第37話 悪辣
■遼視点
僕は立花凛太郎が嫌いだ。
最初の出会いは幼稚園の頃。
お弁当を忘れた凛太郎は、半べそをかいていた。
ちょうど先生が傍を通りかかったので、いいところを見せようと思って、僕は凛太郎にお弁当を分けてあげたんだ。
それがそもそもの間違いだったんだ。
それから凛太郎は僕になついて、いつも一緒にいるようになった。
小学校低学年くらいまでは良かったよ。
僕も凛太郎も幼かったし、一緒に遊ぶ男友達として、それなりに楽しかった。
だけど、小学四年生頃から、凛太郎は事あるごとに主張し始めたんだ。
まるで、自分がリーダーにでもなったかのように。
だから、僕は横取りしてやったんだ。
凛太郎が誰かの手助けをすれば、その手柄を。
凛太郎が失敗すれば、その尻ぬぐいをするふりを。
そのおかげで、僕は今の場所まで来れたんだ。
大人達からは優等生として扱われ、友人達からは頼られ、女の子達からは羨望のまなざしで見られた。
まあ、その分凛太郎はあまり目立たない、パッとしない男に成り下がったけど。
それも仕方ないよね。だって実際、凛太郎は優しいだけで他に取り柄がないんだから。
なのにさ。
凛太郎ときたら、皐月のことを好きになっちゃうんだもんね。
小学校の中でも一、二を争う皐月が、凛太郎になびくはずなんかないのに。
そのことに気づいた時、僕は思わず笑い転げそうになったよ。
だけど、僕は用心深いんだ。
だから、皐月には凛太郎がいない時に、僕は凛太郎がいかに何もない、つまらない人間かを吹き込んでやったんだ。
皐月もバカなんだろうね。
僕の話を全部鵜呑みにして、信じちゃうんだもん。
いや、違うか。
元々皐月は、僕のことが好きだったから僕を信じただけだ。
まあ、どっちでもいいんだけど。
そうやって順風満帆に小学校生活を送って、中学に進学した時、僕は一人の女の子に釘付けになった。
その子は眼鏡を掛けて、前髪で顔が隠れた目立たない女の子だったけど、ふとした拍子にその前髪から覗いた顔は、とても可愛らしくて、まさに僕に相応しい女の子だった。
僕は、その女の子をなんとしてでも自分のものにしたいと思った。
だから、その女の子と同じクラスの女子達に、適当に焚きつけて女の子をいじめるように仕向けたんだんだ。
そして、それを僕が救って、女の子は僕に絆されるって寸法だったんだけど。
あの日、その計画が狂った。
あろうことか、凛太郎の奴がその女の子がいじめられているのを見かねて、凛太郎がその子を救っちゃったんだ
しかもその後、職員室に怒鳴り込みまでして。
あんなことをされた所為で、僕の計画は台無し、いつもみたいに手柄を横取りしようにも、ここまで先生達に知れ渡っちゃった以上それもできない。
本当に腹立たしかったよ。
だからさ。
その仕返しに、皐月と付き合ってやったんだ。
その時の凛太郎の顔、最高だったよ。
無理に笑って、祝福したふりなんかして。
振り返って見たら、今にも泣きそうな顔をしてたのが、愉快で仕方なかった。
それから、凛太郎は僕達を避けるために、違う高校を選ぼうとしたんだけど、当然僕がそれを許すわけないよね。
僕にご執心の先生に凛太郎の志望校を聞き出して、僕も同じ高校を受けたよ。もちろん、皐月も一緒に受けさせた。
所詮凛太郎の知能で、僕の行けない高校なんてあるわけないし、問題なく合格したよ。
高校に入ってからも、これまでと変わらない。
僕は凛太郎から搾取し、凛太郎を絶望させる。
ああ、なんて楽しいんだろう。
後は、さっさと皐月と別れて、あの女の子……北条桜を手に入れるだけ。
ありがたいことに、北条桜も同じ高校に通っていた。
しかも、中学の時よりも、さらに綺麗になって。
好都合なことに、北条桜の親友の花崎奏音は、一年の夏にあった出来事のおかげで僕のことを好きになったみたいで、よく北条桜と一緒に僕のクラスに訪れていた。
だけど。
「いやー悪いね。遼は今用事があって、ちょっと話する余裕はないかな?」
「ちょっと! どうしてなのさ! 今普通に彼女と話してるじゃん!」
「だーかーらー! 忙しいんだって!」
「納得いかない!」
事あるごとに凛太郎が邪魔をして、北条桜と花崎奏音を僕に近づけさせない。
そして、いつも凛太郎は北条桜と言い争っていた。
はっきり言って気に食わないが、凛太郎が馬鹿だから北条桜が自分がいじめから救った女の子だって知らないことと、いつもケンカばかりで仲が進展する要素がないことから、それ以上は気に留めないようにした。
そして、凛太郎から皐月の浮気について告白された。
やっと解放された喜びで、思わず叫びそうになったけど、凛太郎の手前、一応は落ち込んだふりをしておかないと。
だけど、自分のことでもないのに、わざわざ落ち込んで、本当に……バカだよね。
おかげさまで僕は非常に助かってるけど。
ただ……その後の展開が予想外だった。
なんで凛太郎と、あの北条桜が一緒にいるんだ?
しかも、わざわざ一緒に僕の家まで来て、あげく北条桜は僕と姉を罵って帰って行った。
何しに来たんだよ! 僕への当てつけか!?
このままじゃ、せっかく皐月の所為にして別れられるのに、それも意味がなくなっちゃうじゃないか!
僕は、“駒”の一人に動向を探るようにお願いすると、“駒”からは嬉しそうに返事がきた。
本当に、扱いやすい“駒”だよ。
で、“駒”からは、皐月の浮気相手の彼女——中原先輩だったかな、その人が僕のクラスで浮気の事実をさらして、その浮気相手に三行半を突きつけたらしい。
ただ、なぜだか分からないけど、その中原先輩は皐月のことは晒さなかったらしいけど。
不思議に思っていると、まさかその皐月が僕の家に来た。
今までRINEを無視して返事しなくても、直接家に来ることはなかったのにね。
あれかな? このままじゃ僕と別れることになるって、焦ったのかな? まあ、別れるんだけど。
しかし、もう一人の“駒”に相手させたけど、門にまでしがみ付いてしつこかったよ。
だから僕は、「浮気がバレて、しかも浮気相手にも袖にされたから慌てて来たんだろうけど、僕はもう皐月に何の感情もない。二度と顔を見せるな」って言ってやったら、ふらふらとどこかに行ったけど。
だけど、これで僕は正式にフリーになったんだ!
いよいよ、北条桜の攻略に取り掛かれるんだ!。
なのに。
なのになのになのに!
何で……何で凛太郎が、北条桜と付き合ってるんだよ!
これじゃあ、全て台無しじゃないか!
そもそも、あんな男のどこがいいんだ!
普通は、僕を選ぶに決まってるじゃないか!
なんだって北条桜は僕を選ばないんだ!
どうする? どうすれば北条桜を凛太郎の奴から引き離せる?
僕の頭の中を、どす黒い感情がぐるぐると駆け巡る。
すると。
「そうか……そうだよ……何だ、簡単じゃないか……!」
これを、“悪魔のひらめき”とでも言うんだろうか。
分かれば単純な話だった。
だって。
「……凛太郎を“皐月”にして、北条桜を“僕”にすればいいんだよ……!」
そうと決まれば。
僕はポケットからスマホを取り出し、RINEを二通送る。
「さて……来週にはどうなってるかなあ。あはは、楽しみだなあ!」
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