第39話 謝罪
というわけで日曜日。
今日も俺は駅まで桜さんを迎えに来ている。
そして今の時刻は朝八時。うん、今日は二時間も早く着いちゃった。
や、だけどしょうがないよね。待ち遠しかったんだし、何といっても今日は、母さんは朝から仕事だし、理香も友達と遊びに行くって言ってたし!
そう! 今日は桜さんと俺の二人きりなんだ!
……ヤバイ、そう考えたら何だか緊張してきた。
そして待つこと一時間。
「凛くんおはよ!」
今日も元気に桜さんが一時間早くやってきた。
そして俺は恒例の桜さんのファッションチェック。
ふむふむ、今日は白のTシャツにデニムのオーバーオール、黄色のサボサンダルか。
うん、ありかなしかでいえば、突き抜けてありだな。
「うん、今日もカワイイ」
「ふああ!? もう!」
そうやって照れて俺の肩をぽかぽか叩く仕草も超カワイイ。
「さて、じゃあ行こうか」
「うん!」
俺は桜さんの手を握ろうとするとするりとかわされ、俺の腕に桜さんが巻き付いてきた!?
ちょ、それ!?
桜さんのお胸様が俺の腕に当たってるんですけど!?
さて、今日一日、俺の理性はもつんだろうか……。
◇
俺の家に着き、勉強を始めてからもう三時間が経過した。
その間、俺と桜さんには妙な緊張感があり、ほとんど会話できていなかった。
ちょ、ちょっと誰もいない時に俺の家はまずかったな……。
何というか、その、ご、誤解されても仕方ないというか。
と、とりあえずこの状況をなんとかしない……!
「そ、そろそろ休憩しよっか……」
「う、うん……そ、そだね……」
き、緊張する。
「え、ええと、お昼どうする?」
「あ、えと、よかったらボクが作ろうか?」
「え? いいの?」
「そ、それはもちろん!」
「じゃ、じゃあお願いします」
ということで、俺と桜さんは一階のリビングに向かう。
「ええと、冷蔵庫見てもいい?」
「どうぞどうぞ」
「じゃあ失礼します。ふむふむ……豚肉の細切れとネギと……うん。じゃあ作るから凛くんは待ってて」
「え? 俺も手伝うよ」
「いいからいいから、ゆっくりしててよ」
そう言って、桜さんにキッチンから追い出されてしまった。
ウーン仕方ない、久しぶりにソシャゲでもするか……。
そういえば、桜さんと付き合うようになってからほとんどやってないな。
まあ、寝る前とかは桜さんとRINEで毎日話してるから、そんな暇ないんだよな。というより、ソシャゲより桜さんとの会話の方が千倍楽しいし。
そんなことを考えながらしばらくソシャゲしてると、キッチンからいい匂いがしてきた。
お腹空いた。
「凛くんできたよ!」
「お、やった」
俺はスマホをズボンのポケットにしまい、急いで桜さんの元に行く。
「おお!」
「えへへ、今日のお昼はつけそうめんにしてみました」
す、すごい……ただのそうめんが、ひと手間かければ超美味そうになった!
「た、食べていい……?」
「もちろん! どうぞ召し上がれ!」
「で、では……いただきます!」
それからの俺は意識が飛んでいたかもしれない。
俺は一心不乱に桜さんが作ったつけそうめんを食べ続けていた。
「うまうま!」
「あはは、喜んでくれてよかった」
そして、あっという間に食べつくしてしまった。
「ふう、美味しかった……ごちそうさま!」
「おそまつさまでした」
「ああ……絶対桜さんいい奥さんになるよ……」
「ふああ!?」
ん? あれ? ……………………あ。
「ああああ、そ、その、や、だけど!?」
あああ!? 俺は何を口走ってるんだよ!
や、事実だけども! 絶対いい奥さんになるけども!
「あうう……そ、その……うん」
はう! 桜さんが顔真っ赤にしてモジモジしてる! ……カワイイし、結果オーライだな。
——ピンポーン。
? 誰か来た。
「宅配かなあ……ちょっと出てくる」
「あ、うん」
俺はインターホンのボタンを押すと、そこに写っていたのはゆず姉だった。
「ゆず姉……」
「そ、その、凛ちゃん、ちょっとだけ……いい?」
ゆず姉は少し俯き加減で、どこか思いつめたような表情をしていた。
そんな様子が気になってしまい、俺は玄関へ向かうと、ドアを開けた。
「ゆず姉……」
「あ、うん……」
「え、ええと……ど、どうしたの?」
「あの……この前はごめんなさい……私、どうかしてて……」
ゆず姉が俯きながら謝罪した。
「……その、どうして急にわざわざ家まで謝りに来たの?」
そう、俺にはゆず姉が家まで来た理由が分からなかった。
遼が引きこもってる間、一度だけゆず姉とすれ違ったことがあったけど、あの時は俺を避けるようにして立ち去ったんだから。
「うん……やっぱり凛ちゃんとこのままの状態でいたくないし、それにほら、遼もやっと立ち直って学校に行くようになったし……私も、前みたいに戻りたかったから……」
「…………………………」
何を言ってるんだ?
こんな状態にしたのはゆず姉と遼じゃないか。
それを遼が立ち直ったから関係を元通りにしたいって……。
「それはさすがに虫が良すぎじゃない? じゃあ何? 遼がまだ引きこもったままだったら、謝るつもりもなかったってこと?」
少しイラついた俺は、ゆず姉を責めるように言った。
「! そ、その! そうじゃなくて……あ、あの、私、私ね……!」
急に思いつめたような表情になると、ゆず姉が俺の腕をつかみ、引っ張った。
突然の出来事に俺はよろめいてしまい、そのまま玄関の外まで引っ張り出されてしまった。
そして。
「っ!?」
突然、ゆず姉にキスされた。
「ふ……ん……ちゅ……」
俺は慌ててゆず姉を引きはがし、後ずさりして距離を取った。
「な、何すんだよゆず姉!」
「き、急にごめん……その、も、もう帰るね……」
そう言って、ゆず姉は慌てて踵を返し、走り去っていった。
「な、何だったんだよ一体……」
俺は自分の口を袖でぐい、とぬぐう。
ゆず姉にキスされた事実を消し去りたくて。
「とにかく、中に戻ろう……」
そう呟いて、俺は後ろに振り返ると——
——そこには、今にも泣きだしそうな顔をした桜さんがいた。
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