいんですか! あなたは裏切られたんですよ!?」

「何が?」

「何がって……」


 詰め寄る花崎さんに、桜さんは冷たい視線で睨むと、花崎さんは思わずたじろぐ。


「大体、奏音にボク達の何が分かるんだ! こんな画像があるからって、どうして凛くんがボクを裏切ったことになるのさ! ふざけないでよ!」

「なっ……!?」


 桜さんは怒りが爆発し、花崎さんを大声で怒鳴った。


「……桜、後で話があります……」

「ボクにはない」

「お願いですから……」

「……………………」


 ……話ができる雰囲気じゃないな……。


「桜さん、俺達も出直すよ」

「凛くん、ごめんね?」

「なんで桜さんが謝るのさ。これは俺の脇の甘さが問題なんだ」

「それはっ……ううん、その話はもうしたもんね」

「そういうこと。それじゃ、俺達は教室に戻るね」

「うん……」


 そう言って、俺と皐月は教室を出た。


「……凛太郎、いいの?」

「ああ。俺と桜さんの間に、何もやましいことはないからな」

「う、うん、それは分かってるけど……その、私はいいよ? 自業自得だから……だけど、凛太郎は……」

「皐月、大丈夫だ」


 そう言うと、俺は皐月の耳元でささやく。


「(この件、元々桜さんも分かってる。なにせ、桜さんは現場を目撃してるからな)」

「ええっ!?」

「(ばか、声がでかいよ)」

「(ご、ごめん……)」


 皐月は慌てて口元を押さえた。


「(つまり、俺は嵌められたんだよ。まあ、さすがにここまでされたんだ。俺も、いや、俺達も、もうタダで済ませる気はないさ)」

「(どうやって?)」

「(それはこれから考えるんだけど……)」


 そうなんだよな……まだ、アイツ等に対して有効な手立てがある訳じゃない。

 さて、どうするか……。


「(だったら! ……だったら、私にも協力させて)」


 すると、考え込んでいた俺に、皐月が意を決した表情で俺に協力を申し出た。

 だが……。


「(いいのか? その……一応はお前の……)」

「(うん。もう、私も遼に未練はないから……)」


 そう言って、皐月は少し俯いた。

 ……そこまで言わせたんだ。俺もその気持ち、受け取らないとな。


「(そうか……よし、分かった。じゃあ今日の放課後にでも喫茶店で打ち合わせしよう)」

「(うん!)」

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